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2020年5月 5日 (火)

ロードバイクは路肩を走ることは予定されていない、第1車線を走れだと?!

 このブログでは基本的に法律の話しか書いてないので、私のしょーもない趣味の話とかは出てこないわけですが、去年の8月にロードバイクを購入して以来すっかりハマっているわけです。昨年末にロードバイクで台湾一周をしようと企てたところ、コケて鎖骨を折って手術するという醜態でしたが、懲りずにまだ通勤から、コロナ自粛下の運動がてらツーリングしています。なお、コケた事故は完全な単独事故-130キロくらい乗って手が痛くなってきたので、平坦かつ通行量少ない自転車レーンも幅広く安全な道という状況下で、「ハンドルに肘ついて運転したら楽じゃないの」と思って実行したらバランスを失ってコケた-です。

 というドジ話と前置きは置いておいて、自粛下の無聊にまかせて判例タイムズを読んでいたところ、ロードバイクと道路の瑕疵に関する裁判例が載っていたので、ロードバイク乗りの端くれかつ弁護士という観点から一言物申したいと思います。

 さて、問題の裁判例とは、広島高裁岡山支部平成31年4月21日・判タ1468ー56)です。事案の概略は、夜間(夜8時半ころ)、片側2車線の幹線市道をロードバークで走行していた50代の男性が、路肩の排水溝のスリット(幅約2センチ)にタイヤを取られて転倒し、受傷したので、岡山市の道路の設置管理に瑕疵があるとして国家賠償を求めたというものです。

123  現場付近(下記ローソン前。現在は対策が施されているように見える)


 一審は瑕疵を認め、3割の過失相殺をして約38万円の賠償責任を市に認めました。その控訴審判決が上記のものですが、市の控訴を全面的に入れ、原審破棄・請求棄却という判決です。
 なお、ネット上でも判決は公開されています。
http://www.hido.or.jp/14gyousei_backnumber/2019data/1906/1906soshoujirei.pdf
↑高裁判決

 かなり微妙な事案だとは思います。判決が瑕疵を否定した判断のポイントのみ列挙すると、次のとおりですか。
 ・ 原告の自転車は規格23c(幅23mm)のロードバイクとしては標準的なタイヤを装着していたが、事故当時は19mmから20mmだった
 ・ 事故当時の照度(原告目線の高さでの照度が25ルクス程度)、排水溝の色(薄い灰色)などから→スリットを「黒い直線状のもの」と容易に認識できた
 ・ 過去に同種事故は発生していない(なお、ある一日の通勤時間帯4時間における自転車の通行量は1100台、うちロードバイクは31台で、これは南北方向両方の通行量である)
 ・ 路肩は通行が予定されていないという路肩に関する評価

 文句をつけたいのは、「路肩」に関する評価です。
 判決は「本件道路は、片側2車線の歩車道の区別のある道路であり、車両通行帯が設けられているから、自転車は道路の左側端から数えて1番目の車両通行帯を通行しなければならず(道路交通法20条1項)、この規制に従えば、本件路肩部分の外側線に掛かっていない部分を自転車が継続的に走行することはなく、道路外の施設に出入りしたり、自転車の走行が許されている歩道に進入したりするために横断することが想定されるにとどまる。」と道交法からの形式論を述べます。こんな形式論が言えるのはまず担当裁判官も裁判長もロードバイクや、クロスバイクで車道を走ったことがないからでしょう。ママチャリでも幹線道路の車道を走った経験があればまあ言えないのではと思います。

 前提として、「道路左の白線の左側」について歩道がある場合とそうでない場合で法的には区別があることに触れて置かねばなりません。本件もそうですが、歩道がある場合はこの部分は「路肩」で、法的には軽車両含め車両は原則走行禁止です。歩道がない場合は「路側帯」で、軽車両は通行可ですがクルマは走行禁止です。が、これは壮大なフィクションであって、正直歩道があるか否かで区別しているロードバイクはいないのではないかと思います。このあたりが判決の形式論ガチガチのところです。

