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2021年5月16日 (日)

令和3年司法試験会社法(民事系第2問)について

 雨で趣味の自転車にも乗れないので、恒例の解説をやります。
 今年の問題は良く言えばオーソドックスで過去問をしっかりやっていれば何ら苦労なく点数が稼げるもの、悪く言えば何のひねりもなく面白みにかける問題ということでしょう。まあ、平易な分、時間配分やあてはめと言った現場戦略要素をしっかり踏まえることが重要でしょう。

1 設問1は、甲社代表取締役Aが乙社から個人的な借入するに際して取締役会の承認を得ずに多額の借財について甲社の保証をさせたというもの。長々とした問題文ですが、要素はこれだけです。典型的で、過去問でも何度か見たような問題ですね。
 もちろん、①多額の借財、②利益相反、③代表取締役の権限濫用というのが主な問題です。偉そうに解説を書いていますが、忘れもしない自身2度めの司法試験(平成15年だったか)の問題でほぼ似たような問題が出ています。利益相反を書いて、多額の借財を落とすという大ポカをやってのけて、それが大きな原因となって落ちていますから、ほんとは偉そうなことは全く言えません。このことと同じ年の民法の問題で動物占有者の責任という条文指摘を落として落ちたことで、問題文の読み方ということを真剣に考えて翌年無事克服して合格したわけです。旧試験では新試験より問題文が短いわけですが、借入金額、資本金額などの事情を全く使い切っていなかったわけです。本問では、「資本金は1億円,負債額は2億円,総資産額は10億円,当該事業年度の経常利益は2000万円」と冒頭に書いてあるので、今の自分なら開始30秒で多額の借財を疑ってますね。今年ダメだった人は問題文の読み方というのを丁寧に考えて見てください。
 さて、論点は明確なので、差がつくポイントはア論理的にすっきり整理されているか、イあてはめの精密さの2点です。判例ベースならば、取締役会の決議を欠く利益相反行為は相対無効(軽過失は保護されない)、取締役会の決議を欠く多額の借財・代表取締役の権限濫用は心裡留保類推(軽過失も保護される)というのは基礎知識ですが、意外にしっかり整理されていない学生が多いものです。立証責任の所在を含めてしっかりと整理しなければなりません。その上で、①②は取締役会決議の存否が過失の有無の対象になること、③は権限濫用の意図の有無が過失の有無の対象になることを意識して、しっかりと当てはめをする必要があります。
 本件では、乙社が取締役会議事録を要求したところ、Aが内規で取締役会議事録は出せないということで、取締役会の承認がある旨の確認書が提出されたところ、乙社側も議事録の写しを要求して甲社やそのA個人との取引を切られるようなことがあっては困るとあまり強くは求めなかったという事情があります。典型的なダメなあてはめ―といってもほとんどの受験生がこの程度しか書かないのでそれでも十二分に受かるのですが―は、そういう事情があったので、確認書ですませたことも止むを得ない、過失ありとまではいえない、というものです。多くの受験生がこの程度の当てはめですませてしまうのは、「これで回答の道筋がついた」という安心感からなのですが、「安心感、それが大きなミステイク」ということを常にしてきしています。「答案の道筋ができた」と安心しそうな段階で、一歩踏みとどまってあてはめで逆側から考えてみよ、と常々学生に言っています。
 逆から考えると、代取の借入は個人営業のレストラン開業資金の5000万円と極めて多額であって、かつ形式的な利益相反という問題ではなくいわば甲社には何らメリットもなく(保証料はなしとされている)最大で5000万円という損害を究極には与えかねないものであること、また乙社も事業者として相応の注意水準が要求されること、また上記取引を切られる事情というのはいわば乙社側の個人的都合であって、裏を返せばそういう乙社の事情に乗じてAが甲社を犠牲にする可能性は類型的に高いというべきで、乙社側にもより慎重な対応を要求される等々と指摘することが可能です。
 結論はどちらでも構いませんが、上記のようにしっかり迷ってみる必要があります。その際は、一度法律的な要件をはなれてどっちを勝たせるべきか考えるという作業が必要ですね。その作業から上記のような具体的な当てはめが生まれるわけです。個人的には、それで5000万円という多額の保証債務を背負ってしまう甲社の不利益と比較して、乙社側の帰責性は強いのではないかと思ってしまうわけです。こういう思考を経ない受験生はいわゆる迷いのない答案になってしまうのでしょう。

