日記・コラム・つぶやき

2015年5月16日 (土)

平成27年司法試験公法第一問(憲法)について

 司法試験の問題を解く方向性として、大きく①論点を探すという視点、②事例に則して具体的な利害対立がどこにあるかという2つの視点があり、得てして学生は①に陥りがちになる、だから②を意識的に行うべきだということは日頃よく言っています。

 会社法の問題を解きたいのですが、なかなか誰もアップしてくれずに待ちくたびれたので、そのことを今年の憲法の問題で実践してみようかと思います。

 ただし、②事例に則した利害対立、のみならず「私ならこう解く」という観点から「問題文の読み方」の手順に従ってやります。私の「問題文の読み方」や「現場戦略」の重要性をよく分かっている方には、実践的な思考方法を学べるのではないでしょうか。
 もう憲法の判例も学説も忘れてしまっていますが、下記はたぶんそう大筋を外した発想ではないはずです。

1 まず、設問文から読むべきことは鉄則です。「あなたがBの訴訟代理人となった場合,Bの主張にできる限り沿った訴訟活動を行うという観点から,どのような憲法上の主張を行うか。(配点:40)
 なお,市職員の採用に係る関連法規との関係については論じないこととする。また,職業選択の自由についても論じないこととする。」
 中身を読まないでも、「市職員の採用問題」だが、「職業選択の自由」の問題ではないことがわかります。ぱっと見思ったのは、国籍条項の問題による差別でも論じさせるのかということです。
 それと、「Bの主張にできる限り沿った訴訟活動」とあるので、Bの主張をしっかり把握することが重要であることがわかります。

2 それで中身に入ります。事案はそう複雑でなく、資源Yの活用に反対するBが、過去の市民フォーラムでの発言と、Yに対するBの考え方を理由に、資源Y採掘を行う民間事業者をA市において監督等するプロジェクト要員として採用されたところ、一種の試用期間中に市が正式採用を決めなかった、というものです。まずザクッと大枠を掴みます。

3 次に着目すべきは「Bの主張」部分です。
「Bは,Cと自分とでは,A市におけるY採掘事業に関して公の場で反対意見を表明したことがある点では同じであるが,その具体的な内容やその意見表明に当たってとった手法・行動に大きな違いがあるにもかかわらず,Cと自分を同一に扱ったことについて差別であると考えている。また,Bは,自分と同程度あるいは下回る勤務実績の者も含まれているDらが正式採用されたにもかかわらず,A市におけるY採掘事業に反対意見を持っていることを理由として正式採用されなかったことについても差別であると考えている。さらに,差別以外にも,Bは,Y採掘事業を安全に行う上での基本的条件に関する自分の意見・評価を甲市シンポジウムで述べたことが正式採用されなかった理由の一つとされていることには,憲法上問題があると考えている。」
 こんなにわかりやすい誘導はなかなかないのでは。
 ①BとCを同一扱いしたことの平等原則違反
 ②BとDの平等原則違反
 ③シンポジウムで述べたこと不採用の理由としたことの憲法上の問題
の3つを論じればよいと、極めて明確です。
 ③については、「Y反対」という思想良心の自由と、それを表現したことにかかわる表現の自由の問題であろうと容易に想像できます。

