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2020年6月 8日 (月)

ジャパンビジネスラボ逆転高裁判決の真相③―録音禁止命令と記者会見の違法性

 今までの2回でだいぶ量を書いたので、最終回は録音禁止命令と記者会見の違法性という2つのテーマについて軽く一言しておきます。

1 録音禁止命令について
 本判決について、録音禁止命令への違反が雇止めの合理性を認めることにつながった事例だという評価の向きがありますが、ミスリーディングだと思います。
 前回紹介したとおり、高裁判決が雇止めの合理性を認めた根拠は、ア録音禁止命令や誓約に違反し、自己に有利な会話を交渉材料とするために録音した、イ「労働局に相談し、労働組合に加入して交渉し、労働委員会にあっせん申請をしても、自己の要求が容れられないことから、広く社会に報道されることを期待して、マスコミ関係者らに対し、Yの対応等について客観的事実とは異なる事実を伝え、録音したデータを提供することによって、社会に対してYが育児休業明けの労働者の権利を侵害するマタハラ企業であるとの印象を与えようと企図したものと言わざるを得ない」、ウ職務専念義務違反(パソコンやメールの私的利用)を根拠に合理的理由があるとした、というものです。前回も触れたとおり、アはイの準備行為で、アの行為単体がそれほど重いのではないと思います。また、「自己に有利な会話を交渉材料とするために録音した」という認定なのですから、録音命令違反でも本当に備忘のためであれば同列に扱われたかは疑問です。
 さらに、禁止されかつ雇い止めの際に問題とされたのは「執務室での録音」であって、「面談や交渉の場面の録音は個別に許可」されていたことは注意を要します。
 以上、面談や交渉の場面をこっそり録音しておくことは禁じられないと思いますし、これまでの裁判例を見る限り禁じたとしても録音の証拠能力が否定されるハードルは相当高いと思います。結局、「執務室内での録音は一般的に禁止し、個別に違反が発覚したら注意指導すべきだが、常に録音されていることは意識しておかなければならない」となると思います。本件は特殊な事案で、単に録音命令違反にとどまり、その録音をマスコミに提供し、「復帰してすぐに保育園が見つかったのに正社員に戻してくれず嫌がらせを受けた」という虚偽のストーリーを自分の権利実現のためにマスコミに流したという事実がなければ信頼関係の破壊すなわち雇止めの合理性にはつながらなかったと思います。録音命令違反を過大視することはできず、先例としての価値もあまり大きくないと思います。

2 記者会見の違法性について
(1) この違法性を認め、55万円の支払を認めた高裁判決は、流石にこの事案の特殊性を十分理解した今となってもなお驚きです。高裁判決のなかでもY側の不法行為の成否の際に触れられていますが、「被告の立場から事実関係及び認識を説明したものであって、訴訟の反対当事者による対抗言論」という観点が無視できません。結果的に否定されたとしても、判決が確定するまである事実の存否とか主張の当否は確定しないので、訴訟の一方当事者の主張を軽々に不法行為と判断することはできないわけです。
(2) 高裁判決のポイントは、次のとおりかと思います。
 ① 記者会見は民事訴訟上の主張と異なり被告の反論の場がないことを重視したこと
 ② 「報道に接した一般人の普通の注意と読み方を基準」とし、単なる一方当事者の主張ではなく、事実の摘示と判断したこと
 ③ 具体的な発言で、Yの信用低下をきたし、かつ真実相当性も否定されたのは次の3つです
  ⅰ 平成26年9月に育児休業期間終了を迎えたが、保育園が見付からなかったため休職を申し出たものの認められず、Yから週3日勤務の契約社員になるか自主退職するかを迫られた
  ⅱ 子を産んで戻ってきたら、人格を否定された
  ⅲ Yが労働組合に加入したところ、Y代表者が「あなたは危険人物です」と発言した
  まずⅰはちょっと厳しすぎやしないかとは思います。判決で自由な意思だったと認められるのはいいのですが、「週3日勤務の契約社員になるか自主退職するかを迫られた」はXの内心の評価の問題でもあるし、まあ退職になるよりはマシだとは言え、Xの本意ではないことは明らかでしょう。そもそも事実の摘示と認めるかどうかについても議論があるところでしょう。
  次にⅱはなるほど、「Xの主張を見ても、YによるXの人格を否定する言動を具体的に指摘するものではない上、証拠を踏まえても、XがYから人格を否定される言動を受けたことにつき、具体的な立証があったとはいえない」としているので、かろうじてOKかもしれません。ただ、この発言自体あんまり破壊力が強いとは思えないのですが。。。
 最後にⅲは、もとの発言は「あなたが組合とかって関係なく、危険であるというところで」です。これを組合に加入したところ「あなたは危険人物です」と言われたというのはさすがにやりすぎでしょう。「文脈からすると、「危険」とは、クラスに穴を開けることが懸念されたなどのYにクラス担当を任せることについてのリスクをもって「危険」という表現を用いたことが認められる」とされているが、正当です。
 (3) 細部を見ると首をかしげたくなる部分がある判断でありますが、こういう判断が出たのは何度も触れた保育園のウソであったり、高裁判決も指摘しているが平成27年6月6日のメールが「記者会見を一審被告に社会的制裁を与えて自己の金銭的要求を達成するための手段と考えている趣旨のメール」と悪印象を与えたことが大きいのでしょう。
(4) なお、この高裁の判断だと、「もうちょっとうまく言ってればセーフだったんじゃない?」という疑問もあります。ざっくりと本件を見た場合に、「俺なら自分で養うつもりで妊娠させる」を文脈から切り取ってマタハラ企業の印象づけに使ったことが一番の問題なのではと感じます(もちろん私の超主観ですが)。上記3つの発言なら、なしかちょっと言い回しを変えるだけでXの望むような効果は得られたのではないか?との疑問もわきます。
 また、マスコミ側も節操がない部分はなかったでしょうか。Yの言い分をちゃんと報道しているようなマスコミは当時どのくらいあったのでしょうか。もちろんXのよろしくない部分もありますが、マスコミの扱いの問題性も大きいような気がします。まあこの問題は少し難しすぎますね。最高裁でこの部分は変わるかもしれません。

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