会社法

2023年7月15日 (土)

令和5年司法試験会社法について

 民法に続いて会社法を見てみたましたが、改正に関する断り書きとか、小問ごとの独立性の高さなどは教科をまたいだ一つの傾向なのでしょうか。設問1でつまずいたらどうしようもなくなる受験生を救済しようということなのかもしれません。従来型でも設問ごとの独立性はあり、あまり問題はないと思うのですが。

 それで会社法の問題ですが、設問1は私の把握不足かもしれないですが、ちょっととらえどころがなく、任務懈怠やら因果関係への当てはめだけの問題に見えます。逆に設問2は知識がなくてもなんとかすることは不可能ではないかもしれませんが、近時の最高裁判決に対する基本的な知識がないとちょっと難しい問題だったかもしれません。

1 設問1
 民法と似ていて、小問1と2に分かれています。
(1) 小問1は、創業者兼一人株主である代取が個人的な隣人とのトラブルを解消するために、会社の資金で本来1000万円の土地を5000万円を購入した場合の、当該代取の対会社責任の成否を問うもの。代表訴訟前提で、当該株主は代取の娘婿で、問題の土地購入後に株式を取得したという前提になっているのと、上記土地購入時には会社の財務状態(厳密には資金繰り)に問題がなかったことを前提とせよ、とされています。
 任務懈怠(過失)、損害、因果関係と言った問題なのでしょうが、ちょっと出題の意図がよくわかりません。実質論的に、代取側であれば、「俺の会社だし、俺が自由に金をつかっても構わない。資金繰りに問題なく、会社債権者に損害を与えるような状況もない。別に当時役員報酬として会社から資金提供してしまえば全く問題にならないはずだ」という感じになるでしょう。娘婿側からすると、「役員報酬ならやむをえないかもしれないが、自分のような株主に影響を及ぼす危険性はあるわけだし、当時一人会社だからといって許されるわけではないだろう」という感じでしょうか。以上の生の主張を任務懈怠、損害、因果関係という問題に正しく整理して論じることになるのではないでしょうか。結論は例によってどっちでもいいと思います。ここが省かれているので、出題の意図からは外れるかもしれませんが、本当は代取が娘婿にどういう趣旨で、いくらで株を譲渡したかが問題だと思います。要するに土地の価値が1000万円しかない、4000万円の損失があることを前提に株を取得していたかどうかが実質論としてはカギと思われるのです。無償で株を譲渡されたり、5000万円の預金が減り1000万円の土地しかないバランスシートを前提に算定した株価で譲渡を受けていたのであれば、娘婿にとやかくいう資格はありません。もっとも、設問がこのあたりをぼかしているのは、代表訴訟は自己の利害とは理論的に無関係なので、将来の株主や将来の債権者(あるいは既存の債権者でも財務状態の悪化を受けう債権者)等全ての利害関係人のために代表訴訟を提起するものなだと論じて欲しいのかもしれません。結局上記実質論の対立もこの点に集約されると思われるからです。そういう出題趣旨ならもう少しわかりやすくしてくれてもいいのにとは思います。いずれにしても、配点は設問1の40のさらに半分の20と思われるので、あまり凝りすぎないで設問2に時間を書ける方が戦略としては正しいでしょう。
(2) 小問2は、本来1000万円の土地を5000万円を購入したところまでは一緒で、もともと財務状態が悪化した場合の債権者に対する返済原資として当てにしていた定期預金5000万円を解約して土地を購入していた、小問1と違って購入当時営業利益が減少していたが直ちに運転資金が枯渇する状況ではなかった、この購入がきっかけで債務超過になって事業継続不可能になった、という設定です。
  これも小問1と似たような感じがあるのですが、代取からしたら役員報酬で出しても一緒じゃないかとか、回収不能との因果関係は遠いだろう、そして何より「それじゃあ間接有限責任の意味がないよね」というところでしょう。債権者側からすれば「その購入されしなければ十分回収ができただろう」というところでしょうか。
 結論もどちらでもいいと思いますが、受験生的にはあっさり代取の責任を認める結論に走りそうで、その場合面白みのない答案になると思います。実際は裁判所が早々簡単に代取個人の責任を認めてくれるか、疑問なところではあります。もっとも、本件では代取が実質的に会社を犠牲に個人に4000万円の利益を移した結果回収不能となったわけで、比較的代取の責任を認めやすい事案ではあると思いますが。

2 設問2
 相続による準共有株と取締役選任決議が重ねてなされた場合の訴えの利益をふくめた処理を聞く問題です。例によって小問1と2に分かれています。
 (1) 小問1は、4万/6万の大株主たる創業者に相続が起こり、相続人2人間で権利行使者の指定も出来ていないという事例をベースにしています。前にいわゆる相続人の乱の問題が出たこともありますが、司法試験は株式の準共有問題が本当に好きですね。そもそも「割り切れないで困るだろ」という程度の理由で準共有にして、そのうえ権利行使者の指定を管理行為とやってしまった形式的処理から派生していろんな問題が起こる部分です。形式論からの演繹的結論と実質的妥当性に差異が生じやすいところで、そういう意味で試験の題材にしやすいのかもしれません。
   準共有株絡みの判例知識が整理されている事が必要でしょうね。
  ・ 上位のとおり、権利行使者の指定は管理行為として相続分に応じた持分の過半数で決定できる(最判平成9・1・28)
  ・ 権利行使者の指定・通知がない場合でも、単独株主権などは行使し得る場合がある(最判平成2・12・4)
  ・ 権利行使者指定未了の株式も定足数に含む
  ・ 会社が権利行使者以外の共有者の権利行使に同意したとしても、権利行使が民法の共有に関する規定に従ったものでない場合は、その権利行使は適法とはならない(以上2点について最判平成27・2・19)
   あとは、任期2年と取締役について、同一メンバーで既に2年後に再任の決議がされているので、原則として訴えの利益がなくなる(最判昭和45・4・2)
   以上を抑えておればそう難しい問題ではありません。
   どれかを知らなくても、4万/6万の大株主という大株主の共有株である前提になっていて、設問がわざわざ「原告適格及び訴えの利益の有無並びに本件訴えに係る請求が認められるか否か」を論ぜよとされているので、権利行使者指定未了の準共有株主が「株主等」にあたるかとか、2年経って訴えの利益がなくなってしまているのではないか、設問のBの同意はいかにも恣意的で認められるべきでないのでは、というような点から気づくことができる論点だとは思います。まあ、知っているに越したことはないでしょうけどね。
 (2) 小問2は、ちょっと事例を変えて、1回目の決議で選任されたBが2回目の株主総会を招集していて、2回目の決議では、共有株主が共に出席して議長の同意のもと議決権を行使して、一回目の決議で取締役に選任されてあB,C(従業員株主)が再任されず、共有株主一派が再任されたというものです。
   元ネタは、最判令和2年9月3日です。「事業協同組合の理事を選出する選挙(先行の選挙)の取消しを求める訴えの係属中に、後行の選挙が行われ、新たに理事又は監事が選出された場合であっても、理事を選出する先行の選挙を取り消す旨の判決が確定したときは、先行の選挙は初めから無効であったものとみなされるから、その選挙(先行の選挙)で選出された理事によって構成される理事会がした召集決定に基づき、同理事会で選出された代表理事が召集した総会において行われた新たに理事又は監事を選出する後行の選挙は、いわゆる全員出席総会においてされたなどの特段の事情がない限り、瑕疵があるものとなる。そして、上記の取消しを求める訴えと併合された訴えにおいて、後行の選挙について上記の瑕疵が主張されている場合には、理事を選出する先行の選挙が取り消されるべきものであるか否かが後行の選挙の効力の先決問題となり、その判断をすることが不可欠であって、先行の選挙の取消しを求める実益がある。」こう言っています。本件では全員出席総会というような特段の事情もないので、判例に従えば訴えの利益ありということになるでしょう。
   これもちょっと知らないときついのですが、設問は「訴えの利益」だけを聞いているので、そういう意味では迷わないように誘導をつけているのでしょう。小問1との比較で、全く同じ構成メンバーではなくて、そもそも2度目の会議を招集した代取がJという別人になっている設定なので、問題文の読み方が優れている人は、設問1との設定の違いに着目して「訴えの利益がある」と持っていくことは不可能ではないように思います。

| | コメント (0)

2022年5月14日 (土)

会社法339条2項の損害=残任期に得べかりし報酬という通説は破棄されるべき

1 前回記事の司法試験解説を書いていて、派生的にこの問題についてもう少し考えたいと思った。
 要するに、取締役の任期を最大10年とできるようになった会社法の下では、取締役解任の正当理由を従来の厳格な解釈を若干緩和することと、それに関連して会社法339条2項の損害=残任期に得べかりし報酬という通説を破棄して、正当理由の強弱その他の事情を考慮要素として柔軟に判断するという判断枠組みが妥当である、ということである。
 任期10年の取締役を例えば5年で解任する場合、正当理由がなければ、従来の通説を前提とすれば5年分の役員報酬を支払わなければならない。個別事情によるが、これではいかにも多額という印象になるだろう。また従来の通説を前提とすると、正当事由のあるなしで、この多額な損害を支払うべきか否かがオール・オア・ナッシングで決まることになる。これは実務感覚にもいかにもそぐわない。
 結局あるべき規律としては、正当理由の強弱とその他の事情(例えば報酬額とか、任期に関する会社及び取締役の期待)の相関関係によって損害額を柔軟に決定するというところであろう。もともと会社による解任の自由と取締役の任期に対する期待の保護の調和というのが339条2項の趣旨だという(例えば、江頭7版400頁)。基本的にこの趣旨にも沿う考え方であろう。
 なお、定款変更による任期短縮に伴う339条2項類推の場面の裁判例だが、東地平27年6月29日は残任期5年5ヶ月に対して2年分を損害とし、名地令1年10月31日は請求棄却だが控訴審で一定額を支払う旨の和解となっている。オール・オア・ナッシングよりは割合的解決をというのは実務感覚にあうのである。

2 前回記事の司法試験解説を書く際に、というか平成28年の司法試験解説(http://erlang.cocolog-nifty.com/blog/2016/05/post-f9a7.html)を書く際にも、「多分、会社法改正で最大10年に取締役の任期を延長する際に、残任期報酬という従来通説を前提とすると損害額が過大になるという問題が十分検討されていなかったのだろう」と思っていた。それで少し調べてみた。
 どうも平成17年の会社法改正の際は、そういう過大になるよという問題を十分に考慮して会社は取締役の任期を選択することが想定されていたということである(江頭「会社法制の現代化に関する要綱案の解説[Ⅱ]」商事法務1722号11頁。ただし、加藤貴仁「判批」リマークス2017上84頁からの孫引き)。理想論的にはそうかもしれないが、実際は公証役場のモデル(例えばhttps://www.koshonin.gr.jp/pdf/kaisya-teikan01_s_2021ex.pdf)で10年となっていたりするのを、果たしてどれほど中小企業がリスクを踏まえて選択しているかは疑問である。かくして339条2項の損害の範囲は、残任期全額ではなく相応に限定するという解釈が待たれると主張される(得津晶「判批」ジュリ1477号102)。上記東地が2年間という判断をしたのも、このあたりが参考にされたのだろう。
 余談だが、平成28年の司法試験解説を書いた際には平成27年東地の存在は知らなかったが、当時「閉鎖会社で、単独で過半数を有しているわけでもない取締役Aが任期8年間地位を守れる可能性は必ずしも高くない、支配権の変動に伴い解任される場合は予想されるなどと言って「半分」とか言い切ってしまう手はあるかもしれません。裁判所ならこういうドンブリな判断をしそうではあります。」とした通りの判断を東地が実際にしていることにニヤリとした。

