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2023年7月

2023年7月15日 (土)

令和5年司法試験会社法について

 民法に続いて会社法を見てみたましたが、改正に関する断り書きとか、小問ごとの独立性の高さなどは教科をまたいだ一つの傾向なのでしょうか。設問1でつまずいたらどうしようもなくなる受験生を救済しようということなのかもしれません。従来型でも設問ごとの独立性はあり、あまり問題はないと思うのですが。

 それで会社法の問題ですが、設問1は私の把握不足かもしれないですが、ちょっととらえどころがなく、任務懈怠やら因果関係への当てはめだけの問題に見えます。逆に設問2は知識がなくてもなんとかすることは不可能ではないかもしれませんが、近時の最高裁判決に対する基本的な知識がないとちょっと難しい問題だったかもしれません。

1 設問1
 民法と似ていて、小問1と2に分かれています。
(1) 小問1は、創業者兼一人株主である代取が個人的な隣人とのトラブルを解消するために、会社の資金で本来1000万円の土地を5000万円を購入した場合の、当該代取の対会社責任の成否を問うもの。代表訴訟前提で、当該株主は代取の娘婿で、問題の土地購入後に株式を取得したという前提になっているのと、上記土地購入時には会社の財務状態(厳密には資金繰り)に問題がなかったことを前提とせよ、とされています。
 任務懈怠(過失)、損害、因果関係と言った問題なのでしょうが、ちょっと出題の意図がよくわかりません。実質論的に、代取側であれば、「俺の会社だし、俺が自由に金をつかっても構わない。資金繰りに問題なく、会社債権者に損害を与えるような状況もない。別に当時役員報酬として会社から資金提供してしまえば全く問題にならないはずだ」という感じになるでしょう。娘婿側からすると、「役員報酬ならやむをえないかもしれないが、自分のような株主に影響を及ぼす危険性はあるわけだし、当時一人会社だからといって許されるわけではないだろう」という感じでしょうか。以上の生の主張を任務懈怠、損害、因果関係という問題に正しく整理して論じることになるのではないでしょうか。結論は例によってどっちでもいいと思います。ここが省かれているので、出題の意図からは外れるかもしれませんが、本当は代取が娘婿にどういう趣旨で、いくらで株を譲渡したかが問題だと思います。要するに土地の価値が1000万円しかない、4000万円の損失があることを前提に株を取得していたかどうかが実質論としてはカギと思われるのです。無償で株を譲渡されたり、5000万円の預金が減り1000万円の土地しかないバランスシートを前提に算定した株価で譲渡を受けていたのであれば、娘婿にとやかくいう資格はありません。もっとも、設問がこのあたりをぼかしているのは、代表訴訟は自己の利害とは理論的に無関係なので、将来の株主や将来の債権者(あるいは既存の債権者でも財務状態の悪化を受けう債権者)等全ての利害関係人のために代表訴訟を提起するものなだと論じて欲しいのかもしれません。結局上記実質論の対立もこの点に集約されると思われるからです。そういう出題趣旨ならもう少しわかりやすくしてくれてもいいのにとは思います。いずれにしても、配点は設問1の40のさらに半分の20と思われるので、あまり凝りすぎないで設問2に時間を書ける方が戦略としては正しいでしょう。
(2) 小問2は、本来1000万円の土地を5000万円を購入したところまでは一緒で、もともと財務状態が悪化した場合の債権者に対する返済原資として当てにしていた定期預金5000万円を解約して土地を購入していた、小問1と違って購入当時営業利益が減少していたが直ちに運転資金が枯渇する状況ではなかった、この購入がきっかけで債務超過になって事業継続不可能になった、という設定です。
  これも小問1と似たような感じがあるのですが、代取からしたら役員報酬で出しても一緒じゃないかとか、回収不能との因果関係は遠いだろう、そして何より「それじゃあ間接有限責任の意味がないよね」というところでしょう。債権者側からすれば「その購入されしなければ十分回収ができただろう」というところでしょうか。
 結論もどちらでもいいと思いますが、受験生的にはあっさり代取の責任を認める結論に走りそうで、その場合面白みのない答案になると思います。実際は裁判所が早々簡単に代取個人の責任を認めてくれるか、疑問なところではあります。もっとも、本件では代取が実質的に会社を犠牲に個人に4000万円の利益を移した結果回収不能となったわけで、比較的代取の責任を認めやすい事案ではあると思いますが。

