令和6年司法試験民事系第2問(会社法)について
民法と同じだが、問題文はここから。
https://www.moj.go.jp/content/001421191.pdf
あんまりおもしろくないが、民法よりは多少は面白い問題ではあった。
設問1は、要するに、裁判所の許可を得て臨時総会を招集した株主が、当該臨時総会での株主提案(取締役、監査役選任議案)について、自己の提案に賛成した場合に1000円の商品券を贈呈するとしたという事案である。小問1と2に分かれていて、小問1は、法令反の中身は問わず、監査役として総会開催をやめさせる手段の有無を問うものである。小問2は株主提案が承認可決された前提で、反対する株主が決議取消しの訴えを起こした場合の帰趨を問うものである。
直感的に、モリテックス事件の株主側バージョンのような感じで、確か最近こんなことが問題になった事例があったなあ、というくらいの知識しかない。
小問1、2共に聞いたことはない問題なのだが、問われていることは明確なので、例によって私がいつも言っているように、両説考えて、迷ったフリをして結論を出せばよい。そういう意味で難しいことはない。
小問1は、監査役の違法行為差止請求権を被保全権利とすることが直感的に浮かぶ。が、当然取締役の違法行為差止めの問題なので、これを類推するしかないか。。。。他の構成がぱっと出てこないので、これしかないように見える。総会開催差止めの訴えを本案として、監査役の違法行為差止請求権を被保全権利としてやるしかないだろう。
小問2は、株主側なので当然モリテックス事件のような利益供与にはあたらない。ただ、「株主提案に応じたら1億円あげるよ」とやって議決権を買収したら決議に瑕疵があることになるだろうから、要するに一般的に決議方法の著しい不公正にあたるかという問題だろう。具体的な事情が列挙されているので、繰り返しだが、迷ったフリをして結論を出せばいい。
※ 後で調べると、プラコー事件(東高令和2年11月2日)がモロに元ネタであった。そこそこに盛り上がった事件であるが、中身の検討などすっかり怠っていたので、反省である。
さて、小問1であるが、上記のように監査役の違法行為差止め請求権の類推自体は認めていいように思える。が、まずは裁判所が招集許可したところの臨時総会の開催を差し止められるのかという根本的な問題が気になる。まあ、招集許可自体は議案の中身や背景などを考慮せず、形式的に要件が満たされているかどうかも問題だろうから、許可はされたが、違法な決議を目的とする総会だということは有り得るのだろう。
次に、手段として総会開催差止めでいいのかという点も気になる。普通は選任されたところの取締役や監査役の職務執行停止・代行者選任の仮処分の方が適するのではないか?自分だったらそっちを選ぶと思うが。。。余談だが、以前経験した総会招集許可がらみの事件で、当方が代取であるが、当方から株の譲渡があったかが前提として争いになっていて、譲渡を受けて唯一の株主となったという相手方が招集許可を申し立てたという事件があった。そもそも株の譲渡の有無、つまり株主性に争いがある場合は先に株主性を訴訟で確定してから招集許可の可否を決定すべきというのが東京地裁の考えだが、この件では招集許可が認められてしまった。ただ、ウルトラCがあって、その中身は書けないが、そもそも相手方は招集許可ではなく、当方の職務執行停止・代行者選任の仮処分を申し立てるべきであったという事案がある。どういう手段を取るかは慎重に考えなければならないのである。確かに代行者選任には多額の予納金がかかると思うし、確認の訴えの利益に関する議論ではないが、紛争な抜本的解決のために開催禁止がもっとも適切という議論も可能かもしれない。
あと、結局「職務執行停止・代行者選任でいいんじゃないの」ということとの関連で、「著しい損害」があり得るのかという点も気になる。一般に総会開催禁止については保全の必要性も高度なものが求められるような気がするが、どうなのだろうという気がする。会社法の問題で保全の必要性を書かなきゃいけないかな、、、この辺の記憶がうろ覚えなので、自分が受験生だったら、「保全の必要性も問題がある」とかちょこっと触れるだけにして逃げるかもしれない。