3 正当理由は基本的に厳格に解する、例えば経営判断の失敗などは正当理由にあたらないというのが従来の通説的考えと思われる(例えば、江頭7版400頁)。ただ、任期の上限が10年と長くなったことを考えると、従来より正当理由を緩和する解釈が必要であることは否定できない。上記名地はあきらかに従来より正当理由を緩和している(片岡憲明「判批」CHUKYO LAWYER34号66頁)。こういう緩和は、正当理由の有無=損害賠償の要否=損害は残任期分の報酬、という図式の下、オール・オア・ナッシングの判断を余儀なくされ「どちらかというと支払わなくてもいい」というように利益衡量の針が傾いた結果だと推測される。正しくは高裁で和解したように、「正当理由が乏しい分、全額とはいわずとも部分的には支払ったらどうか」というような、割合的な解決が判決でも実現できなければならないと思う。
  東地が5年5ヶ月の残任期に対して2年としたのは「同様の月額報酬を得る蓋然性がある期間」というのが直接の判断根拠である。今年の司法試験問題のように、特定会社の出身取締役の任期は事実上4年という慣行があったとか、株主間契約等で任期に縛りがあったというような事案ではこの根拠は使いやすい。ただ、より直接には正当理由の強弱との相関関係で決まるとしないと、正当理由の問題と残任期の期待可能性の問題が分断されてしまうだろう。
 結局正当理由の強弱、任期に関する期待、報酬金額、就任経過(司法試験問題のように生活保障的なものだったか等々。但し任期に関する期待の考慮要素という位置づけかもしれない)を総合考慮して決めるとするのが一番妥当だろう。基準として不明確という批判はあるだろうが、立退料の算定のようにこういうドンブリな認定というのは現にいろんな場面であるし、避けられないものである。正当理由の強弱という問題と損害額の問題を相関的に論じないと、東地がそうであったように、本来考慮すべき要素が表面上は出てこなくなってしまうだろう。
 以上の考えは決して新しいものではなく、上記で引用した得津「判批」で期待されるとされていた新しい見解の一つである。

| | コメント (0)

2022年5月13日 (金)

令和4年新司法試験会社法(民事系第2問)について

 特殊なルートで問題文を入手したので、例によって速報記事にする。法務省ページには明日明後日くらいには掲載されると思う。
 
 今年の問題は実に単調だった。問題文の量は多いが、ほぼ各設問ごとに単論点に近く、かつ論点自体は単純でどちらかというとあてはめだけやればいいという感じの問題である。ちょっとこれで会社法の力量を的確に測れるのかな、という疑問がないではない。ただ、私の講義を受けている人は、問題文の読み方を中心としたあてはめ活動の充実、知らないが問題意識(聞かれていること)は明白な問題について、どう対応するかという部分でかなりのアドバンテージがあるタイプの問題であろう。

 横着して、設問の紹介は省略する。

1 設問1は、要するに定款では10年、慣行では4年の任期である取締役であったのに、1年に短縮する定款変更の株主総会決議によって2年で事実上解任されざるを得なかった取締役が、取締役解任について会社に対して損害賠償請求できるかという問題である。そもそも解任取締役は就任後2年しか経過していないので、再任の株主総会議案自体が違法議案かという問題は一応ある*が、基本的に定款変更による任期満了による退任の場合に会社法339条の類推できるかという論点である。
 これは身近な先輩弁護士が獲得した最近の判決を題材にしているような気がするので、あとでそれは調べる。それはともかくとして、もちろんそういう細かい裁判例を知っていることを前提にする問題ではないので、以下考え方を述べる。
 危ない論述、現場での思いつきは避けよというのが常々の私の指導である。実質論として、この件では残り2年分の役員報酬相当額の請求を認めるのが収まりがよいが、司法試験の答案であれば多少実質論として不当でもその点に触れつつも「法律上こうなっているからしかたない」とやるほうが安全だと言っている。その路線で行くと、こういうたぐいの実務慣行や株主間契約、会社と取締役の契約などは散見されると言ってよい。ただ、前にも別の問題の機会で書いたが、基本的にこれらが定款という形で会社を縛るルールとして明確でなければ定款違反と言うかたちで会社に対して拘束力を持たないと考えるのがあくまでも基本的なルールである。合弁契約等を扱う弁護士として、このあたりはしっかり注意しておかなければならない。というわけで、「定款に記載されていない以上会社に対して効力を有さない。あとは取締役と会社、あるいは代表取締役個人との債務不履行問題でしかない」とやるのが一つの極である。
 もちろんそうあっさりそうやってしまっては身も蓋もなく、点数も入らない。実際に裁判例がどうやっているのかは知らないが、解任取締役側の事情を考慮して、定款変更による場合も会社法339条を類推していく可能性はあるだろう。本問で考慮すべき事情というのは概ね次のとおりである。
  ・ 解任取締役は取引先会社出身の取締役枠で、長年(おそらく設立時から30年以上)、4年で退任するのが慣行であった(この辺は定款に記載されているのと同視できるほどに定着していると判断するのに特に重要であろう)
  ・ 代取単体で40%、平取の弟と長女で20%ずつの株式保有であり、上記慣行というのは大多数の株主の了解事項であり、仮に定款に記載していたとしても反対を受ける可能性は少ない(少数株主として従業員株主がいるが、その利益を重視する必要性に乏しい)
  ・ 取引先の当社に対する依存度は売上総利益の50%以上という関係性の深さ(資本関係はないが、取引先側、取引先側従業員としては当社の意向に逆らいにくい事情であると、しっかり評価まで答案に記載すべき)
  ・ 解任取締役は取引先で35年勤務した57歳で、60歳定年になるより取締役になって61歳まで取締役をやったほうが安定すると代取に誘われて役員になった。報酬月額40万円で他の収入はなかった
  ・ 解任取締役は代取ら取締役(家族)の経営方針に対立し、それがきっかけになって事実上の解任が起こっていること(任期1年に短縮の定款変更議案における代取の説明は「再任の機会を多くし緊張感を持たせる」というものだが、株主の80%が家族なので詭弁である。こういう評価もきちっと答案に書くとよい)。
 あとはどう料理するかだが、前記一つの極を持ち出して「原則として定款に記載がない場合類推適用を否定すべきである。ただ、慣行としての定着性、株主構成、取締役就任の経緯などを考慮して定款に記載されているのと同等またはそれに近いと評価される場合は例外的に類推を認めるべきである」とでも規範をたてて当てはめてやってもいい。その際に後ろ2つの事情はちょっと使いにくいが強引に書いてしまうか、類推否定方向で書くなら一応触れておいた上で「これらの事情は定款に記載とされているのと同等ということにプラスに働かない」と蹴ってしまうのが論理的にはスッキリする。
 設問では損害論も聞かれていて、常々指摘するように親切な誘導がなくとも損害論についてはしっかり論じるべきであるが、損害は残期間の役員報酬相当額ということで、定款による8年、慣行による2年かというところか。実質論としては慣行による2年が落ち着きがいいので、類推を否定するなら「仮に類推されたとしても定款記載と同視できるのは4年だから、4年まで」とやるのがいいだろう。
  * 2年経過時の定時総会に①選任後1年を任期とし、選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終の総会で任期満了と定款変更をし、②直ちに全取締役の再任議案を出したところ、解任取締役は再任について否決されたというもの。①の効力が決議時点で生じたとすると、たしかに②も適法に思える。ただ、他の取締役はちょうど定款による10年の改選期にあたるという設定にしていて、解任取締役だけ①の効力が問題となる設定としてあるので、あっさり適法と論じてしまうのが出題者の意図にかなうかはよくわからない。が、どのみち類推の議論をしっかりやれば十二分に合格点である。

 ※ ここまで書いてから、さすがに気になったので例の先輩弁護士の裁判例(名古屋地判令和元年10月31日)を参照した。要するに類推の可否については明確な判断を避けながら、「原告は JA の理事を3年で退任することにより,JA 職員の定年より前に収入を失うことになる救済のために,報酬のある被告の取締役及び代表取締役に就任したものであり,その地位は,原告に収入を得させるためのもの,即ち生活保障のために与えられた地位であったといえる…原告は, 7年近く被告の取締役の地位にあり,その在任中,4700万円を超える報酬を得ており,生活保障としては十分な金銭を得ている」などと述べてどのみち解任に正当理由があるとしたのである。これを知っていれば、もともとの60歳の定年まであと1年であることを「十分」とするか、「まだ足りない」とする評価もありうるのだろう。なお、公刊物にも記載されていることであるが、高裁では一部支払いを命じる和解が成立したとのことで、実質論としてはよい収まり具合だと感じる。

2 設問2は要するに低廉価格で事業譲渡を行った取締役の会社に対する責任の有無を問うものであり、ほぼほぼ経営判断原則の当てはめの問題である*。前提に簡単に触れたうえで、経営判断原則の適用を認めるのに積極的な事情と消極的な事情をあまさず指摘し、的確な当てはめを行えば結論はどちらでもいいだろう。
 事案を大雑把に言えば、大分経営が悪化している事業で、事業の貸借対照表でいえば純資産2000万円、仮にDDを行っていれば1000万円と算定されたはずの事業を4000万円で譲渡したことに関する責任の問題である。譲渡元が親会社(60%保有)で、譲渡先役員が「さっさと譲渡しないと取締役に再任しないぞ」と親会社代取に言われたので、DDの必要性を認識しながらも行わなかったという事情がある。
 <積極方向の事情>
 ・ 業績の悪化が急速。10ヶ月で純資産8000万から2000万に減少(主に資産が減少)
 ・ 銀行借り入れ3000万円について、4ヶ月前が履行期限でありながら今も返済できていない
 ・ 銀行出身の取締役が、弁護士の意見を求めた上で、その弁護士の回答内容(本件はDD行うべき)を伝えてDDを求めた
 ・ 取引価格4000万円という、一般的な意味での多額取引であること(100万円のものを買うのとは違う)
 ・ (その他一応DDの有用性、必要性、実務上よく行われていること等)
 <消極方向の事情>
 ・ 譲渡元は譲渡先の株式60%を保有する親会社かつ譲渡先の売上50%は譲渡元に対するもので、依存度が高い
 ・ 譲渡元代取=親会社代取が当該役員に対し、迅速に進めないと再任はないと言われた
 ・ 譲渡事業は譲渡元の主要ブランドで、1ヶ月で交渉まとまらないなら別の譲渡先を探す、法的整理も検討すると同じく親会社代取に急かされていた
 どう考えるのがいいだろうか。おそらく個人的には裁判所は経営判断のワク内というと思うが、参考になるのは例のアパマンショップ最高裁だろうか。1万円のものを5万円で買っても出資払戻しの性格もあるしとして責任を認めなかったというやつである。すこしかっこよく?するなら、積極方向の事情を指摘して「やはり問題は大きい。これだけなら経営判断のワクを外れ、一般的には経営判断のワク外である。ただ、消極側の事情があり、この個別事情を考えると本件ではギリギリ経営判断のワク内と考えるか、仮に任務懈怠が客観的に認められるとしても過失がない」とでもやる感じだろうか。大昔の問題にもあったように、積極方向の事情と消極方向の位置づけはわざと別次元のものにしているのかなとも思う。消極方向の事情は経営判断の問題というより、どちらかというと期待可能性というか、過失に近い問題かなと。例の任務懈怠と過失の一元論か二元論という理論的対立に深入りする必要はないが、一種の期待可能性不存在のような判断で法令違反を認めながら過失がないとした野村損失補填事件の最高裁を意識するといい。私なら誤引用にならない限りでアパマンと野村最判は触れるだろう。
 * なお、譲渡元が譲渡先60%の株式を保有する親会社なので、一応利益供与該当性も問題になるかもしれない。が、おそらくそれをメインで聞きたい問題ではないだろう。株主の権利行使との関係性が薄いとみられる事案設定なので、そのことを指摘して利益供与該当性を否定しておけば足りると思われる。
 で、設問1と同じで、特に責任を否定する場合も損害についてしっかり論じるべきである(露骨に問題文は「損害に関する主張を含む」と指定している)。単純には実際の価値1000万と4000万の差額の3000万となりそうだが、バカ高いDD費用の損益相殺はあっていいと思うし、あるいはダスキン事件であったような損害の割合的因果関係のような議論も可能だろう。えいやで、この問題は代取が悪くて、いわば脅された担当取締役は半分でいい、というような考え方である。

