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2023年7月15日 (土)

令和5年司法試験民法について

 何の因果か、今年からロースクールで民法まで教えることになったので、民法の解説もやってみようと思います。総則物権と事務管理・不当利得・不法行為が担当で、かつ交互なので、今回勉強し直した範囲はまあ不十分なのですが、いつも学生にいつもいう「現場戦略」でどこまでやれるかというのと、結局民法は利益衡量ですから、知識不足による法的立論は不十分ながら、どこまで戦えるか試してみようとことでやってみます。

 過去問にふれるのは久しぶりですが、やってみるとあんまりひねりがないというのと、明確に3つの小問に分かれているパターンの問題で、出題傾向にマイナーチェンジがあるのかと思いました。受験生のレベルを正しく掴めてないですが、そう細かい知識がなくても対応可能なのではと思います。

1 設問1
 設問1は更に小問(1)(2)に分かれています。夫名義の建物に同居していた妻Dが、夫の相続を機に前妻との子BCがいて、Bから明渡し及び持分に従った賃料の請求を求められたというものです。設問では「妻で無償の居住権がある」「建物を共同請求したから応じなくてよい」という妻の反論まで設定されており、まあ、基礎的な知識を聞きましょうということなのでしょう。
 配偶者居住権が立法化されたことはさすがに知ってますし、問題文にもわざわざ「文中において特定されている日時にかかわらず、試験時に施行されている法令に基づいて答えなさい」と書いてあるので改正絡みは明白でしょう。で、多分受験生も同程度の知識しかないと思うのですが、条文を見ていくと短期の居住権が成立する(1037条1項1号)ことがわかります。なお、長期の配偶者居住権は家裁の審判により発生する(1029条)ので、問題とならないことに一言触れておけばいいと思います。
 あとは、問題文で相続時は全て居住に使用していたが「夫の死後1階を惣菜店に改装して経営した」という事情が与えられているので、1階までそのような使用借権があるかは問題でしょう。
 これはおそらく全受験生にとって「知らないが、何が聞かれているか明確」な問題だと思うので、いつも学生に言っているように、両説考えて迷ってみせた上でもっともらしい結論を取ればいいと思います。感覚的には2階の居住部分の明渡しを認めなければDの保護として十分ですし、和解による解決としては1階には賃借権が成立しDはBCに賃料を支払うというのが穏当だと思いますが、相続発生の事実があり、BCという他の相続人があるのを知りながら改装して経営した部分まで法的に保護する必要はないと思われます。そうすると、1階には配偶者居住権が認められないとするのが妥当でしょう。
 解釈論としては、1037条は「相続開始の時に無償で居住していた場合」に成立するが、「居住建物の一部のみを無償で使用していた場合にあっては、その部分について無償で使用する権利」だとしているので、文理上は相続時に使用していた全部分に居住権が生じ、その後の改装は影響しないと考えることが素直です。ただ、配偶者居住権の趣旨と相続時に居住していた範囲に成立が限定されていることとの比較から、1037条の括弧書きが類推されるというような議論が可能でしょうか。もちろん、そういう悩みを見せながらも、法的安定性を強調し、相続時で確定され、あとは損害賠償の問題だとやってしまってもいいでしょう。大事なのは、結論に飛びつかずに反対説に配慮することなのです。
 議論は全く知りませんし、調べていませんが、短期長期の配偶者居住権の創設により従来の判例法理による保護が残るかどうかは問題でしょう。問題文でBCが県外に住んでいるという設定になっているので、これを活かす趣旨なのですが、「短期長期の配偶者居住権は創設されたことで、従来の判例法理による保護は必要なくなった、しかしBCが独立して県外に在住してることもあり、他の事情次第では夫の死亡を条件にBCとの間で黙示の使用貸借契約が成立していると構成する余地もある」とでもしておけば加点はともかく原点されることはないでしょう。
 (2)は共有絡みの問題で、これは、遺産共有にも民法上の共有の規定が適用されることを前提に、共有持分権者は他の共有者に明渡しまで求めることはできないが、持分に応じた使用収益する権利はあるから、持分に応じた賃料相当額を請求できるという基礎的な判例知識を書けば足りると思います。配点との関係でもそんなものでしょう。

