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2024年7月

2024年7月21日 (日)

令和6年司法試験民事系第2問(会社法)について

 民法と同じだが、問題文はここから。
 https://www.moj.go.jp/content/001421191.pdf

 あんまりおもしろくないが、民法よりは多少は面白い問題ではあった。

 設問1は、要するに、裁判所の許可を得て臨時総会を招集した株主が、当該臨時総会での株主提案(取締役、監査役選任議案)について、自己の提案に賛成した場合に1000円の商品券を贈呈するとしたという事案である。小問1と2に分かれていて、小問1は、法令反の中身は問わず、監査役として総会開催をやめさせる手段の有無を問うものである。小問2は株主提案が承認可決された前提で、反対する株主が決議取消しの訴えを起こした場合の帰趨を問うものである。

 直感的に、モリテックス事件の株主側バージョンのような感じで、確か最近こんなことが問題になった事例があったなあ、というくらいの知識しかない。
 小問1、2共に聞いたことはない問題なのだが、問われていることは明確なので、例によって私がいつも言っているように、両説考えて、迷ったフリをして結論を出せばよい。そういう意味で難しいことはない。
 小問1は、監査役の違法行為差止請求権を被保全権利とすることが直感的に浮かぶ。が、当然取締役の違法行為差止めの問題なので、これを類推するしかないか。。。。他の構成がぱっと出てこないので、これしかないように見える。総会開催差止めの訴えを本案として、監査役の違法行為差止請求権を被保全権利としてやるしかないだろう。
 小問2は、株主側なので当然モリテックス事件のような利益供与にはあたらない。ただ、「株主提案に応じたら1億円あげるよ」とやって議決権を買収したら決議に瑕疵があることになるだろうから、要するに一般的に決議方法の著しい不公正にあたるかという問題だろう。具体的な事情が列挙されているので、繰り返しだが、迷ったフリをして結論を出せばいい。
 ※ 後で調べると、プラコー事件(東高令和2年11月2日)がモロに元ネタであった。そこそこに盛り上がった事件であるが、中身の検討などすっかり怠っていたので、反省である。
 
 さて、小問1であるが、上記のように監査役の違法行為差止め請求権の類推自体は認めていいように思える。が、まずは裁判所が招集許可したところの臨時総会の開催を差し止められるのかという根本的な問題が気になる。まあ、招集許可自体は議案の中身や背景などを考慮せず、形式的に要件が満たされているかどうかも問題だろうから、許可はされたが、違法な決議を目的とする総会だということは有り得るのだろう。
 次に、手段として総会開催差止めでいいのかという点も気になる。普通は選任されたところの取締役や監査役の職務執行停止・代行者選任の仮処分の方が適するのではないか?自分だったらそっちを選ぶと思うが。。。余談だが、以前経験した総会招集許可がらみの事件で、当方が代取であるが、当方から株の譲渡があったかが前提として争いになっていて、譲渡を受けて唯一の株主となったという相手方が招集許可を申し立てたという事件があった。そもそも株の譲渡の有無、つまり株主性に争いがある場合は先に株主性を訴訟で確定してから招集許可の可否を決定すべきというのが東京地裁の考えだが、この件では招集許可が認められてしまった。ただ、ウルトラCがあって、その中身は書けないが、そもそも相手方は招集許可ではなく、当方の職務執行停止・代行者選任の仮処分を申し立てるべきであったという事案がある。どういう手段を取るかは慎重に考えなければならないのである。確かに代行者選任には多額の予納金がかかると思うし、確認の訴えの利益に関する議論ではないが、紛争な抜本的解決のために開催禁止がもっとも適切という議論も可能かもしれない。
 あと、結局「職務執行停止・代行者選任でいいんじゃないの」ということとの関連で、「著しい損害」があり得るのかという点も気になる。一般に総会開催禁止については保全の必要性も高度なものが求められるような気がするが、どうなのだろうという気がする。会社法の問題で保全の必要性を書かなきゃいけないかな、、、この辺の記憶がうろ覚えなので、自分が受験生だったら、「保全の必要性も問題がある」とかちょこっと触れるだけにして逃げるかもしれない。
 ということで、違法行為差止めの類推について、その趣旨から一部株主の違法行為にも類推されていいことを論じた上で、招集許可がなされていること、代替手段もあることから「著しい損害」がないとやっていくか、抜本的解決を強調して「著しい損害はある」とやっていくかという感じだろうか。保全の必要性の問題が怖いので、個人的には著しい損害がないとしたうえで、保全の必要性も疑問があるくらいにやっておきたいのではある。
 なお、設問は監査役から相談を受けた弁護士の立場から「開催をやめるようにに求める手段の有無についてどのように回答すべきか、論じなさい。なお、本件臨時株主総会1の開催に法令違反があるかどうかについては、論じなくてよい。」とされていて、どの範囲で論じたらいいのか悩ましい。法令違反は論じなくてもいいが、類推を前提に「著しい損害」の問題は論じなければならないような気がする。そうでないとほとんど論じることがない。もう一点、弁護士の立場からしたら、なんとか可能性がある方向で回答する方向になりそうなので、そういう意味では著しい損害を肯定する構成もありかもしれない。