3 設問3は要するに事業譲渡にともなう商号続用者の責任を聞くものである。
 譲渡元は化粧品等製造会社でPBの生産のようなことをやっていたという設定で、例えば譲渡元をかりにカネボウと考えれば「カネボウスタイル」みたいな社名付き商標で日用品の生産をして、特定のドラッグストアに卸していたというような設定と想像するとイメージが付きやすいかもしれない。その「カネボウスタイル」製造事業を譲渡して、「カネボウスタイル」の商標を使用し、譲渡先の経営するスーパーの看板にも複数掲げて、ネットでも「カネボウスタイルが新たに生まれ変わり、当店で扱うことになりました」と宣伝していた等々。なお、債権者は銀行である。
 商号そのものでないから、類推の問題になるのはいいとして、ここでは商号続用者の責任の性質論についてはそれなりに論じた方がいいような気がする。一種の外観法理という通説的な性質の説明だと、銀行が運営主体を誤認するわけがあるまいという結論に親和的で、企業財産の担保力も考慮しているという方向だと、誤認の有無にかかわらず責任を認める方向につながるからである。結論はどちらでもいいが、肯定方向の諸事情、特に会社名付きの商標であることについて十分配慮しつつ、かつ企業財産の担保力という説明も相応に合理性があるが登記・通知がある場合に免責されることを説明できないなどしっかり批判も書いておいて、銀行だし誤認はないよね、とやるだけでまあ十分合格点だろう。

| | コメント (0)

2020年8月14日 (金)

令和2年司法試験会社法(民事系第2問)について

 今年はちょうどお盆休みの実施で、私はお盆休みはありませんが、それでも仕事には多少なりとも余裕もあり、某所より昨日実施されたばかりの問題を入手したので、記事にします。

1 この速報解説の趣旨、位置づけ
 一応なぜ毎年こんなことをやっているのか整理しておく。
 (1) 自分の司法試験感覚の維持
 一応ロースクールで会社法を教えているわけで、理念的にはローの授業の目的は試験合格のためではないとしても、受講者のニーズとしては間違いなくあるわけで、受講者のニーズ=受講者の上るべき山を常に捉えておきたいというところである。また、試験対策としては、①知識理解と②現場戦略の2本立てで、①②のウエイトが同等くらいなのに、一般に①にしか目が向かないから②をしっかり対策すれば楽に合格できるという持論を確認・証明する意味にもなる。
 (2) 本音の司法試験問題解説の欠如に対する疑問や義憤
 この解説は学者でもなく、日頃会社法の勉強をめちゃくちゃにしているわけでもない(どちらかと言えば受験生の方が確実にしているだろう)自分が、しかし上記②の現場戦略には長けているという特徴を踏まえつつ、受験生とほぼ等身大の思考順序や手順を示すということを趣旨にしている。明らかに変なことを書いてはだめなので、手元の基本書や軽くネット上でパッと手に入るような情報程度を参照することはあっても、基本的に他の解説などは一切見ていないし(出てもいない)、それゆえ論点落としも時にあるわけだが、10年来やってきても、この解説の内容を基礎とすれば、多分安定してAの上位に入るくらいの答案は書けるだろうなとの自負はある。
 自分が勉強をしているとき、予備校や学者の先生の解説を見ても「この論点は気づかなくても無理はない」「この問題文でこの解答を受験生レベルに求めるのは酷」ということが明示されているものには滅多に見当たらなかった。そのためその感覚は自分で複数の解答例や解説、再現答案と成績などを見比べたり、経験を積んでいく中で養っていったわけで、それにはそれなりの価値はあった。しかし、別にそんな修練を積まなければいけない理由もないと思う。採点実感の公開などはもちろん良いことだが、試験委員側の出題方法のまずさなどに反省を見せるわけでもなく、また8教科を勉強しなければならない現実とどこかかけ離れて「あれに気づくべき」「あれを書くべき」という内容には疑問を通り越して怒りすら覚える。講義の際には「あれは試験委員が勝手に言っていることであって、無視しとけばいい。求められるのはそんなレベルではない」と説明しているけれども、この速報と採点実感を照らし合わせてもらえれば、だいたい採点実感の読み方、受け止め方が分かるのではないかと考えている。
 簡潔に言えば、教科書的な解説が明らかにしない「この部分は気づかない、かけなくても仕方ない」部分を明らかにすると同時に、「現場戦略だけでここはしっかり出題者の意図をとらえる、あるいは時にはいわゆるハネる」という部分を明らかにすることにこの解説の特徴があると思っている。

2 設問1の概要と解説
 (1) 概要
 <基本となる甲社の概要>
 甲社(非公開、取締役会・監査役・会計監査人設置会社)
 資本金10億
 発行可能株式数20万株
 発行済株式8万株(Aが5.1万、Bが2.9万)
 取締役A(代取会長),C(代取社長),D
 
 甲社が新株発行で資金調達を考え、PQから各1億円の調達する方向となったが、株の時価額(1株4万円)では断られたため、調達のためにやむなく時価額の半額(1株2万円)で調達することとなったというものである。配当優先株での調達であり、総会での議題は①定款変更(本件議案1)、②新株発行(本件議案2)の2点が必要だが、Bが反対をすることが予想されたので、招集通知にはこれを記載せず、総会のその場で話題に出し、渋るAを丸め込んで(ただしこの間の事情が重要)承認決議を取ったが時価額は実は倍額であるという説明はなされていないというのが大筋である。
 設問1は、払込みや新株発行が終了した段階で実は時価額が4万円と知ったBがどのような訴えを提起し、どのような主張ができるかを考えた上で、その当否を論ぜよというものである。

 (2)解説
 新株発行や組織法上の行為の効力発生の前後を通じてどのような手段があるかを論じさせる問題は定番であり、前であれば仮処分を書けというのが採点実感で常々言われていることは常識に属する。本問は効力発生後に絞っているものである。単純に差止めではない事後の手段を聞いているものと理解してよいと思われる。
 どのような訴えかについては、直接的には新株発行無効確認又は不存在確認の訴えの2つだが、無効確認の訴えがメインだろう。また本件議案1,2に関する総会決議取消しの訴え・無効(不存在)確認の訴えの提起も考えられるが、いわゆる吸収説に従って新株発行無効確認の訴えのみが許されるとしておけば足りるだろう。
 実質論としてカギとなるのはBの立場からすれば「差止めの機会すら与えられなかった」という部分をどう捉えるか、すなわち理論的にどの点に位置づけるのかと、結論をどうするのかという点である。とはいえ、論点も多く、論理関係も整理すればそれほど複雑ではないが、誤りがちなところであるので、構成段階でよく整理してから論じる必要があるだろう。
 さて、瑕疵として問題になるのは次の点かと思われる。これらの瑕疵について新株発行の無効事由になるかどうかもあわせて検討することになろう。
 ① 本件議案1,2は招集通知に記載なく、決議取消事由がある
 ② 第三者に対する有利発行にあたるが、有利発行の決議を欠く
 ②’有利発行の必要性に関する説明(199条3項)がない
 ③ 本件議案1,2について一般的な説明義務違反

 まず、①については、当然会社側は全員主席総会が成立したと反論がなされることになり、その反論の当否を、具体的事実関係を踏まえて説得的に論じる必要がある。形式論的に言えば、渋々とはいえ決議することに応じ、賛成までしているのだから、全員出席総会が成立したと見る方に分がいいと思う。ただ実質論としては、もともとBが反対するだろうからいわば不意打ちにすることを意図して招集通知への記載を省いており、いわばまんまとそれに成功したという部分から、全員出席総会の成立を認めない方が筋がいいように見える。おそらく結論はどちらでもよく、実質論部分を全員出席総会の成否部分で論じるのか、あるいは一応決議自体は成立したとした上でクリーンハンズなど信義則や権利濫用などの一般条項として論じるのかもどちらでもよいのではないかと思う。個人的な好みはあまり理論の枠をはみ出すのは試験としてはリスクがあるので、形式的には全員出席総会の成立を認めた上で、この事情の下で会社がBに対して決議の効力を主張することは信義則違反とするのが書きやすいとは思う(実際は決議取消しの対世効などの関係で難しいところもあるが、試験としては十分)。もちろん、全員出席総会の趣旨から説き起こし、いわば真意による準備期間ほ放棄はなかったとして不成立だとしてもいいのだろう。
 次に、②だが、有利発行の総会決議が欠落していることの瑕疵は明らかであろう。論じる位置づけとしてあっているのか若干自信はないが、甲社側の反論は「事実上この額等の内容での新株発行について総会で決議が成立しているのだから、問題ない」という趣旨のものであろうから、②’として上げた199条3項の説明義務の趣旨とその趣旨からの説明が明らかに欠落していること(むしろ虚偽を述べられていること)を論じ、やはり瑕疵は治癒されないとでも論じることになろうか。違反の成立は明らかであろう。なお、ここで受験生に言っておきたいのは、過去問から学べということである。過去問でも平成23年に一般的な説明義務と有利発行の場合の199条3項の説明義務は違うことを前提に問われている。この経験があれば、一般的な説明義務の問題だとするミスは犯さないはずなのである。
 なお、一応③の一般的な説明義務違反を上げた。一応特に第3者割当増資の必要性として2億円の資金調達が急務だとの説明の当否やそれ以外(ここでも有利発行的な要素が説明義務の内容になると考えると不作為の説明義務違反になる)について問題にはなると考えられる。軽くふれておけばいいと思う。
 最後に、①②が新株発行の無効事由になるか否かだが、オーソドックスには①は無効事由とならない、②は平成23年(だったか?)最判に照らして無効とやればいいのだろう。ただ、それだけでは少し面白くなくて、実質論として、上述のとおり本件ではBに差止めの機会すら与えられていないのではないか、という点を意識すれば評価は上がると思う。②は実質論としてこれを補強すればいい。実は①はこの実質論から無効事由にするかどうかは悩ましいところではある。定款変更や第三者割当自体には渋々ながらも賛成したとおもわれ、仮に本問が有利発行をいわば隠匿した事案ではなかった場合に差止めの機会すら与えられなかったとまでは言えないように思うのである。私ならそのように書き分けるかも知れない。

