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2019年2月26日 (火)

非正規雇用者に賞与・退職金を支給しないことは違法となるか―同一労働同一賃金ガイドラインと大阪医科大学事件・メトロコマース事件控訴審判決

 最近出た東京・大阪2つの高裁判決による衝撃が走っている。非正規雇用者に賞与と退職金の支給を認めた大阪医科大学事件(大高平成31年2月15日)と、メトロコマース事件(東高平成31年2月21日)の高裁判決である。

 今回の同一労働同一賃金ガイドラインは、究極は非正規という言葉を一掃することを目指すとしている。要するに、究極には正規・非正規という区切りではなく、働いた時間や職務内容の差などによってのみ賃金が異なるという制度を目指すということであろう。この壮大な目標からすれば、確かに賞与や退職金などは正規・非正規という名称を問わず誰にも支給されるべき(あるいはそもそも誰も支給されないべき)ということになるのだろう。
 そうは言ってもこの壮大な目標はまだ遠いものである。ガイドラインはそもそも「通常の労働者と短時間・有期雇用労働者の賃金の決定基準・ルールの相違があるとき」を前提としていないのだが、実際は大半の企業は決定基準等に差異が存在するであろう。ようするに、ガイドラインの基本給の例などは大半はすぐには使えないケースについて示したものなのである。ガイドライン自身もそのことには当然自覚的である。すなわち、「基本給をはじめ、賃金制度の決まり方には様々な要素が組み合わされている場合も多いため、まずは、各事業主において、職務の内容や職務に必要な能力等の内容を明確化するとともに、その職務の内容や職務に必要な能力等の内容と賃金等の待遇との関係を含めた待遇の体系全体を、短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者を含む労使の話合いによって確認し、短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者を含む労使で共有することが肝要である。」としているのである。まずは賃金制度の決まり方を明確化し、労使で共有するところから始めるとしているわけである。

 また、「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会中間報告」(平成28年12月)でも「手当を優先的に」ということが述べられており、周知のとおり、各種手当について個別に不合理性を判断した長澤運輸事件・ハマキョウレックス事件の影響もあって、「同一労働同一賃金はまずは手当の部分をしっかり対応しよう!」との雰囲気が、逆に言えば、「基本給その他は、まず賃金決定要素をはっきりさせることからはじめて、具体的な制度改革は後回しでいいよね」という暗黙の認識があったような気がする。そもそも退職金については、ガイドラインの個別項目には上げられておらず、「この指針に原則となる考え方が示されていない退職手当 、住宅手当、家族手当等の待遇や、具体例に該当しない場合についても、不合理と認められる待遇の相違の解消等が求められる」と記載されていた程度であったのである。

 というわけで、個人的には「非正規を一掃っていうなら賞与や退職金は不支給ってわけにはいかないだろうけど、すぐには変わらないだろうなあ。裁判例もそれこそ大阪医科大学・メトロコマースの一審判決のように格差は不合理ではないという判断が当面はつづくだろうな」と思っていた。
 それを見事に裏切ってくれたのが両判決の判断である。
 まだ判決原文を見ていないから、不確かな部分が多い。いくつか気になる点がある。
 ① メトロコマースの高裁判決は賞与について不合理性は認めていないこと(ただし、夏冬各12万、年24万円は支給されていた事案)。その理屈はどうか。
 ② メトロコマースが退職金を正社員の約4分の1、大阪医科大学時間が賞与を正社員の6割を支給すべきとした論理、考慮要素(表面に出てこない部分も含め)
 ③ 両事件の一審判決は、大まかには「採用基準も、配転の範囲も異なり、また正社員に登用されることもある」という要素から退職金・賞与の格差は不合理とまでは言えないとしたが、このあたりがどう判示されているか。

特に、③の点は、上記ガイドライン(注)の解釈に関わると見ている。すなわち、ガイドラインの(注)によると、「通常の労働者と短時間・有期雇用労働者の賃金の決定基準・ルールの相違があるとき」は「通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間で将来の役割期待が異なるため、賃金の決定基準・ルールが異なる」等の主観的又は抽象的な説明では足り」ないとされている。両事件の地裁判決程度の判示ならば「主観的又は抽象的な説明」には該当しないと考えていたが、仮にこの部分の判断も変わっているとすれば、抽象的な説明か否かのメルクマールを示すことになりそうである。

さて、同一労働同一賃金が導入される背景として、従来非正規雇用者は主婦や学生という家計の担い手ではないパートが多かったのが、最近では家計の担い手が非正規雇用となる例が増えてきており、日本型雇用に守られた「正社員」のメンバーシップの恩恵を受けられる者と、非正規のままで恩恵に与れないものの二分化が進んでいる。「非正規という言葉の一掃」とは特に後者の意味の非正規雇用者の一掃を意図すると考えられる。
今回のガイドラインの大きな問題として、個人的には①大多数の会社が正規と非正規で異なる賃金の決定基準・ルールを採用しているのに、ガイドライン本体は「同じルールを採用している」という非現実的な前提をもとに作成されている、②手当や福利厚生の均等・均衡化というのは、非正規雇用者の一掃という目標からすれば本質から外れる部分なのに、やけにこちらに力点が多い、ということを感じていた。

大阪医科大学・東京メトロコマースの2判例はあるいは②で述べた本質に切り込むことを意図しているのかもしれない。

なお、認容された退職金や賞与は一人あたり東京メトロコマース事件が50万円弱(退職金)、大阪医科大学事件が約110万円(賞与)である。個々の事件としては大した額ではない。しかし、制度変更するとすればとてつもない多額になる。

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