2 設問2
 相続による準共有株と取締役選任決議が重ねてなされた場合の訴えの利益をふくめた処理を聞く問題です。例によって小問1と2に分かれています。
 (1) 小問1は、4万/6万の大株主たる創業者に相続が起こり、相続人2人間で権利行使者の指定も出来ていないという事例をベースにしています。前にいわゆる相続人の乱の問題が出たこともありますが、司法試験は株式の準共有問題が本当に好きですね。そもそも「割り切れないで困るだろ」という程度の理由で準共有にして、そのうえ権利行使者の指定を管理行為とやってしまった形式的処理から派生していろんな問題が起こる部分です。形式論からの演繹的結論と実質的妥当性に差異が生じやすいところで、そういう意味で試験の題材にしやすいのかもしれません。
   準共有株絡みの判例知識が整理されている事が必要でしょうね。
  ・ 上位のとおり、権利行使者の指定は管理行為として相続分に応じた持分の過半数で決定できる(最判平成9・1・28)
  ・ 権利行使者の指定・通知がない場合でも、単独株主権などは行使し得る場合がある(最判平成2・12・4)
  ・ 権利行使者指定未了の株式も定足数に含む
  ・ 会社が権利行使者以外の共有者の権利行使に同意したとしても、権利行使が民法の共有に関する規定に従ったものでない場合は、その権利行使は適法とはならない(以上2点について最判平成27・2・19)
   あとは、任期2年と取締役について、同一メンバーで既に2年後に再任の決議がされているので、原則として訴えの利益がなくなる(最判昭和45・4・2)
   以上を抑えておればそう難しい問題ではありません。
   どれかを知らなくても、4万/6万の大株主という大株主の共有株である前提になっていて、設問がわざわざ「原告適格及び訴えの利益の有無並びに本件訴えに係る請求が認められるか否か」を論ぜよとされているので、権利行使者指定未了の準共有株主が「株主等」にあたるかとか、2年経って訴えの利益がなくなってしまているのではないか、設問のBの同意はいかにも恣意的で認められるべきでないのでは、というような点から気づくことができる論点だとは思います。まあ、知っているに越したことはないでしょうけどね。
 (2) 小問2は、ちょっと事例を変えて、1回目の決議で選任されたBが2回目の株主総会を招集していて、2回目の決議では、共有株主が共に出席して議長の同意のもと議決権を行使して、一回目の決議で取締役に選任されてあB,C(従業員株主)が再任されず、共有株主一派が再任されたというものです。
   元ネタは、最判令和2年9月3日です。「事業協同組合の理事を選出する選挙(先行の選挙)の取消しを求める訴えの係属中に、後行の選挙が行われ、新たに理事又は監事が選出された場合であっても、理事を選出する先行の選挙を取り消す旨の判決が確定したときは、先行の選挙は初めから無効であったものとみなされるから、その選挙(先行の選挙)で選出された理事によって構成される理事会がした召集決定に基づき、同理事会で選出された代表理事が召集した総会において行われた新たに理事又は監事を選出する後行の選挙は、いわゆる全員出席総会においてされたなどの特段の事情がない限り、瑕疵があるものとなる。そして、上記の取消しを求める訴えと併合された訴えにおいて、後行の選挙について上記の瑕疵が主張されている場合には、理事を選出する先行の選挙が取り消されるべきものであるか否かが後行の選挙の効力の先決問題となり、その判断をすることが不可欠であって、先行の選挙の取消しを求める実益がある。」こう言っています。本件では全員出席総会というような特段の事情もないので、判例に従えば訴えの利益ありということになるでしょう。
   これもちょっと知らないときついのですが、設問は「訴えの利益」だけを聞いているので、そういう意味では迷わないように誘導をつけているのでしょう。小問1との比較で、全く同じ構成メンバーではなくて、そもそも2度目の会議を招集した代取がJという別人になっている設定なので、問題文の読み方が優れている人は、設問1との設定の違いに着目して「訴えの利益がある」と持っていくことは不可能ではないように思います。