3 設問2の概要と解説
 (1) 概要
 設問1の新株発行は、定款変更により、①1株について1000円の優先配当、②かつ優先配当とは別に普通株式と同等に配当を受けられる、③優先配当について年度を越えて累積する、④議決権の行使可能、⑤優先株の譲渡には甲の承認を要する、⑥種類株主総会の要承認事項(実際問題なのは株式併合のみ)について、種類株主総会の承認は不要、という内容に定められていた。会社は優先配当が重しとなっていたので、PQに発行した優先株のみについて2株を1株に併合する株主総会決議をしたというものである。当然総会ではABが賛成し、反対するPQに関わらず承認決議がなされている。なお、株式買取請求のための事前の反対通知もなされている設定である。
 この状況で、①Pが株式併合によって被る不利益を説明せよ、②Pが株式併合の効力発生前で採れる会社法条の手段を問うものである。
 (2) 解説
 会社法では珍しいが、この設問2の小問(1)(2)形式は、明らかに小問(2)の誘導としての小問(1)である。そのまま小問(2)を出せば論点を落とすだろうということで小問(1)をつけた趣旨である。
 小問(1)は誘導だという目線で、定款変更の①ないし⑤の内容に沿って分析的に簡潔に答えを出せばいい。すると、①の優先配当は従来の1/2(500円)になってしまう、②の通常配当も従来の1/2になってしまう、③についてはこのこと自体で不利益はないはず、④議決権も半分になってしまう、⑤⑥は特になし、ということになろう。多分優先・通常配当以外に議決権も半分になってしまうんだよという点に気づかせて小問(2)につなげる誘導ではないかと思う。
 いよいよ小問②である。手段としてはⅰ株式買取請求、ⅱ差止請求、ⅲ決議取消・無効の訴え(→仮処分)、ⅳそもそも定款自体の定め自体が法令違反として先の決議1の無効確認の訴え、が考えられる。
 まず、ⅰは条文をしっかり上げつつ説明すればいい。
 ⅱは平成27年改正による制度であることを説明しつつ、ⅲとも併存すると断って中身を検討すればいい。中身としては株式併合の法令定款違反と株主が不利益を受けるおそれである。そこで何をもって株式併合の法令違反と理解するかであるが、最右翼は平等原則違反であろう。小問(1)を検討させたのは要するにこの優先株は議決権と引換えに優先権を与えるようなものではなく、完全に普通株式と同じ権利を持ちながら、さらに上乗せで優先配当と累積があるものだと気づかせるためであると理解される。優先配当については当然平等原則の問題にはならないが、議決権の半減については、いわばこの優先株は普通株式部分と上乗せ優先部分の複合と見ることができ、平等義務違反だとの議論が可能ではないかと思われるのである。結論としては肯定してよいと思う。
 ⅲは併合決議それ自体も平等原則違反という議論ができると思う。またABが特別利害関係人であって、著しく不当な決議がなされたという議論も可能であろう。
 ⅳは、実は実質論としてこの設問で私が一番気になった部分である。争う手段を一旦度外視すると、Pとしては「俺らの株の議決権だけ半分にされるのはおかしい。優先配当や通常配当も勝手に半分にされるのはおかしい」という言い分であり、逆に甲側は「そういう内容、つまり種類株主総会で併合等を決めるのではなく、通常の株主総会で併合等が決められる内容の優先株だと分かって取得したはずだ。文句をいうな」と反論するところであろう。だから実は平等原則違反のところでも問題となるはずで、そちらでも論じておいたほうがいいというか、むしろこちらを先に論じておいたほうがいいのかもしれない。ともかく、実質論としてこのような本質的な問題を含むのであって、設問2の大きな山場の一つと考えられる。聞いたことのない論点であろうが、筋道を立てて自分なりの考えを示すことが必要だろう。
 P側の再反論として「理屈はそうかもしれないけど、普通そこまで気づかないでしょ」というものであり、相応に説得力があると思われる。すっかり横着になってしまったので、制度上どうなっているか、条文上どうなっているかも調べる気力が起こらないのだが、本来はいわば種類株主自治が働かないような重大事項は事前に十分に説明し理解を得るよにする仕組みが必要であると思われる。なんというか、消費者被害の一種のような位置づけで、条文上事前に説明する仕組みがないのであれば、十分な説明が事前になかった以上平等原則違反が治癒されることはない、というような事後救済を考えざるを得ないのではないだろうか。が、正直言ってこの問題は受験生に酷すぎると思う。条文を見れば322条1項の例外として2項が通常総会決議によることを定款で定められるとしていることはすぐ分かる。が、正直こういう制度になっていたのかと私もこの条文を見て知るという程度のものであって、では種類株式の発行や定款変更の条文を慌てて探して、322条2項の例外を取る場合に事前の説明などが要求されているのか条文で探すのは事実上不可能である。しっかり考える受験生ほどパニックになる可能性がある。
 私が受験生ならP側の再反論部分には深入りしすぎず、平等原則違反を論じておいて、万一条文があった場合に大怪我にならないように、「そもそもこのような重大事項について322条2項の例外が定められるならば、十分な説明がなければ平等原則違反の瑕疵は治癒されないと考えるべきだ」とさらりと逃げるかと思う。試験としてはそれで十二分すぎる。

| | コメント (0)

2019年5月20日 (月)

令和元年司法試験商法(会社法)について

1 法務省より問題が公開されたので、恒例の解説を行う。ざっと、そう奇を衒うような問題でもなく、日頃から条文をしっかり引いており、重要判例を文字面の暗記だけでなく、背後までしっかり理解していれば何ら苦もなく高得点できる問題であっただろう。その意味でいい問題だと思う。
 ただ、ブルドックソース事件を出題した際の感想として、丸暗記としても中途半端(判例の言い回しを正しく覚えていない)で、かつ判例の判断の背後にある価値判断や事情などを理解していない学生(そもそも判例の結論を覚えればおしまいと考えている)が多いというのは実感している。法律の勉強が楽しいのは後者のところなんだけどね。。。
http://www.moj.go.jp/content/001293668.pdf

2 設問1は、公開会社において少数株主が臨時総会を招集する場合と、定時総会で株主提案権を公使する場合の手続きを比較検討して述べよというものである。基本的な設問であるが、日頃から条文を引くことを怠っている学生はすぐに条文が出てこず、思わぬ時間を要することになろう。概略は下記のとおりである。

 ① 臨時総会を自ら招集する場合(297条1項、4項)
  ・ 3%を6ヶ月前から有する株主であること
  ・ 取締役に対し、株主総会の目的事項および招集の理由示して招集すること
   → 招集があればそれでOK
  ・ 遅滞なく招集が行われない、又は8週間以内を総会日とする招集通知が発されないこと
   → 裁判所の許可を得て招集することができること。
 ② 定時総会での株主提案権の行使
  ・ 総株主の議決権の1%の議決権または300個以上の議決権を、6か月前から有する株主であること(303条1項2項)
  ・ 株主に対して議案の要領を通知することの請求(305条1項)
   ※ 一応泡沫提案の禁止、法令定款違反に引っかからないことも触れておくとよいだろう

 比較としては、こういうことを出題者が要求しているかわからないが、臨時総会を招集する場合、招集請求のみで招集がなされればよいが、裁判所の許可を得る場合、裁判の費用等負担、また許可が下りてもその事務は負担が大きい。対する株主提案権の行使はかような負担がない、ということになろう。調べるのが面倒なので省略するが、招集にかかった費用は会社にあとで返還請求できたかもしれない(もちろんここまで書く必要はない)。株主総会招集許可は申し立てたことも申し立てられたこともあるが、非訟事件とはいえ期日対応などの負担は相当なものである。通常保全係が担当で、保全事件並に急いでくれることが多いように思うが、もちろん事案による。

3 設問2は、ブルドックソース事件を題材にしている。同事件との大きな違いは、①賛成は67%にとどまる(ブルドックソース事件は83.4%)、②代償として金銭が交付されることはなかった、という2点である。
 ここ3年連続で書いているような気がするが、私がロースクールの演習で出した問題と細かい設定含め、瓜二つであって(まあブルドックソース事件がネタだから当たり前だが)、ちゃんとやってくれた人はほぼ満点が取れたであろう。なお、私の設定は、総株主の60%の賛成があった、というものであった。以下、横着して、当時私が学生に見本答案として配布したものを貼り付ける。なんと平成22年に作ったものが今更日の目?をみるとは。。。
 本問では特別決議はあるので、下記オの部分でブルドックソース事件が特別決議さえあればよいと考えているのか否かについて論じることになろう。67%という特別決議ギリギリの設定は際どい。代償としての金銭交付は触れなくても構わないが、企業価値研究会の報告書が却って否定的であることを指摘したら加点になるだろう。また、私の問題では買収者(乙社)が公開買付を撤回して損害を回避できる方法がある(金融商品取引法27条の11第1項参照)と提示しておいたのだが、本問では金商法を出すのは混乱させるので、「本件新株予約権無償割当ての概要」の(10)で、乙社が買い増しを行わないことを確約したら、新株予約権の発行を実質撤回することができる、とされていることで対応したのだろう。議題3には、ご丁寧になおがきで「本件新株予約権無償割当てを行うことにより乙社に生じ得る不利益は,乙社がこれ以上の甲社の株式の買い増しを行わない旨を確約した場合には,甲社の取締役会が解消することができる仕組みとなっており,乙社の利益を不当に害するものでない。」と記載されている。ただ、「できる」であって、乙社の権利として損害を回避できるとは限らないのが問題だが、この問題がそんなことまでを論じさせるつもりなら無理もいいところである。
 なお、ブルドック高裁判決のようにニッポン放送事件の規範を使って濫用的買収者だと認定して差止め不可とするルートもあるが、論じる必要はないだろう。濫用的買収者とまでは言えないと軽く1行認定する程度であろう。

 「 ア 本問において、乙社は会社法247条によって新株予約権の発行を差し止めることができるか。
 イ まず、新株予約権無償割当の場合には条文の配置上247条の直接適用がないが、類推適用を肯定すべきである。無償割当であっても株主の地位に実質的変動を及ぼす場合には差止めを認めない理由はないからである。
 ウ そうすると、本件新株予約権無償割当(以下「本件割当」という)は、差別的行使条件により乙社だけの新株予約権行使を認めないものであるから、株主平等原則(109条1項)に違反し、法令定款違反による差し止めが認められないか、問題となる(247条1号)。
   まず、新株予約権の無償割当は、株式の内容に直接関係するものではないが、株主としての資格に着目して割当てがなされるものであるから、平等原則の趣旨が及ぶと解すべきである。
   もっとも、株主平等原則は個々の株主の利益を保護するためのものであり、特定株主の経営支配権取得に伴い、会社の企業価値が毀損され、会社の利益ひいては株主共同の利益が害されるような場合には、衡平の理念に照らし相当性を有する限り、当該株主を差別的に取り扱うことも許容されると解する。判例もブルドックソース事件においてこのような差別的取扱いの余地を認めている。
 エ ここで、上記株主の共同利益が害される場合にあたるかどうかは、判断の相当性を失わせる重大な瑕疵のない限り、会社の利益の帰属主体である株主自身の判断を尊重すべきである。
 オ 以上を前提に本件を検討する。本件では議決権総数の60%の賛成で本件割当の議案が株主総会において可決されている。出席株主では30%(乙社を除くと20%)が、いわば乙社による買収は株主共同の利益を害しないと判断したことは決して軽視できないとはいえ、結局は少数派である30%の株主の反対を重視し、総株主の過半数をこえる(本件総会出席率は90%)株主の判断を尊重できないとすることは、会社の判断に対する裁判所の不当な介入にもなりうる。ブルドックソース事件は、出席株主の80%以上の賛成があった事例であるが、同事件の判例はこのような高率の賛成や特別決議を満たす66.6%以上の賛成までも要求する趣旨ではないと解される。
   よって、本件では株主の判断を尊重すべき場合にあたる。
 カ では本件新株予約権割当は相当性を欠くものか。
   本件においては、乙社は公開買付を撤回して、本件割当による持ち株比率の希釈化による不利益を回避することができる。乙社の撤回によって、本件割当も効力を失うからである。そうすると、乙社には損害回避の可能性が確保されているといえるから、本件割当は相当性を欠くとは言えないものと解する。なお、ブルドックソース事件は、買収者に対する相当の金銭補償がなされた事案であったが、株主により株主共同の利益を害すると判断された買収者に対してそのような補償をする必要があるか否かは疑問であり、むしろ多額の補償によって会社財産の流出をまねけばかえって株主共同の利益を害することになる。したがって、金銭補償の有無は相当性の判断に影響しないと解する。
 キ また、著しく不公正な方法による発行(247条2号)に該当するかも問題となるが、上記オ、カで検討したところによれば、これにも該当しない。
 ク 以上、本問では乙社による差止請求は認められない。」