4 ここからが「事例に則して具体的な利害対立」という視点の活かしどころです。
 ①BとCとの平等原則違反について
 Bは「俺はCと違うんだ」と考えているのだから、問題文の設定上どう違うかを具体的にあぶり出す必要があります。いくつかポイントがあります。
 ・ BはYの有用性を認めつつ、安全確保が不十分だから反対という立場、Cは絶対反対という立場
 ・ Bは意見表明にとどまり、Cは威力・暴力で刑事罰も受けた
  もう少し詳細にいうと、Bは実家である甲市のシンポジムで、一般論
を述べたほか、A市の計画を引き合いに、安全性に問題があるから現状では反対だと述べた。
   Cは、開催自体を中止させようとして、(たぶん単独で)、拡声器をつかって中止を訴え、職員を殴って傷害罪で罰金刑となった(大きく報道はされてない)。
 ※なお、甲市はBの実家だが、Cは特に関係なくやってきたことは大した差ではないが一応考慮に値するでしょう(書いて損はありません)。
 ・ BはY採掘には反対だが、少しでも安全性を高めようという動機、Bは反対運動に役立つ情報を得る(不正確だがわかりやすく言えば情報漏洩目的)という動機
 では立場を替えて、A市だったらどう考えるでしょうか。直感的にまず浮かぶのは、「BとCを同じに扱うのは不平等って何よ」という部分でしょう。順に考えを深めていくと「仮にBが10悪いのに対し、Cは100悪いとして、市としては10悪ければアウトと考えているから不平等でない」と考えられそう。もう少し法的に整理すると「正式採用をするか否かの基準は市が定めるものであり、BCともにその基準を満たしていないことは明らかだから、平等原則は問題とならない」ということでしょう。
 別に「ホントに平等原則違反なの」という観点から立論できないでしょうか。確かに上記に上げたとおりの行為の程度の差があるのですが、それは市にとって有意なのでしょうか。例えばBは140cm、Cは170cmという事実の差は否定できませんが、仮にBのみ不採用になったとしても「30cmの身長差を理由に不採用にしたのは平等原則違反だ」という主張が通らないことは明白です。BCに一見ある事実の差は「採否」の問題として有意でないという主張があり得るはずです。そうしてみると、「Y採掘に反対の意思を持っている、その意思を持っているのみならず実際に(手段はどうであれ)公の場で表明した」というBCに共通に認められる事実のみを有意に斟酌したのみであって、平等原則違反ではない、という主張が考えられましょう。

5 ②BとDとの平等原則違反
 同様に要素を考えると、「BとCの勤務実績はDらと比較してほぼ同程度ないし上回るものであったが,いずれも甲市シンポジウムでのY採掘事業に反対する内容の発言等があることや,Y採掘事業に関するそれぞれの考えを踏まえると,Y対策課の設置目的や業務内容に照らしてふさわしい能力・資質等を有しているとは認められなかったと回答した。」と問題文にあるので、「実績は俺の方が上なのに、発言や考えをもと不採用とするのは差別だ」となりましょう。
 対する市は、「実績は唯一絶対の基準ではないのだ、発言や考えを考慮するのは合理的だ」と主張するでしょう。例えば「Bは単なる一般論だけではなく、A市のことを引き合いに出してシンポジウムで反対の立場を述べている。A市は賛成前提なのだから、明確にAの立場に反対で、そのことを公の場で表明した者を採用すると、業務上民間業者に不当に厳しい要求を行うかもしれないし、少なくとも市民にそう見られる危険がある」こういう主張があり得るでしょう。

6 ③他の憲法上の問題
 これはちょっと冒頭の論点チックな視点から考えがちになりそうですが、Bとしては「俺のY資源反対という思想良心の自由は保証されているが、その立場を聴取したことやそれを理由に不採用とすることは思想良心の自由の侵害だ」という感じ。対する市は「別に内心で「反対」と思うのは自由だし尊重する。ただ、プロジェクトの性質上、賛成か反対かは聞かざるを得ないし、反対だと明確に表明した以上採否について斟酌せざるをえない。」
 「俺がシンポジウムで発言することは表現の自由の範囲内で、これを理由に不採用とするのでは表現の自由の侵害だ」対する市は「別に表現行為自体を禁止しているわけではない。匿名で表現するのは自由だし、別にA市のこのプロジェクトで働けなくなることという弊害を受容すればいくらでも表現行為は行える」と言うでしょう。

7 最後に
 いろいろと書いて来ましたが、この事案を通じて一番ポイントとなってくる利害対立は、B「思想的に反対とはいえ、その自己の良心とは別に安全性を高めるという正当な目的のために働こうとしており、それを過去の言動で不採用とするのはおかしい」
市「仮にそうだとしても中立性を疑われるような人を雇うのは見かけの公平らしさを損なうし、万一後に変心してBのように反対運動目的に情報を流用されてもこまるから、そのおそれであっても防止しなければならない」
 という部分でしょう。
 私の憲法上に関する知識が足らないので、これをどの条文に位置づけるのがよいかわからないのですが、たぶん③の思想良心の自由あたりに位置づけるのでしょう。
 そして、私自身の見解としてはB不採用は違法、市は「一見中立性を欠くようなBであっても、市の目的に適合しているわけだし、仮に中立性を市民に疑われたとしても『いや、反対思想を持っているBだからこそ、厳密に民間業者を監督でき、安全性を高められる』」と説明する度量があるべきだと思います。というわけで、違憲(あるいは違憲と断ずるかはともかくとして、採用しないのは違法)と考えますが、こういう部分を「自分の考え」として答案にしっかり示すのが重要なのでしょう。

