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2024年7月21日 (日)

令和6年司法試験民事系第1問(民法)について

 例によって昨年から何の因果か民法もロースクールで担当してるので、解いてみることにした。
 問題文はここから。
 https://www.moj.go.jp/content/001421191.pdf

 全体として、設問1と2で配点50:50で、設問1は4つに細分されるので、まああまりたくさん書かず、ポイントを抑えて論述しておけばいいのだろう。
 はっきり言って、あまりひねりも感じられず、面白くない問題である。

 設問1はこまごまとわかれている。わりと論点も明確で、単純そうな問題である。

 1(1)アは、子が父所有の建物を無断で他人物賃貸借した事案で、子が死亡して父が単独相続したところ、他人物賃借人が父に対して賃借権を主張できるかという問題である。そうひねりはないと思うが、相続によって当然追完が生じるというのも妥当でなく、父が追認拒絶することもも矛盾挙動ではないから、追認拒絶も信義則に反しないというまあオーソドックスな話だと思う。この無権代理人と相続の応用のような、他人物売買と相続みたいなのは予備だったか、本試験の過去だったか、出ていたと思う。

 1(1)イは、上記他人物賃貸借契約で、土地の使用収益が不可能になったら300万の損害賠償を支払うという損害賠償の予定という特約があった前提で、当該300万の支払いがあるまで占有する権利があるという反論をしたが、通るかという問題である。当然に同時履行の抗弁か留置権だろう。
 相続を度外視すれば、父から明渡しを求められた場合、契約関係がないから同時履行の抗弁は問題にならず、留置権の問題だろう。先に留置権を検討するが、相続がなければ留置権が成立しないのは明らかと言っていいのではないか。というのは、これで留置権が成立するなら、他人物賃貸借を容易に本人に対抗させるに等しいからである。それで、相続という偶然の事情によって留置権を主張できるようになるというのはいかにも不当であろうから、感触としては留置権の成立を否定した方がいいように思う。同時履行の抗弁も、そもそも子に対して問題になるかも微妙であるし、同じ理由で否定するほうがいいように思う。
 逆から考えるなら、合理的な損害賠償額なら父も受忍すべきというものであろうか。300万の損害賠償義務を父が相続していることは間違いないのだから、そういう事案全体の利益衡量として、合理的な額なら留置権の成立を認めてもよい、子の相続を放棄しない以上、他人物賃貸借という悪行を行ったBの責任をも甘んじて引き受けるのだと考えると、あり得ない考え方でもないように思える。
 真面目に考えると結構難しそうではあるが、配点の関係からそう深入りしなくていいのだろう。理屈としては、牽連性を否定するか、そもそも父に対して明け渡した時点でようやく損害賠償債権が発生するので、弁済期が来ていないというのがやりやすいかもしれない。占有が不法行為によって始まったという点を類推するという手もあるかもしれないが、危険度がやや増す。そこで、弁済期の問題とすれば同時履行の抗弁もあわせて否定できるので、楽であろう。大事なのは、利益衡量と理論構成を共にしっかり示すことである。

 1(2)は、賃貸借において、賃借人が雨漏りで一部使用ができなくなったところ、賃貸人に通知せずに修理したという場合で、修理までの賃料一部相当額の返還を求めること(ア)、業者に支払った報酬相当額30万円(適正相場は20万円)の返還を求めることができるか(イ)というものである。
 まず、アだが、なんとなく「使用収益ができなくなった割合に応じて当然賃料債務が消滅する」と思うのだが、この辺は改正があったとこだろう。611条の1項でこの当然減額のことが明文化されている。これはこの条文の当てはめ以上の問題はないと思うのだが。。。。
 イは、これも改正絡みで607条の2で賃借人が修繕できる場合を規定している。修繕が必要と通知したが賃貸人がしないか、急迫の事情がある場合がそれだが、設問では急迫の事情がない。要するに無断改装に類することになる。
 ただ、無断かどうかは措いておいて、雨漏りの修理は一般に必要費であろう。相場の20万円と、30万円の差が一つのポイントだが、直感的には急迫性があれば30万円全額を認めていいように思う。急迫性がない以上相場の20万円というのは一つの価値判断としてあるだろう。10万円分は、事務管理における有益費を柔軟に解する議論を応用して、急迫性があれば有益費と認めるという考え方がとれるのではないか。あんまり書くことがなさそうなので、この辺はそこそこきっちり書いた方がいいように思う。
 設問1を通じて1(1)アイ(2)アイで、配点は10:20:5:15のような感じだろうか。バランスを崩さないことが重要だろう。

 設問2は、基本的に設問1と独立している。
 G→F
 ↓(財産分与・予期せぬ課税で錯誤取消可能)
 H(Gの妻)登記
 ↓
 I
 要するに土地を巡る上記のようなFI間の優劣関係である。Iは錯誤取消前の第三者、Fは錯誤取消後の第三者(錯誤を前提に登記は未了だが、Gが所有者と信じて譲渡を受けた)で、それぞれ登記を具備していない。
 あまりひねりがないように思え、予期せぬ譲渡所得税の課税が錯誤取消の対象になるかどうかは実務家は皆知っていると思うが、受験生はよくしらないかもしれない。ただ、錯誤を否定すると後の問題がでないから、まず錯誤肯定方向で論じられるだろう。要素なのか、いわゆる動機の錯誤だが、表示があるのかという点を理論的にしっかり書く必要がある。
 さて、判例的にいけば、取消前の第三者は登記なくして保護される。I(善意無過失)は取消前の第三者として所有権を取得することは可能である。ただ、登記なくして所有権をFに対抗できるかという点では、復帰的物権変動的に考えるとHを起点とする二重譲渡関係だから、登記なくしてFに対抗できないと考えるのがオーソドックスなのだろう。それにしてもひねりが少ないような気がする。そもそも取消前後で扱いを分ける判例法理には批判が強いが、その問題意識を論じて欲しいようにも見えない。

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