3 設問3は、主に重要な財産の処分についての決議権限を取締役会から株主総会に移譲することの可否、特に移譲が可能であるとしても、株主総会と取締役会に併存するのか否かが問われている。そのうえで軽く経営判断原則にふれる必要がある。
 近時の判例が、非公開会社について、代表取締役の選定権限を定款で株主総会に移譲したことを適法とするもの(最判平成29年2月21日)があるのは、受験生ならだれでも知っているだろう。問題はそこから先で、①公開会社であること、②代取の選任ではないこと、について最判の事例との異同を論じた上で(おそらく、そのような違いがあるが、同様に考えてよい、とするのが穏当であろう)、では定款で株主総会の権限であると定めた場合に、取締役会で決議することは不可となるのか、併存的に決議可能になるのか、という点について厚く論じる必要がある。この辺は、問題文にかなり誘導があるので、最判や併存かどうかという細かい議論を知らなくても書ける。問題文11項の種々の発言が誘導になっているし、議題に「株主総会の決議によっても」と記載されていることが脂っこいことに気づくであろう。
 おそらく併存するというのが有力説であり、取締役会で覆すことができるという前提を取りつつ、後は経営判断原則に照らしてそのワクをはみ出しているかどうかを丁寧に認定することになろう。Q倉庫の倒壊にともない、P倉庫がなければ50億の損害が見込まれた、その損害額は会社の資本金や売上の規模からすれば膨大であること、弁護士に相談したような事情も伺われないことなどを強調すれば経営判断のワクを超えると言えよう。逆に単独の判断ではなく、取締役会で議論していること、株主総会でも決議された事項であるということなどを強調すれば経営判断のワク内ということもできよう。責任の有無はともかく、事情変更を踏まえて乙社との対話を行うことくらいはすべきであろうかと思うし、不動産価格の下落傾向は見られなかったということで、処分する方に急ぐ事情はないことも重要である。

| | コメント (0)

2018年5月21日 (月)

平成30年司法試験会社法(民事法第2問)について

 平成30年会社法の司法試験問題が公開されたので、恒例の速報解説をやります。

http://www.moj.go.jp/content/001258875.pdf

 事例は甲社という閉鎖会社におけるAとCという兄弟の内紛を題材にしたものです。
 Aが代取、Cが平取、Aの息子Bが平取、ACの叔父Dは役なし(経営にも関与しない)株主で、持株数はAから順に、300、250、250、200。
 大筋としては、Dが株を買い取ってもらうことを目的に会計帳簿の閲覧謄写請求をし(設問1)、その後AとCが互いに解任のために動いたところ、Aが紐付きのGに甲社の連帯保証(保証料なし)という便宜を図って買い取らせて、会社提案であるC解任は可決、C提案であるA提案は否決という決議となったところ、その効力と損害賠償関係を問う(設問2)います。ABCが一旦内紛を終わらせる株主合意をしたところ、A死亡にともなってCがBに対する売渡請求(174条)により生前の株主合意に反して支配権を奪取しようとした当該請求の効力を問う(設問3)ものです。

 設問1は、最近毎年同じことを書いている気がしますが、私が演習の問題で長年来出していた問題とピタリと符号するので、私の授業を受けてくれた人は完璧であったはずです。
 設問を少し敷衍すると、叔父Dの子であるFが、甲社の進出予定のない地域で全く同種のハンバーガーショップを経営していること、またDは「Aが仕入先からリベートを受け取っている」名目で過去3年の仕入れ取引に関わる総勘定元帳等の閲覧謄写請求しているところ、リベートの件はほんとはどうでもよい(株の買い取りだけが目的)と述べてしまっているという事情があります。
 会計帳簿の閲覧謄写の問題は、細かい論点にもきっちり触れて書くというところで、設問の指定である「甲社の立場」から主張を整理すると概ね次のような感じでしょう。
 ① 閲覧の対照となる帳簿の対象が特定されていない
 ② 閲覧理由が証明(疎明)されていない
 ③ 1号の除外事由にあたる(権利行使のための調査目的外)
 ④ 3号の除外事由にあたる
  ④-1 競業者が子でも除外事由にあたるか
  ④-2 競業性が認められるか
  ④-3 不当な目的を要するのか否か

 多分、①②⑤-3を落とす人が多いでしょう。これは現場戦略では思いつきにくい論点なので、事前にしっかり勉強しているかどうかで差がつきます。
 ①は結論として特定を認めるかは非常に悩ましいところですが、試験との関係では比較的緩やかに考え、特定ありとしてしまえばいいでしょう。
 ②は証明不要との結論を示し、濫用的な請求は除外事由の適切な解釈で対応できると簡単に触れておけば十分でしょう。
 ③はあまり議論しすぎなくてもいいのではないでしょうか。調査目的外であることは本人が認めてしまっているので。
 ④が設問1の山場で④-1は楽天事件を参考にしつつ「該当する」と論じてしまい、競業性の有無をしっかり論じるべきでしょう。一見出店計画のない近畿での競合はなさそうですが、仕入先と仕入価格という最も重要な情報に関わること、独自の調味料の内容も判明してしまう可能性があることなどを強調すれば競業性は認められうると思います。競業性ありとした上で、不当目的は要しないという最高裁判例を簡単に指摘すればバッチリでしょう。


設問2は、まあまあ難しいので、深入りすると時間がかかってしまうかもしれません。問題の詳細を補足すると、AはDから株を買い取ってしまえば解任決議が防止できると考えて、友人のGにDから株を買わせてしまおうとするのですが、Gには適正な売買代金2400万円のうち800万円足りなかったため、Gが銀行から800万円借り入れるについて甲社に保証料なしで連帯保証させます。解任決議が審議される総会前に、総会直後に融資実行と代金支払と引き換えに株券引渡が行われるという内容の契約がDG甲の間で締結されるわけです。保証料の相場は60万円です。
 設問2の前半は、可決されたCの解任決議と否決されたAの解任決議を取り消すCの決議取消しの訴えにおけるCの主張とその当否を問うものです。このフレーズも何度目かわからないですが、司法試験は本当にワンパターンです。平成28年に最高裁判決が出たとはいえ、否決決議が決議取消しの訴えの対象になるかはモロに平成24年に問われています。いわゆる泡沫提案の再提案に対する期間制限を逃れられるという実益を論じた上で最高裁に従って議論を展開すればいいでしょう。
 否決決議の取消し理由として、Cの株主提案について、提案理由をしようとしたCを遮って採決したことが問題となります。これはよく調べていませんが、適法な招集手続きであったという前提が与えられているので、招集通知には株主提案理由の記載がされていたという前提によめます。そこを強調すれば提案理由の説明をさせないことは問題ないと言うことができそうです。逆に、解任理由というのは解任議案に賛同を得るために核心的な部分ですし、リベートを取っているという疑惑は出席した株主が賛否を判断するのに重要な事項であることを強調すると、取消事由になるということができそうです。
 可決されたCの解任決議については、Dの株を買ってあげるということをいわばエサにしてDに甲社提案に従った議決権行使をさせているので、利益供与の問題なのでしょう。もちろん蛇の目の事件が想起され、蛇の目の事案は大雑把に言えば「会社にとって好ましくないものに株を売っちゃうぞ」と脅して融資を引き出したものですが、「会社にとって心配な=好ましくなってしまうかもしれないDの議決権行使を有利にさせる目的」で利益を与えることも、利益供与に該当するということはできそうですが、結論はどちらでもいいと思います。唐突ですが、田中亘教授は試験委員をされてたのでしょうか?結構前にグランド東京とかいうホテルか何かの相続に絡む内紛事件で利益供与性が否定されたことに商事法務で大分噛み付いておられた(この件で利益供与に該当するというような意見書を出されていたのではなかったか?)のをうっすらと記憶しています。もう事案も忘れてしまいましたが、「難しい理屈はともかく、これは事案の筋としては利益供与を主張する側が悪いよね」という記憶しか残ってませんが、次のGの利益供与性も含め、この問題意識が反映したかもしれませんね。
 その他、売買日の設定が総会直前になっている設定や、Aを代理人にしている設定は利益供与該当性の当てはめに使えると思いますが、他に論点が隠れているのかちょっと解りません。どのみち時間がないので、かかわり合いにならないで流して置いたほうが得策でしょうね。

 設問2の後半はCが甲の株主としてAとGに対する会社法に基づく責任追及の訴えをする場合のCの立場による主張とその当否を問うものです。
 ん、Gって取締役じゃないから代表訴訟の対象にはなりようがないし、どうするんだ…と改めて代表訴訟の条文(847条)を眺めると、「第120条第3項の利益の返還を求める訴え」があるじゃないですか。そうか利益供与について供与した利益の返還を求める訴えは代表訴訟の対象になるんですね。。。すっかり忘れていました。ということで、Gは利益供与が論点となると確定ですね。ここまでこればそんなに難しくないと思います。
 ① Aの責任:(取締役会決議は適法)善管注意義務違反
   自己保身目的疑い、保証料取らない、担保取らない→50+800万円。後述の利益供与に関与した(120条4項)として過失の立証責任が転換されることもしっかり触れる必要がありますね。

 ② Gの責任:利益供与
    利益供与該当性は、やはり蛇の目との比較で論じられるのでしょう。会社にとって好ましくないものに譲渡されるのを防ぐために融資するのも利益供与なら、会社にとって好ましい議決権行使をしてくれる人が譲渡を受けるために融資をするのも利益供与だと言える、この程度の流れでいいのでしょう。実際は億単位の蛇の目と違って800万円の融資であるので、融資それ自体が利益かというには迷いがあるのですが。。。。なお、50万円の保証料は問題なく利益供与に該当するでしょう。