 小問2は、知らないが、そう難しくはないだろう。利益供与の類推とかを書くのは危ない気がする。どう考えても、会社財産流出防止という趣旨に合わない。大昔の過去問で、株主側の委任状勧誘において白紙委任状を用いることの可否というのがあったと思うが、株主が自分の株主提案に賛成する株主を募るのに一定の経済的利益で誘導することそれ自体は否定されないだろう。
 この問題の設例にの特色は、500円のモリテックス事件と異なり、1000円となっていること、ただモリテックス事件が賛成でも反対でもニュートラルに議決権行使した人に贈呈だったのに対し本問では株主提案に賛成した人のみに贈呈するとされていることが一つのポイントである。利益供与の問題ではないことから、モリテックス事件と比較しながら、「これならギリギリセーフ」とやるのは一つの考えである、というか出題者がニヤリとしてくれる感じがする。
 なお、実際75%の賛成で株主提案が可決されたこと、例年より議決権ベースで30%出席が増加したこと、例年の甲社提案議案よりも今回の株主提案の賛成割合は増加したなどの事情があり、これは著しい不公正を肯定する方向の要素ではある。この辺にもしっかり目配りしておく必要がある。
 まあ、例によって結論はどっちでもいいだろう。何度もいうが迷ったフリが重要なのである。


 設問2は、上記乙社をキャッシュアウトしてMBOを行い閉鎖会社になったところ、キャッシュアウトに協力した丙社(200/600株)と経営陣との間に対立が生じ、さらに株式併合等を用いて丙社を締め出したというものである。ややこしいのは、株式併合後に、さらに1株を200株に分割する株式分割、役員宛の第三者割当が予定されているというところである。設問は株式併合の効力が発生した時点で、株式併合の効力を争う手段を問うている。
 

 まず、株式併合の効力が発生してしまっているのだから、吸収説によれば基本的に株式併合無効確認の訴えのみで総会決議の瑕疵を主張できることになりそうである。
 問題の決議の瑕疵だが、どうもスクイーズアウト自体は会社法上当然に認められているという頭があるので、「そりゃ丙の主張は通らないでしょ」と当然に思ってしまう。それでは身も蓋もないので、多分平等原則違反とか、特別利害関係人による著しく不当な決議だとかをいうのであろう。しかし設問の事情からしてもそう濫用的な締め出しとは思えず(丙社は競業を営んでいるとか、企業価値維持のためには丙社の締め出しも、資本関係の維持もニュートラルだったとか)、まあ書くことに悩んでしまう。なにせ、配点が設問1と同じ50点である。
 他になにか問題がないか考えるに、まあ併合により端株主になった丙社の原告適格の有無とか(肯定される)、併合理由の説明は形式的な説明で足りる(合理的な理由を説明しなければならないのではない)とかくらいだろうか。。。どうも書くことが思い浮かばない。

 設定自体はかなり手が混んでいる。一旦100株を代取AがBから取得したことにより300株を超えるようになった設定とか、その後の第三者割当を行う設定とか、これが何のためにあるか、いくら考えてもわからなかった。ところで、つい気になってしまうが、実務的には丙社とABCの株主間契約でちゃんと対処しておけよと突っ込みたくなるのだが、まあそれをいうと元も子もないかもしれない。

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令和6年司法試験民事系第1問(民法)について

 例によって昨年から何の因果か民法もロースクールで担当してるので、解いてみることにした。
 問題文はここから。
 https://www.moj.go.jp/content/001421191.pdf

 全体として、設問1と2で配点50:50で、設問1は4つに細分されるので、まああまりたくさん書かず、ポイントを抑えて論述しておけばいいのだろう。
 はっきり言って、あまりひねりも感じられず、面白くない問題である。

 設問1はこまごまとわかれている。わりと論点も明確で、単純そうな問題である。

 1(1)アは、子が父所有の建物を無断で他人物賃貸借した事案で、子が死亡して父が単独相続したところ、他人物賃借人が父に対して賃借権を主張できるかという問題である。そうひねりはないと思うが、相続によって当然追完が生じるというのも妥当でなく、父が追認拒絶することもも矛盾挙動ではないから、追認拒絶も信義則に反しないというまあオーソドックスな話だと思う。この無権代理人と相続の応用のような、他人物売買と相続みたいなのは予備だったか、本試験の過去だったか、出ていたと思う。

