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2022年5月13日 (金)

令和4年新司法試験会社法(民事系第2問)について

 特殊なルートで問題文を入手したので、例によって速報記事にする。法務省ページには明日明後日くらいには掲載されると思う。
 
 今年の問題は実に単調だった。問題文の量は多いが、ほぼ各設問ごとに単論点に近く、かつ論点自体は単純でどちらかというとあてはめだけやればいいという感じの問題である。ちょっとこれで会社法の力量を的確に測れるのかな、という疑問がないではない。ただ、私の講義を受けている人は、問題文の読み方を中心としたあてはめ活動の充実、知らないが問題意識(聞かれていること)は明白な問題について、どう対応するかという部分でかなりのアドバンテージがあるタイプの問題であろう。

 横着して、設問の紹介は省略する。

1 設問1は、要するに定款では10年、慣行では4年の任期である取締役であったのに、1年に短縮する定款変更の株主総会決議によって2年で事実上解任されざるを得なかった取締役が、取締役解任について会社に対して損害賠償請求できるかという問題である。そもそも解任取締役は就任後2年しか経過していないので、再任の株主総会議案自体が違法議案かという問題は一応ある*が、基本的に定款変更による任期満了による退任の場合に会社法339条の類推できるかという論点である。
 これは身近な先輩弁護士が獲得した最近の判決を題材にしているような気がするので、あとでそれは調べる。それはともかくとして、もちろんそういう細かい裁判例を知っていることを前提にする問題ではないので、以下考え方を述べる。
 危ない論述、現場での思いつきは避けよというのが常々の私の指導である。実質論として、この件では残り2年分の役員報酬相当額の請求を認めるのが収まりがよいが、司法試験の答案であれば多少実質論として不当でもその点に触れつつも「法律上こうなっているからしかたない」とやるほうが安全だと言っている。その路線で行くと、こういうたぐいの実務慣行や株主間契約、会社と取締役の契約などは散見されると言ってよい。ただ、前にも別の問題の機会で書いたが、基本的にこれらが定款という形で会社を縛るルールとして明確でなければ定款違反と言うかたちで会社に対して拘束力を持たないと考えるのがあくまでも基本的なルールである。合弁契約等を扱う弁護士として、このあたりはしっかり注意しておかなければならない。というわけで、「定款に記載されていない以上会社に対して効力を有さない。あとは取締役と会社、あるいは代表取締役個人との債務不履行問題でしかない」とやるのが一つの極である。
 もちろんそうあっさりそうやってしまっては身も蓋もなく、点数も入らない。実際に裁判例がどうやっているのかは知らないが、解任取締役側の事情を考慮して、定款変更による場合も会社法339条を類推していく可能性はあるだろう。本問で考慮すべき事情というのは概ね次のとおりである。
  ・ 解任取締役は取引先会社出身の取締役枠で、長年(おそらく設立時から30年以上)、4年で退任するのが慣行であった(この辺は定款に記載されているのと同視できるほどに定着していると判断するのに特に重要であろう)
  ・ 代取単体で40%、平取の弟と長女で20%ずつの株式保有であり、上記慣行というのは大多数の株主の了解事項であり、仮に定款に記載していたとしても反対を受ける可能性は少ない(少数株主として従業員株主がいるが、その利益を重視する必要性に乏しい)
  ・ 取引先の当社に対する依存度は売上総利益の50%以上という関係性の深さ(資本関係はないが、取引先側、取引先側従業員としては当社の意向に逆らいにくい事情であると、しっかり評価まで答案に記載すべき)
  ・ 解任取締役は取引先で35年勤務した57歳で、60歳定年になるより取締役になって61歳まで取締役をやったほうが安定すると代取に誘われて役員になった。報酬月額40万円で他の収入はなかった
  ・ 解任取締役は代取ら取締役(家族)の経営方針に対立し、それがきっかけになって事実上の解任が起こっていること(任期1年に短縮の定款変更議案における代取の説明は「再任の機会を多くし緊張感を持たせる」というものだが、株主の80%が家族なので詭弁である。こういう評価もきちっと答案に書くとよい)。
 あとはどう料理するかだが、前記一つの極を持ち出して「原則として定款に記載がない場合類推適用を否定すべきである。ただ、慣行としての定着性、株主構成、取締役就任の経緯などを考慮して定款に記載されているのと同等またはそれに近いと評価される場合は例外的に類推を認めるべきである」とでも規範をたてて当てはめてやってもいい。その際に後ろ2つの事情はちょっと使いにくいが強引に書いてしまうか、類推否定方向で書くなら一応触れておいた上で「これらの事情は定款に記載とされているのと同等ということにプラスに働かない」と蹴ってしまうのが論理的にはスッキリする。
 設問では損害論も聞かれていて、常々指摘するように親切な誘導がなくとも損害論についてはしっかり論じるべきであるが、損害は残期間の役員報酬相当額ということで、定款による8年、慣行による2年かというところか。実質論としては慣行による2年が落ち着きがいいので、類推を否定するなら「仮に類推されたとしても定款記載と同視できるのは4年だから、4年まで」とやるのがいいだろう。
  * 2年経過時の定時総会に①選任後1年を任期とし、選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終の総会で任期満了と定款変更をし、②直ちに全取締役の再任議案を出したところ、解任取締役は再任について否決されたというもの。①の効力が決議時点で生じたとすると、たしかに②も適法に思える。ただ、他の取締役はちょうど定款による10年の改選期にあたるという設定にしていて、解任取締役だけ①の効力が問題となる設定としてあるので、あっさり適法と論じてしまうのが出題者の意図にかなうかはよくわからない。が、どのみち類推の議論をしっかりやれば十二分に合格点である。