ということで、違法行為差止めの類推について、その趣旨から一部株主の違法行為にも類推されていいことを論じた上で、招集許可がなされていること、代替手段もあることから「著しい損害」がないとやっていくか、抜本的解決を強調して「著しい損害はある」とやっていくかという感じだろうか。保全の必要性の問題が怖いので、個人的には著しい損害がないとしたうえで、保全の必要性も疑問があるくらいにやっておきたいのではある。
なお、設問は監査役から相談を受けた弁護士の立場から「開催をやめるようにに求める手段の有無についてどのように回答すべきか、論じなさい。なお、本件臨時株主総会1の開催に法令違反があるかどうかについては、論じなくてよい。」とされていて、どの範囲で論じたらいいのか悩ましい。法令違反は論じなくてもいいが、類推を前提に「著しい損害」の問題は論じなければならないような気がする。そうでないとほとんど論じることがない。もう一点、弁護士の立場からしたら、なんとか可能性がある方向で回答する方向になりそうなので、そういう意味では著しい損害を肯定する構成もありかもしれない。
小問2は、知らないが、そう難しくはないだろう。利益供与の類推とかを書くのは危ない気がする。どう考えても、会社財産流出防止という趣旨に合わない。大昔の過去問で、株主側の委任状勧誘において白紙委任状を用いることの可否というのがあったと思うが、株主が自分の株主提案に賛成する株主を募るのに一定の経済的利益で誘導することそれ自体は否定されないだろう。
この問題の設例にの特色は、500円のモリテックス事件と異なり、1000円となっていること、ただモリテックス事件が賛成でも反対でもニュートラルに議決権行使した人に贈呈だったのに対し本問では株主提案に賛成した人のみに贈呈するとされていることが一つのポイントである。利益供与の問題ではないことから、モリテックス事件と比較しながら、「これならギリギリセーフ」とやるのは一つの考えである、というか出題者がニヤリとしてくれる感じがする。
なお、実際75%の賛成で株主提案が可決されたこと、例年より議決権ベースで30%出席が増加したこと、例年の甲社提案議案よりも今回の株主提案の賛成割合は増加したなどの事情があり、これは著しい不公正を肯定する方向の要素ではある。この辺にもしっかり目配りしておく必要がある。
まあ、例によって結論はどっちでもいいだろう。何度もいうが迷ったフリが重要なのである。
設問2は、上記乙社をキャッシュアウトしてMBOを行い閉鎖会社になったところ、キャッシュアウトに協力した丙社(200/600株)と経営陣との間に対立が生じ、さらに株式併合等を用いて丙社を締め出したというものである。ややこしいのは、株式併合後に、さらに1株を200株に分割する株式分割、役員宛の第三者割当が予定されているというところである。設問は株式併合の効力が発生した時点で、株式併合の効力を争う手段を問うている。
まず、株式併合の効力が発生してしまっているのだから、吸収説によれば基本的に株式併合無効確認の訴えのみで総会決議の瑕疵を主張できることになりそうである。
問題の決議の瑕疵だが、どうもスクイーズアウト自体は会社法上当然に認められているという頭があるので、「そりゃ丙の主張は通らないでしょ」と当然に思ってしまう。それでは身も蓋もないので、多分平等原則違反とか、特別利害関係人による著しく不当な決議だとかをいうのであろう。しかし設問の事情からしてもそう濫用的な締め出しとは思えず(丙社は競業を営んでいるとか、企業価値維持のためには丙社の締め出しも、資本関係の維持もニュートラルだったとか)、まあ書くことに悩んでしまう。なにせ、配点が設問1と同じ50点である。
他になにか問題がないか考えるに、まあ併合により端株主になった丙社の原告適格の有無とか(肯定される)、併合理由の説明は形式的な説明で足りる(合理的な理由を説明しなければならないのではない)とかくらいだろうか。。。どうも書くことが思い浮かばない。
設定自体はかなり手が混んでいる。一旦100株を代取AがBから取得したことにより300株を超えるようになった設定とか、その後の第三者割当を行う設定とか、これが何のためにあるか、いくら考えてもわからなかった。ところで、つい気になってしまうが、実務的には丙社とABCの株主間契約でちゃんと対処しておけよと突っ込みたくなるのだが、まあそれをいうと元も子もないかもしれない。
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