 設問3は、Aの子BがAとCとの間を取り持って、Aが退任したらCも取締役を退任し、Bが代取になって会社を運営するという合意ができたところ、交通事故でAが死んだ後に、Cが約束を違えて、定款に規定されていた会社の相続人に対する株式の売渡請求権(しかも過半数になるだけを買い取るという)を行使した、というものです。 これ、実務的には結構メジャーなテーマかもしれません。事業承継に絡んで、174条による売渡請求をすると、被請求者が請求に関する総会議案について議決権を行使できない(175条2項、1項2号)ため、多数派が追い落とされクーデターになってしまうという問題意識がよく指摘されているものです。 本件も典型的にクーデターの問題が現れているといえましょう。実際どんな裁判例が出たかと、最近の議論にはまったく疎いし、調べるのも面倒なので、何が現状の議論として正確なのかは読者の方々が調べていただければと思います。 ここで重要なのは、おそらく、「174条クーデター」という論点を知っている受験生はいないであろう(いるかもしれませんが、そういう抜群な人か、たまたま知っている人は無視しておけばいい)ということです。 これも例年書いていることですが、「知らない問題だが何を聞いているかどうかは明らか」という問題はチャンスです。どちらを勝たせるべきか、バランスよく両方の視点から比較してみる、そうしてなるべく条文に従い、突飛な見解・思いつきの見解は絶対にやめ、たとえ形式論で結論を出すと結論が不都合であっても「…だから已むを得ない」とだけフォローをするのが安全であるというルールを守れば大幅得点のチャンスです。本件は実質論としてはCが卑怯だ、約束に反したのだと感じられますが、条文操作的には、Cのやったことになかなか問題は見いだせません。なやみつつも、「一見不当かもしれないが、ABCで合意したときに定款9条を削除しなかったのだから已むを得ない。場当たり的な解釈は慎まなければならない」とでもフォローしておけば受験生としては十分でしょう。
 ただ、本問の事情下で行けば、権利濫用等として売渡請求の効力を否定することは可能かもしれません。というのは、株主ABC全員(問題文からは形式的にはACの合意ですが、Bの提案に従ったもので、実質的には)の合意で「Aが退任したらBが後継者」と決めているわけです。会社法の世界の常識として、株主間合意は直ちに会社を拘束しません。われわれプロの弁護士はここを間違えてはなりません。私もよく扱いますが、株主間契約である合弁契約を対会社に対しても効力を及ぼすためには定款にも同等の規定をしなければならないのです。ただ、株主全員が同意しているわけですから、いまさらCが会社を代表してその合意に反する行為をすることは禁反言にあたると言えるかもしれません。あるいは、実質的にABC合意の趣旨は定款9条を変更する趣旨を含むのだとして、定款変更の決議があったと考えることも不可能ではないかもしれません。
 なお、買い取る株式の数ですが、確かに175条1項1号では買い取る数を会社が自由に設定できそうによめます。しかし、実質的には支配権のプレミアムにしか株式の価値はほとんど存在しないわけで、合理的な理由なく174条が一部のみの株式を買取ることを許容しているとは考えられません。そうすると、一部買い取りは違法ということで、請求全体の効力を否定する余地もあるかもしれません。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2017年5月23日 (火)

平成29年司法試験会社法(商法・民事系第2問)

 恒例ですが、法務省から問題が公開されたので、やります。
 今年はほんとに時間がないので、ポイントだけ。
http://www.moj.go.jp/content/001224572.pdf
設問1(1)は、定款に記載のない設立費用という典型論点です。判例は定款で定めた設立費用の範囲で会社に帰属するという立場です。定款では80万円が限度なので、判例の立場では賃料か給与かどちらかのうち(あるいは両方合計で)20万円支払われなくなります。まさにこれが学説の批判するところですが、批判して学説の立場をとるか、そういう批判はあるがなんとか順位付けをするしかない(時期順等)とやるかのどちらかでしょう。そうひねりがあるとは思えません。
設問1(2)は、財産引受というこれも典型論点です。一見して不当なFの要求に対し、追認を認めない判例の立場からどうするか、あるいは判例を批判してどのような立場をとるか、というあたりがキモでしょう。ただ、実務家たる弁護士の立場ならば、判例に真っ向から反対するのではなく、追認不可という判例の立場をもとに、Fの追認拒絶(履行拒絶?)が信義則に反すると組み立てる方がもっともらしいでしょう。有名な最高裁の事例は10年だったか経過した後ににわかに無効主張したもので、無効主張は信義則に反するとしました。信義則の適用類型のうち権利失効の原則が働くような場面です。本件は権利失効ではありませんが、禁反言の原則が妥当するとして無効主張は信義則に反するとやれるのではないでしょうか。会社法では事後設立に検査役の検査が不要となったので、追認不可という判例の立場も十分有力でしょう。追認拒絶を信義則違反とみれば、事後設立同様の手続が必要となると考えれば多分いいのでしょう。あるいは、財産引受の潜脱を重視するなら、検査役の検査は必要といえるのかもしれません。この辺はよく知りません。
設問2、3は自分でも恐ろしくなるくらい演習で出した問題とそっくりなので、受講した学生はバッチリではないかとおもいます。MBOとそれにまつわる総会決議の瑕疵という出題をしています。改正会社法では株式併合でのMBOも多くなったということも解説しつつ出題していますね。本問はMBOではなく、単に少数株主の締め出しであるわけですが、会社法上少数株主の締め出しは予定されていることを踏まえつつ論じることになりましょう。
①持株会の会員Kが株主名簿上の株主Hの代理人として議決権を行使した点は、議決権の代理行使を制限する定款規定の有効性とその効力の限界というまたまた典型論点です。私は学生に、A弁護士代理人の議決権行使拒絶、B閉鎖会社で病気等で他に味方の株主がいない場合、の2パターンしか出題はないだろうと言っていました。が、なるほどこういう事例がありうるかと感心してしまいました。まあ、私が学生に勧めているように判例は総会屋時代の過去の異物と批判して定款による制限自体無効としてしまってもいいですし、判例を前提としても書面行使ができない乙社では実質的に議決権行使の機会が奪われる、また実質的に共有株主であることなどを重視して効力が及ばないとやってもいいでしょう。
②基準日における株主名簿上の株主ではないが、株主であることに間違いないLの入場を拒絶した点はどうとらえるべきでしょうか。相続の場合は株主名簿の書換えを対会社の対抗要件と考えないとするのかどうか、なんだか設問1(1)同様、久々に会社法改正と葉玉説の話がピックアップされているかのようです。この論点自体は悩ましいのですが、まあ両説のポイントを踏まえて自説を明らかにすればいいのでしょう。
③説明義務違反について、株式併合は180条4項で必ず理由の説明が求められていることに注意を要します。一般的な説明義務より強い説明義務を負わせているのでしょう。ここでは、単純に「甲社の支援による経営立て直しという本来の目的を説明しなかったから説明義務違反だ」と考えてしまいがちです。が、この問題は難しいです。そもそも実務では「真の目的」など認定不可能でしょうが、司法試験の出題では成り立ってしまうのがおかしいとは思います。若干場面が違いますが、MBOなど設問のような形式的な説明で済ませていることは通常でしょう。まさか「お前ら少数株主が邪魔なんじゃ」とはいわず、「上場コストが…」「抜本的かつ迅速な経営改革が…」となるのでしょう。私の感覚的には説明義務違反とは言いにくいように思います。
④特別利害関係人の論点はMBOで一般的なものです。インターネットナンバー事件の指摘のように、会社法上少数株主の締め出しが予定されているとすれば、よほどのことがない限り著しく不当な決議とは言えないのでしょう。本問ではMBOのような構造的な利益相反とか、情報の非対称性などを論じさせたい趣旨とは思えないので、あっさりやっておけばいいのでしょう。
設問3は、総会で反対の議決権行使ができなかったLが株式買取請求権を行使できるか否かという問題です。基準日以降に取得した株主に買取請求権の行使を認めた下級審裁判例があったと思いますが、あれは確か譲渡による取得ではなかったかと思います。基準日以降に譲渡により取得した者は、買取請求権の行使ができない可能性を知って取得したともいえるわけですが、相続の場合はそうは言えません。「議決権を行使することができない株主」に該当するとしてしまっても良いように思います。いずれにしても、設問2の②における自説と論理的に整合していることが必要ですね。
最新判例であるジュピターテレコム最高裁判例は、TOBもなかったので、さすがに聞いていないと思います。が、平成26年改正で買取請求権ができたことから、株式併合による締め出しが広く用いられるようになったことなどはチラと見せておいた方がいいかもしれません。TOBが強制されない本問のような事例では、甲社が60%を買い集めてしまえば、のこる40%の時価はゼロに近くなってしまいます(その意味では甲社はHやIの締め出しまでしない、根をあげて安価に手放すまで待つとか、配当を出さずに乙社の企業価値を下げて、他方合法な範囲で乙社の利益を吸い上げることを考えるのが実務家としては手だと思います)。この場合の公正な価格は、ジュピターテレコム事件の最判を参考にしつつ、甲が買い集めた価格の平均とするなどの考え方はありうるかもしれません。そうでないと、HIの保護のため足りないようにも見えます。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年10月15日 (土)

第2電通事件―電通社員の過労自殺と内部統制システム構築義務(若干の労働法問題も含め)

1 電通社員の自殺について、労災認定なされた事件について、連日新聞やメディアが多数報じている。中国留学経験があり、おそらく中国語も話され、中国文化も理解している広告代理店勤務の方であったということで、個人的には勝手に親近感を持っている。このような若くて優秀な人材を失うことは国家的な損失といっていいほどであると思う。

2 労働法的な問題として指摘しておきたいのは、①近時、長時間労働とパワハラ等を理由に精神障害に罹患した又は自殺したとして、上司個人を含めて損害賠償請求がなされる事案が増加している、②長時間残業を放置していると、その事実自体で従業員の自殺等に関して予見可能性を認められかねなくなる、③この種の事案では賠償額も高額化することが多く、過失相殺等による減額も認められにくいことにも注意すべきである、という点である。
   裁判例では横河電機事件(東京高判平成25年11月27日)、岡山県貨物運送事件(仙台高判平成26年6月27日)、公立八鹿病院組合ほか事件(広島高裁松江支部平成27年3月18日判決)などがある。これらの事件では月90時間、100時間というような残業が恒常的にあったという認定であるが、労基署の認定によれば本件は105時間ということのようであるから、この時間がそのまま判決で認定されれば、それだけで会社の責任が否定されることはかなり困難であろうと思う。パワハラの有無は大きな意味を持たなくなる。

3 今回主に触れたいのは、会社法上の内部統制システム構築義務の問題である。この第2電通事件と言って良い事件に触れ、頭に浮かんだのは日本システム技術事件(最判H21/07/09)で「本件以前に同様の手法による不正行為が行われたことがあったなど,上告人の代表取締役であるAにおいて本件不正行為の発生を予見すべきであったという特別な事情も見当たらない」と判示している部分である。もちろん、日本システム技術事件は経理上の不正行為の事案で、その射程が本件のような労働環境に関する内部統制システムの問題に及ぶかは一つの論点だ。しかも、判示は巧妙な偽装があったことを前提にその予見可能性を論じる趣旨のものであるから、巧妙な偽装を前提としない本件には関係しない。ただ、一度過労死自殺事件が起きている企業においては、他の企業より同種の事件を防止するための高度のシステム構築する義務が要求されるということができるのではないかとは思う。
 本件は電通にとっても大きな損失である。亡くなられたことに関する逸失利益の負担については労災の上積み保険で賄えるかもしれないが、それ以外にも「ブラック企業」のレッテルを貼られ、今後優秀な人材が入社を敬遠したり、離職者が出るという損害などがある。当然取締役の会社に対する責任問題にもなりうるのである。

4 そこで電通の内部統制システムを見てみる。「電通グループ行動憲章」では「3. 労働環境の整備 我々は安全で配慮の行きとどいた職場環境を実現します。」とあり、具体的には「ワーク・ライフ・バランスの推進」として、「第一に健康管理。特に生産性を上げ、効率よく成果をあげる働き方への改革を実現することが出発点です。社内の専門委員会である「労政委員会」では、時間外労働の削減や休暇取得促進のための各種施策を立案・決定しています。さらに、社員の悩みなどに対応する専門部署として「キャリア・両立相談課」を設置し、社員の声を制度に反映させています。」ということである(http://www.dentsu.co.jp/csr/pdf/integrated-report2016_all.pdf)。また、社内外の内部通報窓口も設けているようで、「2015年度(2015年4~12月)は、電通および電通グループ会社の社員などから合計15件(2014年度:10件、2013年度:13件、2012年度: 21件)の通報や提案があり、対応を行いました。」とされている。この規模の会社ではやや件数が少ないかな、という印象だが、まあ一応は機能していると言えるだろう。
 内部統制システムをどう構築するかは経営判断の問題と考えられているから、内部統制システムは構築自体に取締役の任務懈怠があると裁判所が判断することはまずないであろう。