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令和5年司法試験民法について

 何の因果か、今年からロースクールで民法まで教えることになったので、民法の解説もやってみようと思います。総則物権と事務管理・不当利得・不法行為が担当で、かつ交互なので、今回勉強し直した範囲はまあ不十分なのですが、いつも学生にいつもいう「現場戦略」でどこまでやれるかというのと、結局民法は利益衡量ですから、知識不足による法的立論は不十分ながら、どこまで戦えるか試してみようとことでやってみます。

 過去問にふれるのは久しぶりですが、やってみるとあんまりひねりがないというのと、明確に3つの小問に分かれているパターンの問題で、出題傾向にマイナーチェンジがあるのかと思いました。受験生のレベルを正しく掴めてないですが、そう細かい知識がなくても対応可能なのではと思います。

1 設問1
 設問1は更に小問(1)(2)に分かれています。夫名義の建物に同居していた妻Dが、夫の相続を機に前妻との子BCがいて、Bから明渡し及び持分に従った賃料の請求を求められたというものです。設問では「妻で無償の居住権がある」「建物を共同請求したから応じなくてよい」という妻の反論まで設定されており、まあ、基礎的な知識を聞きましょうということなのでしょう。
 配偶者居住権が立法化されたことはさすがに知ってますし、問題文にもわざわざ「文中において特定されている日時にかかわらず、試験時に施行されている法令に基づいて答えなさい」と書いてあるので改正絡みは明白でしょう。で、多分受験生も同程度の知識しかないと思うのですが、条文を見ていくと短期の居住権が成立する(1037条1項1号)ことがわかります。なお、長期の配偶者居住権は家裁の審判により発生する(1029条)ので、問題とならないことに一言触れておけばいいと思います。
 あとは、問題文で相続時は全て居住に使用していたが「夫の死後1階を惣菜店に改装して経営した」という事情が与えられているので、1階までそのような使用借権があるかは問題でしょう。
 これはおそらく全受験生にとって「知らないが、何が聞かれているか明確」な問題だと思うので、いつも学生に言っているように、両説考えて迷ってみせた上でもっともらしい結論を取ればいいと思います。感覚的には2階の居住部分の明渡しを認めなければDの保護として十分ですし、和解による解決としては1階には賃借権が成立しDはBCに賃料を支払うというのが穏当だと思いますが、相続発生の事実があり、BCという他の相続人があるのを知りながら改装して経営した部分まで法的に保護する必要はないと思われます。そうすると、1階には配偶者居住権が認められないとするのが妥当でしょう。
 解釈論としては、1037条は「相続開始の時に無償で居住していた場合」に成立するが、「居住建物の一部のみを無償で使用していた場合にあっては、その部分について無償で使用する権利」だとしているので、文理上は相続時に使用していた全部分に居住権が生じ、その後の改装は影響しないと考えることが素直です。ただ、配偶者居住権の趣旨と相続時に居住していた範囲に成立が限定されていることとの比較から、1037条の括弧書きが類推されるというような議論が可能でしょうか。もちろん、そういう悩みを見せながらも、法的安定性を強調し、相続時で確定され、あとは損害賠償の問題だとやってしまってもいいでしょう。大事なのは、結論に飛びつかずに反対説に配慮することなのです。
 議論は全く知りませんし、調べていませんが、短期長期の配偶者居住権の創設により従来の判例法理による保護が残るかどうかは問題でしょう。問題文でBCが県外に住んでいるという設定になっているので、これを活かす趣旨なのですが、「短期長期の配偶者居住権は創設されたことで、従来の判例法理による保護は必要なくなった、しかしBCが独立して県外に在住してることもあり、他の事情次第では夫の死亡を条件にBCとの間で黙示の使用貸借契約が成立していると構成する余地もある」とでもしておけば加点はともかく原点されることはないでしょう。
 (2)は共有絡みの問題で、これは、遺産共有にも民法上の共有の規定が適用されることを前提に、共有持分権者は他の共有者に明渡しまで求めることはできないが、持分に応じた使用収益する権利はあるから、持分に応じた賃料相当額を請求できるという基礎的な判例知識を書けば足りると思います。配点との関係でもそんなものでしょう。

