ミャンマーへの投資規制、進出実務に関して
愛知県弁護士会でミャンマーを訪問し、司法制度の現状や進出している日系企業の直面する法的なトラブルなどを学んできた。備忘録代わりに、その成果をまとめる。なお、もちろん、実例等はほぼ伝聞に基づくものであり、聞き誤り・理解の誤りは私の責任である。
1 訴訟・執行・仲裁
基本的に民事訴訟制度はまだまだ未成熟な状態であるというのが実感だ。あるTownship Court(郡裁判所、日本の簡易裁判所に相当)の裁判官の話によれば、管内人口約18万人であるのに対し民事訴訟の新受件数は月間5件程度であるということだ。他方、刑事事件は月100件程度であるという。郡裁判所は訴額1000万チャット≒100万円以下を扱うので、ミャンマーの物価を考慮すれば相当高額な事件を扱うことができるのに、だ。民事保全法、執行法は一応存在するが、ほとんど使われることはないようである。
裁判所への信頼性ということでは、これも不正確極まりない情報とはいえ、汚職の問題はやはりそれなりに存在するようである。近時、最高裁が「汚職が発生することのないように」という旨の通達のようなものを発したということである。中国のように「執行難」(そもそも執行実務すら定着していないのだから「執行難」以前の問題だが)、「地方保護主義」のような問題があるかはうかがい知ることもできなかった。
紛争自体の数が人口比で仮にかなり少ないとしても、やはり相当数は民事訴訟によらず解決されているのであろう。ある裁判官によれば、第三者を間にたてて当事者同士で解決することもよく行われているということであった。民事訴訟制度への理解と信頼がまだまだ不足しているのであろうかと思われる。
仲裁に関しては、昨年ニューヨーク条約に正式に加盟はした。が、具体的な関連する国内法が未整備であるし、そもそも民事事件について上記のような実情であるとすれば、外国の仲裁判断の執行については当分はおぼつかないだろう。
2 外資による投資に関して
ミャンマーの外資投資規制を解説しだすとそれだけで3記事くらいにはなりそうなので、不正確を承知でかいつまんで記載する。
現状、ミャンマーに外資が進出するメジャーな方法は、政府機関の投資許可(MIC許可)を取得しないルートと、MIC許可を取得して行う方法と2つに分けられる。MIC許可を得るメリットをこれもざっくりと述べれば、①外国人(法人)は不動産を1年以上賃借できず、所有権も取得できないのが原則であるところ、MIC許可があれば長期(50年以上)の賃借が可能になる、②所得税の5年税制上の優遇措置が受けられるということが大きい。工場を賃貸する必要のある製造業者にとってはMIC許可が必須である。MIC許可を取得しないでも構わないのは、IT関係のアウトソーシングを行うような、大規模な不動産を必要としないサービス業になる。
製造業が進出しにくい理由としては、①水力発電に依存しすぎ、乾季にはかならず停電に見舞われ、生産停止を余儀なくされるというインフラ上のもの、②MIC許可の取得が容易でないという理由の二つが挙げられる。製造業で進出しやすいのは、電力でなく人力ミシンで代替できる縫製業がメインであるということだ。
この二つの問題が解決されるには、話題のティラワ工業地帯のような特別経済地域法という、外国投資法のような種々の法規の適用が除外される特別経済地域が完成することがネックとなる。ティラワでは専用の発電所を設け、停電の心配もなくなる。
なお、MIC許可を取得する際の問題については、「製造業では特にミャンマーの国益に資するものではないと容易ではない」というのが実情のようだ。ミャンマー資本との合弁を強制される主な事業には、飲料・食品系、プラスチック・ゴム製品系の事業があり、ミャンマー資本の最低出資割合は20%とされている。許可に関するいくつかの審査事例を現地の法律家に伺ったが、「法律の要件を満たしていればあまり出資比率など、合弁契約の内容をとやかくいわれることはない」というものと「業種によっては出資比率や合弁契約の内容などに意見を言われることもある」というものがあった。基本的に後者のように考えておくほうが無難だろうが、法律にも、通達のような形で明文化されてはいないようにしろ、一応基準らしきものはあるようではある。中国におけるの合弁契約や技術援助契約の「審査」は都市部では大分形式化してきたとはいえ、都市次第、担当者次第な面がなお残る点は否定できないであろう。それとの比較ではまだ安定していると言えるのかもしれない。
また、土地使用権の取得、官庁への対応、販路・仕入先確保などの問題から、合弁が強制されない事業であっても現時点ではミャンマー資本との合弁が現実的ではないか、という現地の法律家の意見があった。このあたり、十数年前の中国と状況が似ているように感じた。いまでこそ独資による進出のほうが有力であるが、ながらく中国では同様の観点から中国現地資本や、台湾資本との合弁が主流であった。
3 知的財産関係
技術援助契約という形での進出は見聞した限りでは乏しいように感じられた。
その原因として、成文の知的財産法としては1914年の著作権法しか存在せず、保護が薄いからだという意見もあったが、定かではない(現地法人設立等による進出にも同様の問題は残る)。なお特許、意匠、商標の登録システムは存在する。現地の知的財産法を得意とする弁護士の話によれば、その侵害が保護された事例もあるようだし、登録がなくとも、不正競争防止法が未制定であるにもかかわらず損害賠償等を認めた事例も現にはあるそうである。
いずれにせよ、知的財産法は現在立法作業中であるので、今後の動向に注目すべきことになろう。
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