 ※ ここまで書いてから、さすがに気になったので例の先輩弁護士の裁判例(名古屋地判令和元年10月31日)を参照した。要するに類推の可否については明確な判断を避けながら、「原告は JA の理事を3年で退任することにより,JA 職員の定年より前に収入を失うことになる救済のために,報酬のある被告の取締役及び代表取締役に就任したものであり,その地位は,原告に収入を得させるためのもの,即ち生活保障のために与えられた地位であったといえる…原告は, 7年近く被告の取締役の地位にあり,その在任中,4700万円を超える報酬を得ており,生活保障としては十分な金銭を得ている」などと述べてどのみち解任に正当理由があるとしたのである。これを知っていれば、もともとの60歳の定年まであと1年であることを「十分」とするか、「まだ足りない」とする評価もありうるのだろう。なお、公刊物にも記載されていることであるが、高裁では一部支払いを命じる和解が成立したとのことで、実質論としてはよい収まり具合だと感じる。

2 設問2は要するに低廉価格で事業譲渡を行った取締役の会社に対する責任の有無を問うものであり、ほぼほぼ経営判断原則の当てはめの問題である*。前提に簡単に触れたうえで、経営判断原則の適用を認めるのに積極的な事情と消極的な事情をあまさず指摘し、的確な当てはめを行えば結論はどちらでもいいだろう。
 事案を大雑把に言えば、大分経営が悪化している事業で、事業の貸借対照表でいえば純資産2000万円、仮にDDを行っていれば1000万円と算定されたはずの事業を4000万円で譲渡したことに関する責任の問題である。譲渡元が親会社(60%保有)で、譲渡先役員が「さっさと譲渡しないと取締役に再任しないぞ」と親会社代取に言われたので、DDの必要性を認識しながらも行わなかったという事情がある。
 <積極方向の事情>
 ・ 業績の悪化が急速。10ヶ月で純資産8000万から2000万に減少(主に資産が減少)
 ・ 銀行借り入れ3000万円について、4ヶ月前が履行期限でありながら今も返済できていない
 ・ 銀行出身の取締役が、弁護士の意見を求めた上で、その弁護士の回答内容(本件はDD行うべき)を伝えてDDを求めた
 ・ 取引価格4000万円という、一般的な意味での多額取引であること(100万円のものを買うのとは違う)
 ・ (その他一応DDの有用性、必要性、実務上よく行われていること等)
 <消極方向の事情>
 ・ 譲渡元は譲渡先の株式60%を保有する親会社かつ譲渡先の売上50%は譲渡元に対するもので、依存度が高い
 ・ 譲渡元代取=親会社代取が当該役員に対し、迅速に進めないと再任はないと言われた
 ・ 譲渡事業は譲渡元の主要ブランドで、1ヶ月で交渉まとまらないなら別の譲渡先を探す、法的整理も検討すると同じく親会社代取に急かされていた
