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2019年5月

2019年5月20日 (月)

令和元年司法試験商法(会社法)について

1 法務省より問題が公開されたので、恒例の解説を行う。ざっと、そう奇を衒うような問題でもなく、日頃から条文をしっかり引いており、重要判例を文字面の暗記だけでなく、背後までしっかり理解していれば何ら苦もなく高得点できる問題であっただろう。その意味でいい問題だと思う。
 ただ、ブルドックソース事件を出題した際の感想として、丸暗記としても中途半端(判例の言い回しを正しく覚えていない)で、かつ判例の判断の背後にある価値判断や事情などを理解していない学生(そもそも判例の結論を覚えればおしまいと考えている)が多いというのは実感している。法律の勉強が楽しいのは後者のところなんだけどね。。。
http://www.moj.go.jp/content/001293668.pdf

2 設問1は、公開会社において少数株主が臨時総会を招集する場合と、定時総会で株主提案権を公使する場合の手続きを比較検討して述べよというものである。基本的な設問であるが、日頃から条文を引くことを怠っている学生はすぐに条文が出てこず、思わぬ時間を要することになろう。概略は下記のとおりである。

 ① 臨時総会を自ら招集する場合(297条1項、4項)
  ・ 3%を6ヶ月前から有する株主であること
  ・ 取締役に対し、株主総会の目的事項および招集の理由示して招集すること
   → 招集があればそれでOK
  ・ 遅滞なく招集が行われない、又は8週間以内を総会日とする招集通知が発されないこと
   → 裁判所の許可を得て招集することができること。
 ② 定時総会での株主提案権の行使
  ・ 総株主の議決権の1%の議決権または300個以上の議決権を、6か月前から有する株主であること(303条1項2項)
  ・ 株主に対して議案の要領を通知することの請求(305条1項)
   ※ 一応泡沫提案の禁止、法令定款違反に引っかからないことも触れておくとよいだろう

 比較としては、こういうことを出題者が要求しているかわからないが、臨時総会を招集する場合、招集請求のみで招集がなされればよいが、裁判所の許可を得る場合、裁判の費用等負担、また許可が下りてもその事務は負担が大きい。対する株主提案権の行使はかような負担がない、ということになろう。調べるのが面倒なので省略するが、招集にかかった費用は会社にあとで返還請求できたかもしれない(もちろんここまで書く必要はない)。株主総会招集許可は申し立てたことも申し立てられたこともあるが、非訟事件とはいえ期日対応などの負担は相当なものである。通常保全係が担当で、保全事件並に急いでくれることが多いように思うが、もちろん事案による。

3 設問2は、ブルドックソース事件を題材にしている。同事件との大きな違いは、①賛成は67%にとどまる(ブルドックソース事件は83.4%)、②代償として金銭が交付されることはなかった、という2点である。
 ここ3年連続で書いているような気がするが、私がロースクールの演習で出した問題と細かい設定含め、瓜二つであって(まあブルドックソース事件がネタだから当たり前だが)、ちゃんとやってくれた人はほぼ満点が取れたであろう。なお、私の設定は、総株主の60%の賛成があった、というものであった。以下、横着して、当時私が学生に見本答案として配布したものを貼り付ける。なんと平成22年に作ったものが今更日の目?をみるとは。。。
 本問では特別決議はあるので、下記オの部分でブルドックソース事件が特別決議さえあればよいと考えているのか否かについて論じることになろう。67%という特別決議ギリギリの設定は際どい。代償としての金銭交付は触れなくても構わないが、企業価値研究会の報告書が却って否定的であることを指摘したら加点になるだろう。また、私の問題では買収者(乙社)が公開買付を撤回して損害を回避できる方法がある(金融商品取引法27条の11第1項参照)と提示しておいたのだが、本問では金商法を出すのは混乱させるので、「本件新株予約権無償割当ての概要」の(10)で、乙社が買い増しを行わないことを確約したら、新株予約権の発行を実質撤回することができる、とされていることで対応したのだろう。議題3には、ご丁寧になおがきで「本件新株予約権無償割当てを行うことにより乙社に生じ得る不利益は,乙社がこれ以上の甲社の株式の買い増しを行わない旨を確約した場合には,甲社の取締役会が解消することができる仕組みとなっており,乙社の利益を不当に害するものでない。」と記載されている。ただ、「できる」であって、乙社の権利として損害を回避できるとは限らないのが問題だが、この問題がそんなことまでを論じさせるつもりなら無理もいいところである。
 なお、ブルドック高裁判決のようにニッポン放送事件の規範を使って濫用的買収者だと認定して差止め不可とするルートもあるが、論じる必要はないだろう。濫用的買収者とまでは言えないと軽く1行認定する程度であろう。

