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2023年1月12日 (木)

あるロードバイク死亡事故に対する無罪判決について

 散髪に行った際に、電子書籍で「サイクルスポーツ」が読めたものだから、眺めていたのだが、そこで「有罪!? 無罪!? サイクル大法廷」という記事があり、地元国道302号上でのトラック対ロードバイク事故での無罪判決が批判されていた。判決文を参照せず、新聞報道をベースとして記載しているし、ライターは法曹関係者ではないから、いかにも根拠はとぼしそうと思った。ただ、確かにロードバイクびいきの自分としては「いかに302号であろうとトラックが自転車を引いて、死亡までさせておいて無罪とは」と気にはなったので、我慢しきれず判決文を探してみた。裁判所HPに掲載されていた。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/737/088737_hanrei.pdf

 これを見て概ね疑問は氷解した。
 
 トラックのサイズは「長さ約11.96m,幅約2.49m」である。そして「被害者自転車は,時速約36kmで走行中の被告人車両を上回る速度で,同車の左後方から,その左側面と縁石との間の通行余地を進行」した。
 ここで「第1車両通行帯は幅約3.8m,被告人車両は幅約2.49mであるから,被告人車両が第1車両通行帯の中央を走行した場合,被告人車両の左側面と外側線との幅は約0.6m,これに外側線と縁石までの幅約0.7mを併せても約1.3mである」。
 そして、「被害者のけがの部位,被告人車両及び被害者自転車の各損傷状況及び痕跡等からすると,被告人車両の第1・2軸付近が被害者自転車と衝突した」と認定されている。

 以上要するに、ロードバイクはトラックと縁石まで約1.3mしかない細い幅に36kmで走行していたトラックを上回る速度で入り込み、全長約12mのトラックの「第1・2軸付近」≒前輪付近に衝突したというわけである。以上は裁判所の事実認定を前提とするものであるが、この事実認定どおりだとすれば無罪は至極正当であろう。ちょっと同じロード乗りとしては信じられず、故人には大変申し訳ないが、文字通り自殺行為と言わざるを得ないであろう。

 判決に対して批判すべき点があるとすれば、「本件道路は,交通頻繁な国道で,西側に防音壁が設置され,その西方に歩道が整備されていることからすると,歩行者や自転車の通行が想定されていないものと認められる」と言い切ってしまった点であろう。この点をとらえてネット上ではいくつか批判している記事があったし、上記サイクルスポーツの記事も批判していた。この点だけを捉えればまあ批判はおかしくない。
 歩行者は予想されないであろうが、車道を通行すべき自転車が通行することは当然に予定される。このあたりは例によって裁判所の自転車走行に対する実感の欠如を思わされる。歩行者やママチャリが走行することは予想されないが、原付が走行することが予想されること同様にロードの走行は当然に予定される。私は302号は数度しかロードで走ったことはないし、危険だから積極的に通りたくないが、走行自体は何ら問題がない。とはいえ、判決文を全体として読めば、警察が302を実際に走行しているロードを抽出し、上記のような隙間に進入するかと聞いたら全員否定したことが指摘されているから、裁判所も抽象的・一般的にロードの進行が予想されないという趣旨ではなかろう。

 ただ、以上の検討を踏まえて思ったのは当該「有罪!? 無罪!? サイクル大法廷」の著者には申し訳ないが、ちょっと判決の当否を論じるような資質を欠いているのではないかという点である。記事の中では、ロードは善意で道路の端っこを走っているのだとか、トラックが幅寄せしたというなことを前提に主張が展開されているが、判決本文をちゃんと読めばそういう前提がないことはすぐわかりそうなものである。
 弁護士ロード乗りの端くれとして判決を題材に検討を加えることには意義があると思うが、判決本文にあたろうともしないような著者に連載記事で書かせることはかえっていたずらに裁判所に対する不信などを煽ることになりかねない。

 亡くなった24歳の青年には謹んで哀悼の意を表したい。彼の死を無駄にしないためにも、正当な検討が必要だろうと思う。

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