2 設問2
 設問2は債権総論の範囲で、それこそ今回勉強し直した範囲ではないので、知識不足で苦労します。が、多分聞かれている事自体は基礎的なはずです。
 事例は要するに、池で飼育しているコイをEがFに売ったが、Fの受領遅滞で受領されない間にコイの値段が下がった。Eは売買契約を解除できるか、かつ損害としてどこまで請求できるかという問題です。
 解除できるかどうかというのは、受領遅滞による解除が認められるかという典型論点なはずですが、いかんせん勉強し直した範囲でなく、20年近く前の受験生時代の知識が蘇りません。条文を改めて読み直す限り明確に解除可能とは書いていないようなので、あとは自力で考えるしかありません。受領遅滞に直ちに解除までの効果を認めていいかは疑問でしょうし、多分本件のコイのように引渡しの準備や保管に格別な手間や費用がかかる場合は売買契約の内容として買主側が約定の引渡し時において受領する義務があると構成することが可能のように思われ(なにより、諸事情からこういう義務があると認定するといかにも点数がもらえそうな気がするので)、一般論として受領遅滞による解除は否定して、本件では受領義務があり債務不履行解除ができるとやるのが穏当と考えました。さすがに後で受領遅滞による解除の可否を調べましたが、大体感覚はあってたので、安心しました。
 損害の問題も「中間最高価格とか、なんとか丸事件とかあったよな(内容は忘れた)」という程度の知識しかありません。なので、自分で考えて結論を出すしかないのですが、問題文から、債務不履行時、解除時、現在時の時価と売買契約時との差額によるという説がありうることは容易に想像がつきます。微かに「投機的な行動を許してはだめなのでは」という問題意識が内田民法に書いてあったような記憶があり、問題文でも買主E側がコイが値下がったから引き取る気をなくしたというようなことが書いてあります。そのあたりから考えを進めますが、契約後で値段が下がった場合に買主が受領拒否した場合に時価によるでは問題だと思いますし、逆に解除時とか現在時とかの考え方をとると、売主側の投機的行動を許すことになりかねないでしょう。それで、例えば客観的な債務不履行時で損害は固定してしまうのでどうかと思ったわけです。あるいはこの問題の事例だけみると、解除時を採用して、売り主が投機的行動で解除時点を意図的に遅らせたような場合は、損害軽減義務のような議論によって妥当な調整が可能であるとすればいいかなと考えました。後者の方が問題の設定に即しているいて、より点がつくように書きやすいかもしれません。予想は多分どの説をとっても理由が説得的なら同等に評価した、だと思いますが、その説得的理由に繋がりやすいわけですね。

3 設問3
 これは、ようやく最近の講義で扱った物上代位の問題です。見落としかもしれませんが、何のひねりもない転貸借賃料に対する物上代位の可否という論点です。但し、事案の設定は例外的に物上代位を認めた方がいいものになっています。
 これは最近の講義の準備で思い出しましたが、転借料に関する物上代位は原則として否定するのが判例で、ただ、例外的に転貸借が形骸化して賃料に対する物上代位を詐害する場合は可能というものです。講義の準備中に思い出しましたが、さすがに受験生時代は最新判例であったこともあって、この程度は十分理解していました。基本的にその流れで書けば足りると思います。
 あるいは受験生としては「転賃料には物上代位不可」という結論だけ覚えているという人もいるでしょう。そういう勉強の仕方は問題ですが、仮にその程度の知識しかなかったとしても、事例の設定が詐害的(もとの賃借人を転借人に切り替えて、劣後債権者である新賃借人が事実上無償で賃貸し、もとの賃借人に転貸したというものです。実質元の賃料=新転賃料相当額について物上代位を詐害して回収するスキームで許される余地はありません。議論を知らずとも、この事例で物上代位を否定する結論は取りにくいと思います。この場合は例外と論じることもできるでしょうし、知らない場合は無茶をするなというのが私の教えなので、個別の事情により物上代位を認めると法律関係が不安定になる。このような妨害事例はむしろ劣後債権者やそれに協力した賃借人への損害賠償請求で考えるべきとやっても大きな減点にはならないと思います。トータル的にはそのように無茶ヲしないほうが失敗が少ないように思えます。

 

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