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2014年6月28日 (土)

実務家・ビジネスマンのための教科書的でない実践的中国語勉強法

 今回はまったく法律の話ではなく、実務家が中国語をどう学ぶかという話です。私は留学もしていませんし、なんらかの学校に通ったこともありませんが、中国語の契約書をチェックしたり、作成したり、中国語の資料を読みあさったりして、なんとか中国語を使った中国法の業務をやっています。
 もうはじめて中国に行って約10年、当時中国語を何もしらなかったので(余談ですが、大阪から上海にフェリーで行きました。まさかその6年後上海の法律事務所で仕事しているとは当時予想だにしていませんでした)、勉強歴も10年ということになりましょう。が、もちろんこの間は司法修習生をへて弁護士として業務を行って来たわけで、法律の勉強はあまりしませんが、実務家として仕事をし、成長するための勉強がメインであったわけです。中国語はあくまでおまけであり、時間もないし、まじめにやっては疲れてパンクしてしまいます。
 そのため、「如何にサボって効率を上げるか」ということに関しては頭を使い、現に疲れない勉強というのを実践してきたと思います。
 一般の教科書なり、世上いわれていることは建前論すぎて忙しい実務家、ビジネスマンがやるにはムリがありすぎます。一応ひととおりいろんな本を昔によんだつもりですが、あまり役に立つ物はありませんでした。中国語の習得は目的でなく、ビジネスをやるための手段なのですが、ムダが多すぎるからです。
 というわけで、忙しい実務家、ビジネスマンがどうやって勉強すべきか、そのためにはどこはがんばってどこはサボるのか、という本音の実践的中国語勉強法を書きます。重要なのは、「ピンインを覚えないでいい」「四声を覚えないでいい」「難しい発音を覚えなくていい」というところです。多分、大学の中国語の先生が見たら卒倒しかねないものですが、これが優先度からみた真実というべきものです。プロの通訳等を目指すのでなく、本業の幅を広げるためのものなのですから。私は大学の第二外国語はドイツ語でしたが、大学の語学の教え方は無意味でしょうね。生意気ですが、私にやらせればもうちょっと実用的にやれる学生を育て上げられると思います。
 以下、必要な事項はいやでもこれだけは乗り越えなければいけないこと。逆にいえば頑張る部分はここだけです。又は、ここを頑張らないでマスターする方法を考えればよいわけです。
 そしてもう一つの前提で、法律業務に関していえば、読解と入力さえできれば構いません。しゃべることができると「おお」となるくらいで、現地の法廷に上がるわけでもないので、必要な場面は乏しい。つまり効率を優先するならリスニング・スピーキングは度外視してしまえばいい。
 なお、私は、読解はほぼどんな文献でももできます。日常会話についてはほぼ問題ないと思います。法律的なことも、たまに中国語しかわからない依頼者と打合せたりしますが、まず大丈夫です。中国人の学生をインターンで預かっていたときは、独占禁止法など比較的高度な内容も中国語でやりとりしていました。
● 読解について
<必要な事項>
 ・ 簡体字の習得
 ・ 典型的な接続詞、単語等の習得
<効率との関係で有害な事項>
 ・ 文法
 ・ 漢字の書き取り
 ・ ピンインを覚えること
●リスニング、スピーキングについて
<必要な事項>
 次の発音はマスターしたほうがよい。ただし、マスターしなくとも日本人のカタカナ中国語になれている中国人には話が通じる。それで足りるなら無視してもいいくらい。
 ・ 捲舌音(巻き舌)、r,zh,sh,chその他
 ・ e(呻くようにウーという)
<効率との関係で有害な事項>
 ・ ピンインを覚えること
 ・ 四声を覚えること
 ・ 上記以外の発音をマスターすること
 具体的な学習法はこの記事に反響があれば詳しく書くかもしれません。

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2007年7月27日 (金)

平成19年旧司法試験




 今回は趣向をかえて、原点に戻るということで旧司法試験の問題について書いていこうと思います。何の資料もみず、条文すら横着して引いていませんし、司法試験をうけてからもう3年経つので、論点おとしや誤りがあってもそこはご愛嬌ということでご勘弁ください。