 「 ア 本問において、乙社は会社法247条によって新株予約権の発行を差し止めることができるか。
 イ まず、新株予約権無償割当の場合には条文の配置上247条の直接適用がないが、類推適用を肯定すべきである。無償割当であっても株主の地位に実質的変動を及ぼす場合には差止めを認めない理由はないからである。
 ウ そうすると、本件新株予約権無償割当(以下「本件割当」という)は、差別的行使条件により乙社だけの新株予約権行使を認めないものであるから、株主平等原則(109条1項)に違反し、法令定款違反による差し止めが認められないか、問題となる(247条1号)。
   まず、新株予約権の無償割当は、株式の内容に直接関係するものではないが、株主としての資格に着目して割当てがなされるものであるから、平等原則の趣旨が及ぶと解すべきである。
   もっとも、株主平等原則は個々の株主の利益を保護するためのものであり、特定株主の経営支配権取得に伴い、会社の企業価値が毀損され、会社の利益ひいては株主共同の利益が害されるような場合には、衡平の理念に照らし相当性を有する限り、当該株主を差別的に取り扱うことも許容されると解する。判例もブルドックソース事件においてこのような差別的取扱いの余地を認めている。
 エ ここで、上記株主の共同利益が害される場合にあたるかどうかは、判断の相当性を失わせる重大な瑕疵のない限り、会社の利益の帰属主体である株主自身の判断を尊重すべきである。
 オ 以上を前提に本件を検討する。本件では議決権総数の60%の賛成で本件割当の議案が株主総会において可決されている。出席株主では30%(乙社を除くと20%)が、いわば乙社による買収は株主共同の利益を害しないと判断したことは決して軽視できないとはいえ、結局は少数派である30%の株主の反対を重視し、総株主の過半数をこえる(本件総会出席率は90%)株主の判断を尊重できないとすることは、会社の判断に対する裁判所の不当な介入にもなりうる。ブルドックソース事件は、出席株主の80%以上の賛成があった事例であるが、同事件の判例はこのような高率の賛成や特別決議を満たす66.6%以上の賛成までも要求する趣旨ではないと解される。
   よって、本件では株主の判断を尊重すべき場合にあたる。
 カ では本件新株予約権割当は相当性を欠くものか。
   本件においては、乙社は公開買付を撤回して、本件割当による持ち株比率の希釈化による不利益を回避することができる。乙社の撤回によって、本件割当も効力を失うからである。そうすると、乙社には損害回避の可能性が確保されているといえるから、本件割当は相当性を欠くとは言えないものと解する。なお、ブルドックソース事件は、買収者に対する相当の金銭補償がなされた事案であったが、株主により株主共同の利益を害すると判断された買収者に対してそのような補償をする必要があるか否かは疑問であり、むしろ多額の補償によって会社財産の流出をまねけばかえって株主共同の利益を害することになる。したがって、金銭補償の有無は相当性の判断に影響しないと解する。
 キ また、著しく不公正な方法による発行(247条2号)に該当するかも問題となるが、上記オ、カで検討したところによれば、これにも該当しない。
 ク 以上、本問では乙社による差止請求は認められない。」

3 設問3は、主に重要な財産の処分についての決議権限を取締役会から株主総会に移譲することの可否、特に移譲が可能であるとしても、株主総会と取締役会に併存するのか否かが問われている。そのうえで軽く経営判断原則にふれる必要がある。
 近時の判例が、非公開会社について、代表取締役の選定権限を定款で株主総会に移譲したことを適法とするもの(最判平成29年2月21日)があるのは、受験生ならだれでも知っているだろう。問題はそこから先で、①公開会社であること、②代取の選任ではないこと、について最判の事例との異同を論じた上で(おそらく、そのような違いがあるが、同様に考えてよい、とするのが穏当であろう)、では定款で株主総会の権限であると定めた場合に、取締役会で決議することは不可となるのか、併存的に決議可能になるのか、という点について厚く論じる必要がある。この辺は、問題文にかなり誘導があるので、最判や併存かどうかという細かい議論を知らなくても書ける。問題文11項の種々の発言が誘導になっているし、議題に「株主総会の決議によっても」と記載されていることが脂っこいことに気づくであろう。
 おそらく併存するというのが有力説であり、取締役会で覆すことができるという前提を取りつつ、後は経営判断原則に照らしてそのワクをはみ出しているかどうかを丁寧に認定することになろう。Q倉庫の倒壊にともない、P倉庫がなければ50億の損害が見込まれた、その損害額は会社の資本金や売上の規模からすれば膨大であること、弁護士に相談したような事情も伺われないことなどを強調すれば経営判断のワクを超えると言えよう。逆に単独の判断ではなく、取締役会で議論していること、株主総会でも決議された事項であるということなどを強調すれば経営判断のワク内ということもできよう。責任の有無はともかく、事情変更を踏まえて乙社との対話を行うことくらいはすべきであろうかと思うし、不動産価格の下落傾向は見られなかったということで、処分する方に急ぐ事情はないことも重要である。

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