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2019年2月16日 (土)

継続雇用制度の下ではどれほど賃金水準を下げられるのか―トヨタ自動車事件・九州惣菜事件・京王バス継続雇用事件(2)

 「どれほど賃金水準を下げられるのか」というタイトルをつけておきながら恐縮であるが、本来「どれほど労働条件を変更できるのか」とすべきであったかもしれない。

 さて、この記事を書くきっかけになった京王バス事件についてである。
 事案は、バス会社において65歳の定年後再雇用時に「継匠社員」という正社員バス運転手と「再雇用社員」という車両清掃を業務とするパートタイマーの2つの制度を設けていた。バス運転手として定年まで勤務した原告ら3名は「継匠社員」での勤務を希望したが、「継匠社員」採用の選考基準を満たさなかったため、会社側は「再雇用社員」としての雇用を申し込んだため、原告らがこれを不満として「継匠社員」としての地位確認等を求めたものである。「継匠社員」の基本給は19万5000円、原告の主張によれば賞与は年間40万円~60万円程度である。「再雇用社員」は時給1000円で週3日8時間勤務で、月給実績は概ね10万円弱、賞与は10万円を年3回30万円である。
 なお、原告らいずれもは京王バスの新労組(非主流で会社に対立的)な組合の幹部であった。

 前回の記事で述べたように、賃金と職種と分けて考え、賃金についてはトヨタ自動車事件同様に「無年金・無収入の期間の発生を防ぐという趣旨に照らして到底容認できないような低額の給与水準」を採用するのであれば、到底容認できないような低額な給与水準とは言えないであろう。年収150万円弱は、トヨタ自動車事件の原告を上回っている。なお、京王バス事件では定年前の給与水準との比較は問題とされていないためは不明であるが、トヨタ自動車事件は970万円という高額であった。蛇足であるが、京王バス事件では労働条件について「度重なる労使協議を経て,被告らの当初提案につき修正を重ね」再雇用社員の賃金について,被告らの当初提案は,時給を900円,賞与を不支給とするものであったが,労使協議の結果,時給が1000円,賞与は年間30万円となった」と認定されている。

 職種については、労働政策審議会の平成16年1月20日「今後の高齢者雇用対策について」との建議で、「65歳までの雇用確保の方法については個々の企業の実情に応じた対応がとれるようにするべき」としていたことと「平成24年改正後の同法9条2項も,継続雇用制度には特殊関係事業主との間における労働契約の締結が含まれる旨を定めており,継続雇用制度において定年前と異なる労働条件を採用することを当然に想定しているものと解されること」を理由に「個々の事業主の実情に応じた多様かつ柔軟な措置が許容」されると判断している(但し、高年法9条1項は私法的効力を持たないという文脈)。前回の記事で、私が再雇用時の職種については労使の協議に委ねるべきとした理由と酷似している。
 京王バス事件の判断はトヨタ自動車事件と九州惣菜事件の判断とは矛盾しているといえるのではないか。トヨタ自動車事件や九州惣菜事件事件が定年前の職務との同質性とか継続性を要求した理屈には無理があり、批判が多い。事案の中身としてもトヨタ自動車事件にかなり似ていると言えるので、結論が異なる本件は新判断と言っていいと思う。
 東京地裁労働部が批判の多かった2つの高裁判決に反してこのような判断をしたことは大いに意味があり、今後は京王バス事件の方が主流になりそうである。
 
 この判決の報道(例えば、http://news.line.me/articles/oa-bengo4com/d933e9101c5d)に接した際は、「いかにも露骨な組合つぶしっぽいけど、どうやって使用者側が勝訴したのか」というのが第一の疑問だった。
 報道に現れていなかった事実としては、「継匠社員」への選考基準は直近5年「わずか10%程度の社員しか取ることのない最低評価を,定年前直近の5年間の評価期間中3年間以上にわたって取らないよう求めるものにすぎない」ものであったこと、そして原告らは5年連続最低評価を取った主な理由は肉声マイク放送や会社の増務に応じていなかったことが上げられる。肉声マイク放送の拒否や増務要請の拒否は原告らの属する新労組の方針であったようだが、新労組組合員の中でもこれに応じて「継匠社員」として再雇用されたものもいるようである。判決では肉声マイク放送や増務要請に応じることの合理性についてもかなりの紙面が割かれているが、一見して不合理なものでない限り労働者は使用者の指揮命令に従うべきであって、会社の方針が変わるまでは服するべきであろう。

 京王バス事件を、労働条件の決定について労使協議が十分になされていたことを重視したとの読み方も可能であるかもしれない。たしかに判決は「再雇用社員制度に係る労使交渉の経緯等も踏まえれば,原告ら主張の諸点をもって再雇用社員制度が継続雇用制度に当たらないとみることはできない」と述べている。原告は「再雇用社員」は,職種変更や賃金の低額化の面から高年法の趣旨に反するので、高年法が予定する継続雇用制度に当たらないという趣旨の主張をしていたのに対応するものである。が、この主張はいかにも無理筋であって、「労使協議が十分になされていた」ことが決定打ではない、まして本件のように賃金について協議の結果上方修正されたことを要件とするような趣旨ではないと思われる。もっとも、労使の協議を十分にすべきはそもそも当然であるし(最終的に妥結を見ないこともあるだろうが、それはやむを得ない)、少なくとも再雇用制度における労働条件の合理性を支える一つの要素になることは間違いない。

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