第 1 問
 A市では,条例で,市職員の採用に当たり,日本国籍を有することを要件としている。この条例の憲法上の問題点について,市議会議員の選挙権が,法律で,日本国籍を有する者に限定されていることと対比しつつ,論ぜよ。



割と普通の問題ですね。過去問で似たものがあったと思いますが、題材となった事例につき最高裁判決が出たことも(しかも逆転)影響してか、再度出されたようです。この最高裁判例のロジックを私はよく理解していないのでなんともいえないんですが。
 いずれにせよ、後段は当然合憲ということを前提に(ここを違憲として論じて行く手もありますが難度が高くお勧めはできませんね)、似ているが違い違憲、違う部分もあるが本質はいっしょで合憲という比較の視点をきっちり出せるかどうかが一番のポイントでしょう。一番シンプルな構成は、後段は行政の意思決定に直接かかわる職務であるから合理的な制限であるが、前段はそうではない。職種を問わず一律に国籍を要件とするのは広すぎる、とする構成でしょう。ただ、「市」という比較的小さな地方公共団体であり、住民自治が重視されるということはどこかに盛り込んだほうがいい視点でしょうが。



第 2 問
 「内閣は,条約を締結する際,その条約の合憲性について,最高裁判所の見解を求めることができる。最高裁判所が違憲であるとの見解を示した場合は,内閣はその条約を締結することはできない。」という趣旨の法律が制定されたと仮定する。この法律に含まれる憲法上の問題点について論ぜよ。



 これは面白い問題ですね。条約と憲法の効力関係の論点は問題なのですが、それよりは、司法試験の好きな「司法権」の理解にかかわる問題といってよいでしょう。すなわち、この制度が抽象的違憲審査性ではないか、という点をもっとも厚く、司法権の本質から論じれば評価が高いと思われます。平成12年だったか、下級審が重要と認めた憲法上の争点についてのみ最高裁に移送することが許されるか否かが問題という問題があったと思いますが、その系列ですね。最高裁の勧告的意見が許されるか、という問題もこれに類するといえるでしょう。
 司法権を具体的争訟の解決に限定するかそうでないかはともかく、真剣に対立する当事者がいて十分に議論が尽くされることが司法権の行使を正当化する契機となる、という見解が支配的であると思いますが、この法律は対立する当事者関係が想定されていないところが一番の問題で、やはり抽象的違憲審査性ということになると思います。





【刑 法】
第 1 問
 甲,乙及び丙は,事故死を装ってXを殺害しようと考え,丙がXを人けのない港に呼び出し,3名でXに薬剤をかがせて昏睡させ,昏睡したXを海中に投棄して殺害することを話し合って決めた。そこで,丙は,Xに電話をかけ,港に来るよう告げたところ,Xはこれを了承した。その後,丙は,このまま計画に関与し続けることが怖くなったので,甲に対し,電話で「待ち合わせ場所には行きません。」と言ったところ,甲は,「何を言っているんだ。すぐこい。」と答えた。しかし,丙が待ち合わせ場所である港に現れなかったので,甲及び乙は,もう丙はこないものと思い,待ち合わせ場所に現れたXに薬剤をかがせ昏睡させた。乙は,動かなくなったXを見て,かわいそうになり,甲にX殺害を思いとどまるよう懇請した。これを聞いて激怒した甲は,乙を殴ったところ,乙は転倒し,頭を打って気絶した。その後,甲は,Xをでき死させようと岸壁から海中に投棄した。なお,後日判明したところによれば,Xは,乙が懇請した時には,薬剤の作用により既に死亡していた。
 甲,乙及び丙の罪責を論ぜよ(ただし,特別法違反の点は除く。)。



 やはり出たか、という早すぎた構成要件実現の問題です。でも問題としてはそう難しくはないですかね。
 甲については、判例どおりにやっていけばいいように思います。あとで、乙との関係で問題は残りますがね。
 丙については離脱の問題ですが、典型的であまり問題がない。予備の中止も問題になりうるのかも知れないですが、すくなくともあまり書くことではないと思います。
 乙は、着手後の離脱の問題でしょうが、前提として殺人罪の実行行為性をいつ認めるのかが問題でしょう。判例の見解のように、薬物をかがせた時点で殺人罪の実行の着手を認めると、乙の離脱は問題とならないですが、そこのところが一番の考えどころでしょうね。共犯間で実行行為の相対性を認めるのは勇気がいるな、と思うのですが、共犯の錯誤でもあるように異なる故意を持つものでも共犯関係は成立するので、それが一番処理しやすいかもしれません。まあ、本番ではぼろを出さないほうが重要と思うので、着手後の離脱の要件と当てはめだけは点数が振られてそうなので書いておいて、でももう既遂だから残念だが離脱は認められない。情状で考慮できるから足りると逃げるのが一番無難な構成だとおもいます。僕なら、前者で書こうという誘惑を必死で抑え、後者で書いていくかな。