5 問題は運用面である。
 現段階では報道されている程度しかわからないため、はっきりしたことは何も言えない。ただ、ごく直感的には、「運用面は甘かったんじゃないの…」と疑いたくはなる。
 おそらく、第一事件後にどのような体制を構築したか、構築した具体的な体制の内容(労働時間の管理方法、その管理に対するチェック方法等)、不正の有無、担当部署が不正を知っていたか・その調査体制、従業員の健康管理の方法等が問題になるのだろう。
 すべて報道ベースだが、参考になりそうな情報はある。「電通は労基署に届け出た時間外労働の上限を超えないように、「勤務状況報告書」を作成するよう社員に指導していた」(朝日新聞:http://www.asahi.com/articles/ASJB767D9JB7ULFA032.html)という点が真実であれば、この実態を役員が知っていたまたは知りうべき事情があったがが焦点になろう。それにしても、そこまでやっていたなら、上記「キャリア・両立相談課」や社内コンプライアンスコールに通報でもないものなのだろうか?通報があって改善されていないとすれば、少なくとも窓口の担当役員は責任を負う可能性が出てくる。また、自主的な申告ベースの報告書だけではなく、入退館記録やパソコンの電源等、客観的な資料との突き合わせによるチェック体制が取られていないとすれば、少なくとも二度目の事件としては不備であろうと思う。
 なお、もっとソースが怪しいが、あるコラムニストによれば「「電通事件」は、最高裁が過労自殺で使用者である会社の責任を認めた画期的判決として、人事の世界で知らぬ者はいない。この事件を深刻に受け止め、メンタルヘルス体制を構築しようと動いた役員も電通社内にいたが、実際は「そんなことをしたら競争力が落ちる」とする勢力に阻まれたと聞く。この件は、ヒアリングしているので、いずれきちんとした形で世に出したい。」(http://www.news-postseven.com/archives/20161013_456416.html)ということである。たしかにありそうな話ではあり、もしこの事実が証明できれば、下手をすれば全役員の責任まで広がりかねないが、裁判上証明することは困難であると思う(これを示す書証や録音でもない限り)。

6 最高裁は野村證券事件と蛇の目ミシン事件では役員に厳しい立場をとったが、アパマンショップ事件、日本システム技術事件、ヤクルト事件、アートネイチャー事件などではかなり役員に甘い判断をしている。詳細は過去記事を参照して欲しいhttp://erlang.cocolog-nifty.com/blog/2011/05/post-4f5b-1.html、http://erlang.cocolog-nifty.com/blog/2015/05/post-8c36.html。なお、野村證券事件も「役員は全法令を遵守すべき」という一般論では役員に厳しいが、結論は当時でも証券局長通達や日本証券業界の規則で禁じられていた事後の損失補填を行ったことについて責任はないとしているから、その意味では役員に甘い。要するに、取締役の責任が重くなりすぎること、社外役員の成り手が減らないように配慮しているのであろう。
 内部統制システムに直接かかわるのは日本システム技術事件だが、高裁までは運用面も比較的厳格にチェックしているものの、最高裁は甘いと思う。もちろん具体的な事実関係が不明な現段階でははっきりしたことは分からない。ただ、おそらくは、今の現状を見る限りでは、少なくとも最高裁まで行けば多少の不備であれば見逃してくれることになるのではないかと思う。

7 検討してみて、最高裁が役員の民事責任に甘いことは、「とりあえず体制を整備しておけば責任は免れる」という、本来の趣旨とはなれた非効率な内部統制システムの構築につながっているのではないかと改めて思った。電通の内部統制システムは一見しっかりしているし、その分相当な費用もかかっていると思うが、今回のような悲劇を防ぐことができなかったのだろうか。
 もちろん、内部統制システムは多くの会社で実効を上げているのではないかと思う。発覚しなかった不祥事の統計をとることができないことから検証は困難ではあるが、実感としてはそう思う。例えば内部通報窓口などは、正しく運用されていれば非常に効果が高いと思う。
 とはいえ、裁判所がシステムの運用面に踏み込まない現状では、内部統制システムは、役員の免罪符のために会社の費用や労力を費やしている側面が多いことは否定できないように思う。内部統制システムの構築をただの免罪符とするのではなく、信用の原則についてより深く検討し、運用面の問題点にも踏み込むようにならなければ、よりよい内部統制システムの構築はできない。故人への哀悼とともに、はなはだまとまりはないものの、以上のようなことを思った。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年5月18日 (水)

平成28年司法試験民事系第2問(商法、会社法)について

 法務省の問題公開、早くなりましたね。ということで、恒例のやつをやります。
1 今年の問題は、論点はシンプルで、そうひねりもなく、日頃の実力が出やすいものであったと思います。あんまり面白みのある問題ではないですが、受験生の実力を図るにはまあいいのでしょう。
 あと、多分漏洩問題による考査委員編成の変更による影響か、設問3などはおそらく実務家委員の作成ではないかと思います。設問1、2は学者委員によるかもしれませんが、従来ほどひねってあるわけでもありません。
2 設問1(1)
 取締役会決議の瑕疵という問題ですが、一部の取締役が外国にいて参加できないタイミングを見計らって招集通知を送るというパターンはまったく平成19年の問題と一緒です。毎年毎年言っていますが、司法試験は超ワンパターンですね。
 Aへの通知もれが違法であることは明らかです。議題がAの解任であったので結果的にAは特別利害人にあたります。が、特別利害関係人は採決に参加できないことはもちろんですが、審議、つまり議論自体には参加できるというのが通説であったと思います。なお、採決時には退席を求められれば退席しなければならないというのがこれも通説だったと思いますが、これは票に計算されないとしても、本件のように特別利害関係人(特に代取解職場面では社長)がその場に存在すること自体がプレッシャーになり、自由な意思決定を阻害するという理由です。さて、審議に参加できる以上、特別利害関係人だからといって通知をしないことは許されないというわけです。
 審議にすら参加できないという説をとるにしても、取締役会は株主総会と異なり招集通知で議題を明らかにする必要がなく、議論すべき事項に制限はありません。本問では議題を明示していませんが、仮に「議題はAの解任」と明示していたとしても、Aが特別利害関係人であることを理由に、やはり通知もれの違法性がなくなるとは言えません。
 問題は、最判に従ってAが出席していても決議の結果が変わらなかったような特段の事情があるかですが、ないとすべきでしょう。議題を明示して招集通知を発送していれば、Aが他の取締役に働きかけることができることはもちろんです。本問では議題を明示していないところがミソですが、BとAが対立を深めていたタイミングでBが臨時総会の招集をするというのであれば、Aの解任等、Aの排除やBの支配力を強める議題にかかるものであると容易に予想がつきます。Aの立場であれば、事前に通知があれば他の取締役に働きかけること、本問では実は3人は既にB派に回っていたわけですが、寝返り工作をする機会があったといえます。
3 設問1(2)
 平成4年の最判でしたか、報酬額は委任契約の内容となっているから無報酬に変更する旨の総会決議をしても、同意ない限り報酬請求権を失わない、これは常勤取締役→非常勤取締役と、職務内容に変更があっても変わらないというものがあります。
 これに従うと、従来の150万円のママということになりそうです。が、この問題の面白いところは、代取の解職自体は文句なしで有効であり、平取ならば月額50万円になるという運用が従来からなされていたというところです。結論としては月額50万円とするのが良さそうですが、最判との関係をうまく説明する必要があります。
 「職務内容の変更」ではなく「本件では代表取締役と平取締役という地位の変更があり、職務内容にとどまらず会社に対して負う法的な責任まで異なるから、平成4年最判の射程外である」という議論は成り立つかもしれません。あるいは「同意があった」という構成で、「もともと平取は50万円という運用があり、それが慣行化しており、万一代取を解職されて平取となった場合は50万円になることに同意していた」とするほうが無理がないかもしれません。
4 設問2(1)
 339条2項の「正当な理由」と損害の範囲について聞きたいだけの問題でしょう。私はどちらもこれまでに勉強したことがありません。多分受験生も知っている人などいなかったのではないでしょうか。で、私はいつも言っています「知らない問題が出ても、問われていることが明確であれば、それはチャンスでしかない。肯定説・否定説両方のメリット・デメリットを考えて、結論を出せばよい」と。
 正当な理由ですが、Aが進めた海外事業が結果的に失敗したことが正当な理由になるかということが問題であることは明らかです。経営判断原則のようなもので、結果的な失敗が正当な理由になってよいのか、取締役の経営判断を萎縮させないかという議論がありうるでしょう。他方で、損害賠償責任を論じる場面ではなく誰に経営を委託するのかという場面の問題であること、要するに「会社は損害賠償を払わなければ経営判断に失敗した取締役をクビにできないのはおかしい」といえます。直感的には後者の主張の方がもっともに思えます。受験生としては、「取締役の対会社等に対する損害賠償責任の問題と異なり、取締役の解任というのは株主が今後株主共同の利益を最大化するために誰に会社の経営を委ねるのが適するのかという場面の問題である。株主に対して経営判断に失敗した取締役を取締役の地位に留めることを強制することは不当であり、経営判断の失敗も特段の事情ない限り正当な理由となる」とでもやれれば十分でしょう。
 このまま行くと損害の話が出てきません。が、本件は一度はAに招集通知を送らないで代取から解任する取締役会を開催しているという事情、背景としてAとBの対立があったという事情などがあり、これらの事実関係からすると実質的には経営判断の失敗が理由でなく、Aの勢力を削ぐ目的であると認定することが可能かもしれません。そうして損害の話につなげることは可能です。
 損害論は非常に悩ましいのですが、残り任期が8年とかなり長く、直感的には8年分の報酬4800万円(50*12*8=4800)を全額損害と認めるには抵抗があります。どう理論構成すべきかは悩みますが、閉鎖会社で、単独で過半数を有しているわけでもない取締役Aが任期8年間地位を守れる可能性は必ずしも高くない、支配権の変動に伴い解任される場合は予想されるなどと言って「半分」とか言い切ってしまう手はあるかもしれません。裁判所ならこういうドンブリな判断をしそうではあります。
5 設問2(2)
 854条1項2項に則って要件を検討すれば良さそうな問題ですが、「否決決議」がなく、流会であるということで、流会に類推適用できるかどうかということを聞きたいのでしょう。聞いたことのない論点ですが、例によって問われていることは明白です。
 オーソドックスにはBは少数株主として再度Aの解任を議題とする総会の招集を求め、それでも総会が開催されなければ裁判所に総会招集許可をもらって総会を開催することになります。が、A自身は25%としても、多数派を味方につけていることから、延々と流会を繰り返すということになりかねません。(ところで、これを書いてて、そういや総会招集許可をもらった場合に定足数そろわないと常に株式総会が成立しないのか、という疑問が湧きました)
 そうすると、解任対象の取締役が株主の過半数を掌握しているなど、株主総会を開催しても否決決議すらえられず、流会となる見込みが高い場合は、流会になった場合も「否決されたとき」に含まれるという解釈が成り立ちそうです。
 余談かもしれませんが、上記オーソドックスな流れは必ず書いておいたほうがいいでしょう。加点事由になると思います。
6 設問3
 これは日本システム技術事件の最判をもろにネタにしたものです。内部統制システム構築義務の意義、内容と具体的な事実関係のあてはめを問おうとしたものでしょう。
 流れとしてはCについて内部統制システムの構築自体はされているとした上で、その運用に際し最判に従い「通常容易に想定し難い方法」があるかをあてはめていくことになりましょう。あてはめの問題ですから、結論はどっちでもいいのでしょうが、よくある失敗は「最判と同じだ、通常容易に想定し難い方法じゃん」と飛びついて結論を出してしまうというやつです。
 まず「相見積もりをとる煩雑さを回避するために同一工事を分割して見積もりをとってくる自体は容易に想定できる」という問題については問題文で「巧妙に欺いた」とされているから否定することになるのでしょう。
 最判の事案と違いをいうとすれば、売掛先とグルであること、つまり売掛先への監査法人の照会はそもそも無意味であるという事案であることです。最判の事案では、営業部長による一方的な売上水増しで、売掛先とはグルではなかったので、監査法人の照会書をうまいこと言って返送前に営業部長側が回収して架空の額を記載して返送していたというような事案だったはずです。部長レベルの売上水増しとは、販売成績をよく見せるという個人的な動機であり、もともと会社に予想される損害は少ないのではないかといえます。他方、グルになって売上を水増しして横領するというのは会社にとって予想される損害は多いと言えます。売掛先への照会のみならず、建築会社であれば、工事内容と見積書の精査をより精密に行うべきであった、5000万円もの多額の水増しを見抜くことができなかった点でなおシステムの構築・運用に問題があったのだという立論は不可能ではないかもしれません。
 以上のように書いて見ましたが、おそらく出題者はそこまで考えておらず、本問ではオーソドックスに通常容易に想定し難い方法だった、と言ってしまっていいのでしょう。
 Dの責任はわかりやすいでしょう。Cを信頼して内部通報を放置したのは任務懈怠と言っていいでしょう。損害論が問題ですが、2週間で不正が暴けたのですから、通報は平成27年の3月末であり、平成27年4月末の3000万円の支払いはストップできたと言えます。3000万円が損害と言っていいでしょう。学生によく言っていますが、損害額の認定は必ず丁寧に見る必要があり、安直に5000万円とやった学生が多いでしょうが、それは点数の取り逃がしというべきです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年5月18日 (月)