2 設問2
 設問2は債権総論の範囲で、それこそ今回勉強し直した範囲ではないので、知識不足で苦労します。が、多分聞かれている事自体は基礎的なはずです。
 事例は要するに、池で飼育しているコイをEがFに売ったが、Fの受領遅滞で受領されない間にコイの値段が下がった。Eは売買契約を解除できるか、かつ損害としてどこまで請求できるかという問題です。
 解除できるかどうかというのは、受領遅滞による解除が認められるかという典型論点なはずですが、いかんせん勉強し直した範囲でなく、20年近く前の受験生時代の知識が蘇りません。条文を改めて読み直す限り明確に解除可能とは書いていないようなので、あとは自力で考えるしかありません。受領遅滞に直ちに解除までの効果を認めていいかは疑問でしょうし、多分本件のコイのように引渡しの準備や保管に格別な手間や費用がかかる場合は売買契約の内容として買主側が約定の引渡し時において受領する義務があると構成することが可能のように思われ(なにより、諸事情からこういう義務があると認定するといかにも点数がもらえそうな気がするので)、一般論として受領遅滞による解除は否定して、本件では受領義務があり債務不履行解除ができるとやるのが穏当と考えました。さすがに後で受領遅滞による解除の可否を調べましたが、大体感覚はあってたので、安心しました。
 損害の問題も「中間最高価格とか、なんとか丸事件とかあったよな(内容は忘れた)」という程度の知識しかありません。なので、自分で考えて結論を出すしかないのですが、問題文から、債務不履行時、解除時、現在時の時価と売買契約時との差額によるという説がありうることは容易に想像がつきます。微かに「投機的な行動を許してはだめなのでは」という問題意識が内田民法に書いてあったような記憶があり、問題文でも買主E側がコイが値下がったから引き取る気をなくしたというようなことが書いてあります。そのあたりから考えを進めますが、契約後で値段が下がった場合に買主が受領拒否した場合に時価によるでは問題だと思いますし、逆に解除時とか現在時とかの考え方をとると、売主側の投機的行動を許すことになりかねないでしょう。それで、例えば客観的な債務不履行時で損害は固定してしまうのでどうかと思ったわけです。あるいはこの問題の事例だけみると、解除時を採用して、売り主が投機的行動で解除時点を意図的に遅らせたような場合は、損害軽減義務のような議論によって妥当な調整が可能であるとすればいいかなと考えました。後者の方が問題の設定に即しているいて、より点がつくように書きやすいかもしれません。予想は多分どの説をとっても理由が説得的なら同等に評価した、だと思いますが、その説得的理由に繋がりやすいわけですね。

3 設問3
 これは、ようやく最近の講義で扱った物上代位の問題です。見落としかもしれませんが、何のひねりもない転貸借賃料に対する物上代位の可否という論点です。但し、事案の設定は例外的に物上代位を認めた方がいいものになっています。
 これは最近の講義の準備で思い出しましたが、転借料に関する物上代位は原則として否定するのが判例で、ただ、例外的に転貸借が形骸化して賃料に対する物上代位を詐害する場合は可能というものです。講義の準備中に思い出しましたが、さすがに受験生時代は最新判例であったこともあって、この程度は十分理解していました。基本的にその流れで書けば足りると思います。
 あるいは受験生としては「転賃料には物上代位不可」という結論だけ覚えているという人もいるでしょう。そういう勉強の仕方は問題ですが、仮にその程度の知識しかなかったとしても、事例の設定が詐害的(もとの賃借人を転借人に切り替えて、劣後債権者である新賃借人が事実上無償で賃貸し、もとの賃借人に転貸したというものです。実質元の賃料=新転賃料相当額について物上代位を詐害して回収するスキームで許される余地はありません。議論を知らずとも、この事例で物上代位を否定する結論は取りにくいと思います。この場合は例外と論じることもできるでしょうし、知らない場合は無茶をするなというのが私の教えなので、個別の事情により物上代位を認めると法律関係が不安定になる。このような妨害事例はむしろ劣後債権者やそれに協力した賃借人への損害賠償請求で考えるべきとやっても大きな減点にはならないと思います。トータル的にはそのように無茶ヲしないほうが失敗が少ないように思えます。

 

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