2 設問2も比較的単純で、Aの父Cが資金も全部用意して甲社に出資し、将来の跡継ぎたるAに株式をもたせた(=株主名簿上はAを株主とした)が、その資金はCが用意し、議決権行使もAは行わず、配当はCが受領していたという状況で、Aが株主かCが株主かどちらかを聞く問題だと思います。なにか隠されているかもしれませんが、配点25なので、明らかなこの問題をしっかり論じれば十分です。
 論点というより、名義株かどうかの事実認定の問題と言ってもいいかもしれません。だから受験生時代の自分の記憶をたどってもいわゆる論点みたいなものは思い出せません。要するに諸事情を考慮して名義貸しなのか実態としてもAが株主なのかを認定することになります。
 で、見たことのない問題でも、聞かれている問題意識がはっきりしているときはチャンスだということはこれも受験生にいつも言っていることです。基本を抑えた上で、肯定否定両方から考えて、設問1のようにしっかり迷いを見せた答案にするだけです。また、妙な思いつきの理論なんかを出すと大怪我しかねないから、実質論として不当な結論になりそうでも「○○からやむを得ない」とフォローしておけばそれで十分としています。
 基本として株主名簿の推定力についてはしっかり触れる必要があります。Cが代取を下りてAが代取となったという事情以外にあんまりAが実質株主だと示すような要素は問題文上みあたらないので、推定があるが、資金の拠出、配当の受領、議決権もAが行使していない(Cの指示で会社総務部が対応していた)等々の事実をしてきして、Aが株主だとやる流れが穏当でしょう。あとは、素人っぽい答案にならないように、当てはめで使う事実から逆算して「名義株主か否かは、出捐者はだれか、配当等株主権の行使・享受者はだれか、出捐の経緯等の事情を総合して決するべきである」みたいな規範を立てて当てはめとやればきれいな答案になるでしょう。
 なお問題文にはありませんが、実際はCが出捐した2000万円あるいは株式についての贈与税関係が重要でしょうね。贈与税の申告をしていないなら(配当についての申告状況からそうだと思いますが)やはりCが株主であることを補強する事情になります。多分そこまで問題文で明らかにするとミエミエだと思ったか、贈与税について知識が乏しい受験生を混乱させないために触れなかったのでしょう。