 どう考えるのがいいだろうか。おそらく個人的には裁判所は経営判断のワク内というと思うが、参考になるのは例のアパマンショップ最高裁だろうか。1万円のものを5万円で買っても出資払戻しの性格もあるしとして責任を認めなかったというやつである。すこしかっこよく?するなら、積極方向の事情を指摘して「やはり問題は大きい。これだけなら経営判断のワクを外れ、一般的には経営判断のワク外である。ただ、消極側の事情があり、この個別事情を考えると本件ではギリギリ経営判断のワク内と考えるか、仮に任務懈怠が客観的に認められるとしても過失がない」とでもやる感じだろうか。大昔の問題にもあったように、積極方向の事情と消極方向の位置づけはわざと別次元のものにしているのかなとも思う。消極方向の事情は経営判断の問題というより、どちらかというと期待可能性というか、過失に近い問題かなと。例の任務懈怠と過失の一元論か二元論という理論的対立に深入りする必要はないが、一種の期待可能性不存在のような判断で法令違反を認めながら過失がないとした野村損失補填事件の最高裁を意識するといい。私なら誤引用にならない限りでアパマンと野村最判は触れるだろう。
 * なお、譲渡元が譲渡先60%の株式を保有する親会社なので、一応利益供与該当性も問題になるかもしれない。が、おそらくそれをメインで聞きたい問題ではないだろう。株主の権利行使との関係性が薄いとみられる事案設定なので、そのことを指摘して利益供与該当性を否定しておけば足りると思われる。
 で、設問1と同じで、特に責任を否定する場合も損害についてしっかり論じるべきである(露骨に問題文は「損害に関する主張を含む」と指定している)。単純には実際の価値1000万と4000万の差額の3000万となりそうだが、バカ高いDD費用の損益相殺はあっていいと思うし、あるいはダスキン事件であったような損害の割合的因果関係のような議論も可能だろう。えいやで、この問題は代取が悪くて、いわば脅された担当取締役は半分でいい、というような考え方である。

3 設問3は要するに事業譲渡にともなう商号続用者の責任を聞くものである。
 譲渡元は化粧品等製造会社でPBの生産のようなことをやっていたという設定で、例えば譲渡元をかりにカネボウと考えれば「カネボウスタイル」みたいな社名付き商標で日用品の生産をして、特定のドラッグストアに卸していたというような設定と想像するとイメージが付きやすいかもしれない。その「カネボウスタイル」製造事業を譲渡して、「カネボウスタイル」の商標を使用し、譲渡先の経営するスーパーの看板にも複数掲げて、ネットでも「カネボウスタイルが新たに生まれ変わり、当店で扱うことになりました」と宣伝していた等々。なお、債権者は銀行である。
 商号そのものでないから、類推の問題になるのはいいとして、ここでは商号続用者の責任の性質論についてはそれなりに論じた方がいいような気がする。一種の外観法理という通説的な性質の説明だと、銀行が運営主体を誤認するわけがあるまいという結論に親和的で、企業財産の担保力も考慮しているという方向だと、誤認の有無にかかわらず責任を認める方向につながるからである。結論はどちらでもいいが、肯定方向の諸事情、特に会社名付きの商標であることについて十分配慮しつつ、かつ企業財産の担保力という説明も相応に合理性があるが登記・通知がある場合に免責されることを説明できないなどしっかり批判も書いておいて、銀行だし誤認はないよね、とやるだけでまあ十分合格点だろう。

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