 さて、ロードバイク等で車道を走行する際の後続車両の追い抜きによる恐怖というのは図りしれません。仮に転倒すれば轢過されることになり、命に関わります。確かにクルマからすればロードバイクの存在は邪魔で危なっかしいことは間違いないでしょう。そう思っているのでしょうが、それでも9割以上のクルマは自動車との距離を十分に取って追い抜いたり、あるいは対向車との関係で安全に追い抜けるところまで待って追い抜いてくれることがほとんどです。が、1割(あるいは実感的に考えると数%くらいかもしれません)、自転車のスレスレを通過して追い抜いていくクルマは確実にいます。大型トラックやトレーラーだと、不可避的にそうなってしまう場合もあります。

 「道路左の白線の左側」を通行するか否かは、主にAこの追越車両による危険性の回避の必要性(通行量や特に大型車両の通過の多寡がメイン、あとは時間・場所や運転者の個性により危険な追抜きを実行される可能性を考える)、B追越車両に対する与える妨害の程度又は迷惑感(ロードバイク側の負い目)・あるいは追越車両によるプレッシャー(クラクションなど)、C「道路左の白線の左側」の通行による安全上・通行上の不利益の多寡とその認識の有無や可能性の程度(「道路左の白線の左側」の広さ、法的な意味でないいわゆるアスファルト舗装のない「路肩」の広さや側溝の上部を含めた凹凸・傾斜等)の3つの要素の比較考量を直感的にやって決めているように思います。
 上記のように抽象化するとわかりにくいので、具体例で述べると、アスファルトでキレイに舗装された「道路左の白線の左側」が十分に広ければ特段迷うことなくそこを通ります。Cの通行上の不利益がなく、Aの安全感があり、Bの後続車両に対する妨害の程度も皆無に近いからです。逆に、いわゆる生活道路などを抜け道として使っていることが明らかな車両であれば、私はB追越車両が主観的にどれほど迷惑感を感じていても、それは当然に甘受すべきと思っているので、クラクションを鳴らされようと「道路左の白線の左側」に退避して譲る気はありません。相応にスピードを上げて(川沿いの見通しのよい道なら30キロくらい)で走行する場合はありますが、それ以上に文句をいわれる筋合いはないと思っているからです。
 本日の帰宅時に、「道路左の白線の左側」を通ったのは、片側二車線ながら信号待ち直後で2列に直進車が追い抜いてくるであろう部分で、金属製の側溝フタの上をゆっくりと走りながら追い越す車両をやり過ごしたのと、アスファルトでキレイに舗装された「道路左の白線の左側」が十分に広い場所でした。後者は説明不要ですが、前者は接近して追抜く車両が現れて危険性が高い(A)のと、幹線道路の発進直後で追越車両は追越車線側に回避することも容易でないことから追越車両に与える妨害の程度も迷惑感も大きい(B)から、ゆっくり注意して進行すれば安全(C)な側溝部分を走行するのも仕方ないと思ったからです。

 さて、本件も基本的にはAないしCの要素を比較衡量して検討すべきであったと思います。ただ、具体的な状況に応じたものではない、瑕疵の有無という問題であるため、一般的合理的に予想されるAとBに置き換えて考える必要はあると思いますが。
 ところが本判決は法律上「道路左の白線の左側」の通行が予定されていないことを前提にほぼCだけの検討で決めてしまったことに問題があります。本判決のような判示の仕方では「路肩は自転車が通ることは想定されていないから、2cmのスリット幅はセーフ」という誤解を招きかねず、問題です。

 本件事故現場は簡単には特定できないので、この種の判決は現場を明示するのと、このスリットの寸法や写真などを判決に掲げることが検証のために必須だと思います。それはともかく、一審判決では青江津島線の北行車線と東西道路に信号がある交差点の手前ということなので、グーグルマップでの写真と照合する限り、スシロー岡山大供店前、天下一品岡山大供店前、ローソン岡山大供本町店前の信号付近かのいずれかと考えられます。
https://goo.gl/maps/axoJuEGvYWDV6jpH8 (リンクは天下一品岡山大供店前)