 1(1)イは、上記他人物賃貸借契約で、土地の使用収益が不可能になったら300万の損害賠償を支払うという損害賠償の予定という特約があった前提で、当該300万の支払いがあるまで占有する権利があるという反論をしたが、通るかという問題である。当然に同時履行の抗弁か留置権だろう。
 相続を度外視すれば、父から明渡しを求められた場合、契約関係がないから同時履行の抗弁は問題にならず、留置権の問題だろう。先に留置権を検討するが、相続がなければ留置権が成立しないのは明らかと言っていいのではないか。というのは、これで留置権が成立するなら、他人物賃貸借を容易に本人に対抗させるに等しいからである。それで、相続という偶然の事情によって留置権を主張できるようになるというのはいかにも不当であろうから、感触としては留置権の成立を否定した方がいいように思う。同時履行の抗弁も、そもそも子に対して問題になるかも微妙であるし、同じ理由で否定するほうがいいように思う。
 逆から考えるなら、合理的な損害賠償額なら父も受忍すべきというものであろうか。300万の損害賠償義務を父が相続していることは間違いないのだから、そういう事案全体の利益衡量として、合理的な額なら留置権の成立を認めてもよい、子の相続を放棄しない以上、他人物賃貸借という悪行を行ったBの責任をも甘んじて引き受けるのだと考えると、あり得ない考え方でもないように思える。
 真面目に考えると結構難しそうではあるが、配点の関係からそう深入りしなくていいのだろう。理屈としては、牽連性を否定するか、そもそも父に対して明け渡した時点でようやく損害賠償債権が発生するので、弁済期が来ていないというのがやりやすいかもしれない。占有が不法行為によって始まったという点を類推するという手もあるかもしれないが、危険度がやや増す。そこで、弁済期の問題とすれば同時履行の抗弁もあわせて否定できるので、楽であろう。大事なのは、利益衡量と理論構成を共にしっかり示すことである。

 1(2)は、賃貸借において、賃借人が雨漏りで一部使用ができなくなったところ、賃貸人に通知せずに修理したという場合で、修理までの賃料一部相当額の返還を求めること(ア)、業者に支払った報酬相当額30万円(適正相場は20万円)の返還を求めることができるか(イ)というものである。
 まず、アだが、なんとなく「使用収益ができなくなった割合に応じて当然賃料債務が消滅する」と思うのだが、この辺は改正があったとこだろう。611条の1項でこの当然減額のことが明文化されている。これはこの条文の当てはめ以上の問題はないと思うのだが。。。。
 イは、これも改正絡みで607条の2で賃借人が修繕できる場合を規定している。修繕が必要と通知したが賃貸人がしないか、急迫の事情がある場合がそれだが、設問では急迫の事情がない。要するに無断改装に類することになる。
 ただ、無断かどうかは措いておいて、雨漏りの修理は一般に必要費であろう。相場の20万円と、30万円の差が一つのポイントだが、直感的には急迫性があれば30万円全額を認めていいように思う。急迫性がない以上相場の20万円というのは一つの価値判断としてあるだろう。10万円分は、事務管理における有益費を柔軟に解する議論を応用して、急迫性があれば有益費と認めるという考え方がとれるのではないか。あんまり書くことがなさそうなので、この辺はそこそこきっちり書いた方がいいように思う。
 設問1を通じて1(1)アイ(2)アイで、配点は10:20:5:15のような感じだろうか。バランスを崩さないことが重要だろう。

 設問2は、基本的に設問1と独立している。
 G→F
 ↓(財産分与・予期せぬ課税で錯誤取消可能)
 H(Gの妻)登記
 ↓
 I
 要するに土地を巡る上記のようなFI間の優劣関係である。Iは錯誤取消前の第三者、Fは錯誤取消後の第三者(錯誤を前提に登記は未了だが、Gが所有者と信じて譲渡を受けた)で、それぞれ登記を具備していない。
 あまりひねりがないように思え、予期せぬ譲渡所得税の課税が錯誤取消の対象になるかどうかは実務家は皆知っていると思うが、受験生はよくしらないかもしれない。ただ、錯誤を否定すると後の問題がでないから、まず錯誤肯定方向で論じられるだろう。要素なのか、いわゆる動機の錯誤だが、表示があるのかという点を理論的にしっかり書く必要がある。
 さて、判例的にいけば、取消前の第三者は登記なくして保護される。I(善意無過失)は取消前の第三者として所有権を取得することは可能である。ただ、登記なくして所有権をFに対抗できるかという点では、復帰的物権変動的に考えるとHを起点とする二重譲渡関係だから、登記なくしてFに対抗できないと考えるのがオーソドックスなのだろう。それにしてもひねりが少ないような気がする。そもそも取消前後で扱いを分ける判例法理には批判が強いが、その問題意識を論じて欲しいようにも見えない。

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