第 2 問
 甲は,交番で勤務する警察官Xに恨みを抱いていたことから,Xを困らせるため,Xが仕事で使っている物を交番から持ち出し,仕事に支障を生じさせようと考えた。そこで,甲は,Xが勤務する交番に行き,制帽を脱いで業務日誌を書いているXに対し,「そこの道で交通事故があって人が倒れています。」とうそを言った。これを信じたXは,制帽と業務日誌を机の上に置いたまま,事故現場に急行するため慌てて交番から出て行ったので,甲は,翌日まで自宅に隠しておいた後返還するつもりで,交番内からXの制帽と業務日誌を持ち出し,自宅に持ち帰った。
 その日の夜,甲は,知人の乙と会い,「警察官を困らせるために交番から制帽と業務日誌を持ち出してきたが,もういいから,明日こっそり交番に返しておいてくれ。」と言ったところ,乙が,甲に対し,「警察官の制帽なら高く売れるよ。」と言ったので,甲は,業務日誌だけを乙に渡し,制帽については,Xに返すのをやめ,後に売るために自宅に保管しておくことにした。翌日,乙は,この業務日誌を持って交番に向かったが,その途中,このまま返すのが惜しくなり,この機会にXに金を出させようと思った。そこで,乙は,交番に着くと,Xに対し,「この業務日誌を拾った。マスコミに持って行かれたら困るだろう。10万円出せば返してやる。」と言ったが,Xは,これに応じなかった。
 甲及び乙の罪責を論ぜよ(ただし,特別法違反の点は除く。)。



 これも、ついに出たか、という感じですね。
 第一段落は、公務と業務の区別の問題がまずありますが、これはなぜか受験生の間で有力な公務振り分け説によると不当な結論じゃないの、という問題意識が強く反映した問題でしょう。判例によるのが一番いいと思いますが、「権力的公務は威力・偽計を自力で排除する実力がある」という主張をきっちり批判するのがポイントでしょうね。この論点はマニアックな説がいろいろあったと記憶していますが、「威力」と「偽計」で分けるとかあまり細かいことを言う説はよほどの自信でもない限りとらないほうが無難でしょうね。趣味で司法試験をやるなら別ですが。
 もうひとつ、不法領得の意思の問題なのですが、これも判例を前提としても、すくなくとも当てはめ段階できっちり類似の事例を思い浮かべつつ説得的に展開していかなければいけないですね。一時的な使用で、使用窃盗だ、という答案や、利欲目的がないから不法領得の意思がないんだ、という平板な答案では評価が低いでしょう。使用窃盗については車の乗り回しの判例がありますし、利欲目的については典型的なものでは下着泥棒があり、この事例はただちに下着泥棒ではないにしても、あっさり利欲目的を否定しないでいわゆる悩みくらいは見せたほうがよいように思います。結論的には利欲目的がない、というほうが書きやすい気はしますが。帽子を結局領得していることと、不法領得の意思の論点は関連するので、そのことにも触れておくといいかも知れません。
 あとは、判例があるところで、盗品運搬罪の問題もきっちり論じたほうがいいですね。保護法益論から演繹的に結論が出るものではないにしろ、運搬罪を肯定するなら追求権説からの説明をきっちりする必要があるでしょう。


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2007年6月23日 (土)

ご挨拶




 みなさま、はじめまして。平成18年10月より、名古屋で弁護士として執務をはじめた野田雄二朗と申します。
 日々の仕事の中、ボスより指導を受けたり、同僚と論争したり、自分で調べものをしたりと、学ぶことは多いのですが、忙しさにかまけて右から左へ……というのが悩みの種。そこで、成果をきっちり形に残そう、ということで、備忘録代わりにブログを始めることにしました。
 ゆくゆくは、法的な論点や社会問題に対して、一言いえるように……という気持ちはあるのですが、どうなることやら。


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