3 設問3は配点45点ですし、一応本問の山場でしょう。とはいえ、難しいことは全くありません。問題の概要だけ記載すると、甲社の株主がA、C、D、丙社の4者であったところ、Aの取締役任期満了にともないA選任の会社議案に対し、C側がCを候補者とすべきという修正議案を出し、議長だったCが自らの選任決議があったとして閉会したところ、当該総会決議の効力を問うものです。事情として、Dは弁護士G(非株主)を代理人としたがCにより退席させられ議決権を行使できなかった、丙社は内規で専務取締役が議決権行使を決めることになっており、例年どうり同専務の白紙委任状が提出されていた(この場合Aが代理人として指定される)が、総会でCの友人である丙代表取締役副社長が出席してC選任の議決権行使をした、というものです。なお、議長はもともとAですが、Cの動議によりCが議長に変わっており(これはAも同意)、当方は議長提案で決選投票方式とした(出席株主の異議なし)というものでした。
  論点をバラバラと書くと、ⅰ白紙委任状の可否、ⅱ議決権行使代理人を株主に限るとの定款規定の効力とその適用(弁護士は例外か)、ⅲ委任状と当日の議決権行使の矛盾がある場合の考え方、ⅳ丙社内規による議決権行使決定権の制限(内規によれば副社長は無権代理になる)の効力、ⅴ決選投票方式の適否、といったところでしょうか。ⅰとⅴは軽く触れておけばよく、ⅱとⅲⅳで残り各5割くらいのバランスでしょうか。
 議決権行使制限資格の制限という論点については、このブログでも大盛工業事件高裁判決に触れています。同高裁判決の理屈からすると、弁護士代理人だろうと出席を拒んでよいという話になるのでしょう。個人的にはこの高裁判決には反対ですが(法人株主の従業員の出席を認める以上、個別の判断は強いられる)、いずれの結論をとるにせよすべての論点にふれる必要があります。
 実質論としては、まあ丙社としては取り立てて甲社の動向に気を止めていなかった(問題文の事情からすると、甲社におけるACの親子対立などに関係なく、純粋に内規にしたがって議決権行使を決めていたと見えます。Cが丙社の副社長がたまたま同級生であることを奇貨として議決権行使を歪めたことの正当性は乏しいと思われます。まあ、価値判断は分かれるかもしれませんが、丙社代理人の議決権行使には瑕疵があるとしたほうが妥当かなと思います。
 あとは理路整然としていることが重要です。ⅲで当日出席が優先するというのが通常でしょうが、ⅳで丙社副社長の議決権行使は無権代理となるかを内規違反であることという形式論、上記のとおり丙社の潜在的意思にも反するであろうという実質論両面から論じると説得的になるのではないでしょうか。なお、無権代理による議決権行使について代表取締役Aは善意無過失であることは一つの問題ですが、議長Cは善意であっても無過失とは言えないでしょう。ここでも内規に違反して議決権を行使した丙社副社長の権限濫用について瑕疵が治癒される余地がまったくないではないと思います。こんな論点は知りませんし、全く調べていませんが、議長たるCの主観を基準とし、過失があるとして否定する旨一言触れておくとよいと思います。
 実は弁護士代理人を立てたDが20%、A、C、丙社は各10%の株を保有しているのですが、Dは実はCの母、Aの祖母でして、どちらにも肩入れできないと弁護士Gを代理人として出席させたものです。事案の筋としては、当事者であるACは持分でも対等であり、Dが態度を明確にするか、「どちらにも肩入れできない」がなるに任せる、棄権だということなら丙社が内紛などの事情を踏まえて決めた方針に従うべきということになるのが落とし所ではないかと思います。本件では弁護士Gが議決権を行使できないまま退場しているのですが、どちらにも肩入れできないというならどのみち棄権したのかもしれません。まあ、一旦は決議取消しした上で、再度丙社、Dの意向を十分踏まえて決めるのがいいのでしょう。もちろんこんなことまで答案に書く必要はありません。

4 全体として、これまでの会社法の問題でもっとも平易と言っていいほどの問題かと思います。が、平易であっても相対評価なのですから、ならばしっかり差をつけることを意識しなければなりません。私なら、ということですが、設問1については民法93条ただし書類推の判例に対して、「軽過失の場合保護されるのは商取引の特質や利益相反の場合に相対的無効として軽過失は保護されることと整合性を欠く」と批判して自説を述べること、議決権の代理行使についても東京高裁判決の立場に「弁護士代理人が日雇の従業員だと主張するような場合を考えると説得力はない。もともと代理行使は法律上制限なく認められており、定款による制限を認めたのは総会屋の跋扈を背景に総会の混乱防止のために意味がないではないという実質論が背景にあったが、総会屋対策が充実した昨今においてあえて維持する実質的な理由に乏しい」などとして攻めて行くでしょう。これは反対説のほうが正しいというのではなく、こう論じることで深い理解を示すことができるという意味あいです。

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