 現場が上記のどこであったとしても大差はありませんので、いいかと思います。
 上記AないしCに沿って検討すると、Aの安全感として信号手前であえて「道路左の白線の左側」に回避しなければならない必要性は通常乏しいでしょう。幹線道路ですから、Bの妨害の程度は一般的に高く、同時に追越車両からのプレッシャーも高いと予想されます。Cの危険性の程度と運転者の認識・認識可能性についてですが、判決はここの検証が(少なくとも判決上の明示が)十分でないと思います。タイヤの消耗により20cmの幅を割りかかっていたような認定ですが、新品のタイヤならタイヤを取られることはなかったと検証をしっかりしたのでしょうか。被告側ではその検証をやって叱るべきと思うのですが、証拠は提出されていないように判決文からは見えます。つまり、幅2cmの溝がタイヤのかなりすり減った原告のロードバイクにとってのみ危険であり、通常のロードバイクにとって危険でなかったかの検討は不十分です。また、「道路左の白線の左側」の部分はアスファルト舗装されていない部分でかなり狭く、通常ならよほどのことがない限りロードバイクが侵入しようとは思えない部分です。
 以上、Cの検証については留保が必要ですが、私は総合的には、少なくとも信号前のこの場所でこの狭い「道路左の白線の左側」に敢えて進入する必要性は乏しいのかな、つまり原告の信号前というこの場所での事故はかなり例外的なものだと思います。客観的な瑕疵の問題の審理なのである程度は仕方ないのですが、事故態様に関する主張立証も判決上明確にすべきであったと思います。私は、例えば「信号前の部分では瑕疵がないが、信号後の数メートル部分でも特段の対策を施さずにスリットが2cmの幅であったことは瑕疵に該当する」という判断はあり得ると思います。本日帰宅時の私の事例のように、信号通過直後は多少狭くて危険でも「道路左の白線の左側」に入るインセンティブは高いものなのです。もともと単独事故なので審理が不十分なのはある程度仕方がありませんので、ここからは想像を働かせるしかないのですが、信号直前で狭い「道路左の白線の左側」に寄ったのは赤信号ないし青信号直前であれば車道に停車中の車両の横をすり抜けようとした可能性が高いと思います。青信号であればそうする理由は考えにくいのですが、あるとすればこのスペースを利用して渋滞気味の車両をすり抜けようとしたかでしょう。いずれの場合も率直にはあまりロードバイクの行動はあまり褒められたものではありません。青信号で狭い「道路左の白線の左側」からクルマを抜こうとするのは問題でしょう。赤信号又は青信号直前ですり抜けようとするのは、少なくとも相応に広い歩道がある本件のような場所では不適切だと思います。私ならクルマの真後ろに原付のようにつけるか、歩道に上がってからクルマを抜くと思います。
 ただ、他方でロードバイクが転倒すれば命に関わるため、この甚大な被害を防止するために道路の設置管理について細心の注意を払うべきと思います。本件では2cmのスリットがある側溝を選定するに際しての具体的な検討状況についての資料を市が提出しなかったと高裁判決が指摘しています。こうまで指摘しておきながら「路上の塵やゴミ等による目詰まりを防止し、一定の排水性能を確保する必要があることを考慮すると、約2㎝という隙間の幅が過大であるとまでは認め難い」とあっさり認定してしまったのは不十分にすぎると思います。実際はロードバイクの安全という問題についてさしたる考えなく2cmのスリットを採用したのだと思いますが、これはロードバイク運転者の命に関わることを考慮すると問題であろうと思います。今グーグルマップで見ると幅を狭くする対策がほど子されているように見えますが、やはり検討は足りていなかったのではないでしょうか。

 以上長々と述べてきましたが、判決文やグーグルマップから得られる程度の周辺情報では判決の結論の是非については十分検討ができないと言わざるを得ません。ただ、冒頭で文句をつけたように、結論がどちらになるとしても、歩道がある道路ではロードバイクは「道路左の白線の左側」を走るな、という判示は実態に即しておらず誤りですし、本件の結論を導くのに重要性が高い判示とは言えません。

 我々ロードバイクに乗るものにとって、時に「道路左の白線の左側」を走ることは避けられません。視認も容易な若干の凹凸とか、本判決も指摘するような滑りやすい金属の側溝フタくらいならかまいません。気をつけて走れば安全上大きな問題はないからです。が、タイヤを取られてしまうようなスリットが、しかも整備不良のないデフォルトの状態で存在したのだとすればこれは多くのロード乗りの安全に関わる大問題です。国や各自治体は本判決を免罪符にすることなく、「結論責任は否定されたが危険であることは間違いない。まして本判決は広く報道されたから本判決後に同様のスリットを放置しておくのは極めて問題だ」という態度で望んでほしいなと思います。

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コメント

誤字
検証をやって叱るべき→然るべき
ほど子

投稿: | 2021年7月 7日 (水) 02時04分

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