平成27年司法試験民事系第2問(商法、会社法)について

 さて、法務省が早々?と問題文を公開してくれたので、例年どおりやります。

http://www.moj.go.jp/content/001144530.pdf

 今年の問題は個人的にはワクワクドキドキで「いやあ、さすが本試験」なんて思ってしまう問題でした。ちゃんと文献や判例等を調べてないので、誤った理解があるかもしれません。その点は例年どおりご容赦ください。

1 設問1
 競業避止義務、引き抜きに関する善管注意義務違反に関する問題ですが、事案がひねってあって「うーん」となりますね。いくつかポイントがあります。
 問題となりそうな行為は次のように分解できそうです。
① 競業会社である乙社の株式の「90%」を甲社取締役Bが取得した行為
② Bはもともと乙の監査役であったのが、月額報酬100万円の「顧問」に就任したこと
③ Bが実際に洋菓子事業の陣頭指揮を執り、乙をして甲社に対する競業取引をなさしめた(といえるかも問題ですが)こと、
④ 甲社のの洋菓子工場であるEを引き抜き、乙に転職させた行為
 競業避止義務違反は任務懈怠の一類型なので、頭の中ではそれぞれ任務懈怠にあたるかと競業避止義務違反にあたるかを検討します。
①は、株式の取得それ自体で取締役会の承認対象とはならないはず(具体的な取引が対象)で、同様にこれだけで任務懈怠であるとは言えないと思います。まして甲社の全株主の同意があります。
②は、「顧問」というひねりが絶妙なのですが、実務的には競業会社の代取に選任される際に包括的な承認を取締役でしているはずです。「顧問」就任が事実上取締役就任と同視できるとすれば、ここで包括的承認をすることも考えられます。しかし、承認対象はあくまで具体的取引なので、この段階で競業避止義務違反とは言えないのでしょう。任務懈怠についても、具体的な取引を行っていない顧問就任の段階では肯定できないでしょう。
③がまさに問題です。まず、おそらく名義説と計算説で結論が異なる事案ではないと思いますが、論理の筋道を示すために触れておいた方がいいでしょう。どちらの説でもいいと思います。問題は、名義説でも計算説でも、代取でもない「Bが乙の名義で又は計算で」取引をしたか、といえるかという部分です。事実上の主宰者(代表取締役)と言えそうな事実を丁寧に拾っておく必要があります。90%はキャッシュアウト可能な保有率(ちょっと話がずれますが、こういう所で改正を踏まえていることをチラっと見せるのは有効だと思います)であること、100万という高額な報酬をもらっていること、実際連日陣頭指揮を行っていること、回顧的な事実になりますが、後日乙にとって重要なQ商標の使用権設定に主導的な役割を果たしていることなどを上げる必要があると思います。そうしてはじめて競業避止義務違反が認定できることになりましょう。なお、甲社は関西に未進出であるが500万円の調査料を支払って進出を予定していたことは、進出予定でも競業が認められるかという別の問題で、触れておく必要があります。
 ここで別に問題なのが、Bがもともと90%の株式取得の際に「今後乙社の事業にも携わる」と述べていたことです。これを取締役会の承認やそれにかわる株主全体の承認と見る余地もありますが、おそらく重要な事実の開示がないため、承認があったと見るのは困難です。これでようやく競業避止義務違反を認められます。
 なお、善管注意義務違反も認められるでしょう。そうすると競業避止義務違反を認める実益は、損害賠償との関係では、損害の推定(営業利益の増加分800万円)の立証責任の転換にとどまるわけで、実質論としてはムリに競業避止義務違反を認めなくてもいいのかもしれません。スジ論としては認めるべきのように思いますが。
④引き抜きに関しては、単純に善管注意義務違反と認定したくなりますが、Bの保有株式は1/7で少数派であること、その意味で甲への忠誠が十分に期待できない立場にあることなど、一応は悩みを見せるべきものと思います。結論的には、洋菓子工場長という重職にあることなどをもとに認めて良いのだと思います。
 あとは損害論について推定規定も含め、しっかり認定しておくべきでしょうね。500万円の委託料については直ちに全額因果関係を認められるのか疑問が残ります。売上減の300万円については、操業停止に伴い販管費の削減があれば損益相殺されるでしょう。顧問料100万円については推定規定の適用がありうるか一応問題になりそうですが、営業利益800万円の段階で顧問料は販管費として考慮されているはずなので、推定規定の適用がないということでいいのでしょう。もっとも、ここまで細かいことを出題者が聞きたいのかはわかりませんが。
2 設問2
 これもなかなかおもしろい問題です。端的には、一見すると重要な資産の譲渡にあたる第一取引と第二取引を全体として見れば事業譲渡と見ることができないか、ということを問おうとしていると思われます。
 学生にはいつも言っていますが、「聞いたことのない問題だけど、何が聞かれているのかは明白」という問題はあわてず、落ち着いた方が勝ちで、チャンスと思わなければいけません。おそらくこんな問題を見たことがある人はいません。だから、「一体に見れる」「いや一体に見れない」という両方面から頭のなかで議論を戦わせて、説得的に議論を展開すればいいのです。よくある失敗が、こういうときにパッとみで「これは一体じゃなきゃダメだろ」と決めつけてしまい、それに沿った事実だけを上げることです。飛びつきたくなる気持ちを抑えて、でも「ホントにそれでいいのか」と立ち止まって考えなければいけません。
 私は、「試験現場で思いつき、何々の類推だとか、信義則を突然持ちだすとか、新しい理論を持ち出すと失敗する可能性が高い」とも学生に常々行っています。本問でも、「確かに株主を害しているし、問題がない行為ではが、現行法上は事業譲渡に該当しないとせざるをえない。なお、子会社の株式を全部譲渡する行為など、実質的に事業譲渡に近い行為は会社法改正で規制を受けた。本問のような事例も改正による対応をまたざるを得ない。またS社は損害賠償請求で一定の損害を回復できる」と逃げても大きく失点しないと思います。
 さて、そうは言っても本問は全体として事業譲渡に該当すると捉えるべきでしょう。私は(今年の改正法の講義でも触れたのですが)事業譲渡に関する判例理論は硬直的に理解すると大いに問題がある、容易に脱法的行為を許すし、株主の権利保護のために重要でないと指摘しています。判例の定義を丸暗記するのに必死になっている学生はこういう問題に太刀打ちできないでしょう。会社法が特別決議を要求する趣旨をどう捉えるのかによって「重要な資産の処分」との違いが浮き彫りになるわけです。この観点から、「競業避止義務を負担すること」が事業譲渡の要件となるとは考えにくい、本問のように特約で排除してしまえば特別決議不要となるとは思えません。株主の関心の中心は、「法律上競業避止義務を課されてしまうほどの会社の基礎の変更は特別決議で決めてくれ」ということでしょう。ただし事業活動の承継というのは単なる重要財産の処分との区別上、必須と解さざるを得ません。そうすると、全体としてみて、10日という時期の近接性や、従業員や取引先の全部をひきついで、商標も引き継いで、同じ洋菓子事業を行うという今回の取引は事業譲渡に該当すると言って良いでしょう。
 さて、総会決議を欠くという瑕疵以外に取締役会の決議の瑕疵を言えないでしょうか。特別利害関係人が含まれるという議論は難しそうですし、この点はちょっと難しいのでしょう。
3 設問3
 平成24年判例の話は、またか、と思います。しかし、しっかり書けない人の方が多いのではないでしょうか。かくいう私も、平成24年判例が全面的な委託を受けていたはずの取締役会による行使条件の変更を認めなかったのは「いったん行使条件を決めたあとにこれを自由に代えられるとしたら、その時点で取締役会決議で新株予約権の発行を認めるのに等しいよね」という理由だ、というほどの理解しかありませんでした。
 私は問題文を読んで、どうも「取締役会に一任すること自体の可否」という論点と、仮に「一任した場合にも上場条件を廃止できるか」という論点が2つあるようだと感じました。Bの「一任することはできないのではないか」という発言が引っかかったからです。しかし、平成24年判例は委任できることを前提としているはずなので、その点については条文とにらめっこして問題を解決するしかありません。
 おそらく239条1号の解釈問題だということはわかりますが、行使条件がどうなのかはっきりしません。要するに「募集新株予約権の内容及び数の上限」は委任する場合でも絶対に総会で決めなければならないのですが、「行使条件」はこれに含まれないということだろうと理解しました。あとはテキトーに「内容」とは問題文の①ないし④にあるような基本的な条件であって、行使条件は内容が決まったあとの付随的な条件にすぎないから委任できる、というような説明を考えました。
 が、あとで調べると、平成17年の会社法改正後は「内容」には行使条件も含まれるというのが通説で、そもそも委任はできないと考えるようです。このあたり、会社法を教えている身として知らなかったのは恥ずかしい限りなのですが、こんなことまで勉強している受験生がどこまでいるのかな、と疑問に思いますね。いずれにせよ、通説的には委託自体が違法と考えるようです。
 しかし、行使条件の変更自体が違法であることは平成24年判例を知っていれば結論はわかると思います。このあたりは、いちど決めた重要な行使条件の変更を認めるとすれば、取締役会の決議で自由に新株予約権の発行を認めるのに等しく、238条2項の趣旨に反するとでも論じることができるでしょう。
 あとは、総会決議を経ない有利発行の問題に還元されるので、判例通りに書けばそう難しくありません。
 まあ、配点2割のうちの1割以下である239条1号の解釈問題は合否を決するとはおよそ思えません。事業譲渡は平成18年の過去問どおり(競業避止義務違反は特に)ですし、設問1は事例はひねってあるとは言え、競業避止義務のごくごく基本的な話なので、結局丁寧に問題文を読んで検討したかが決めてになるのでしょう。

| | コメント (0) | トラックバック (0)