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2017年5月

2017年5月23日 (火)

平成29年司法試験会社法(商法・民事系第2問)

 恒例ですが、法務省から問題が公開されたので、やります。
 今年はほんとに時間がないので、ポイントだけ。
http://www.moj.go.jp/content/001224572.pdf
設問1(1)は、定款に記載のない設立費用という典型論点です。判例は定款で定めた設立費用の範囲で会社に帰属するという立場です。定款では80万円が限度なので、判例の立場では賃料か給与かどちらかのうち(あるいは両方合計で)20万円支払われなくなります。まさにこれが学説の批判するところですが、批判して学説の立場をとるか、そういう批判はあるがなんとか順位付けをするしかない(時期順等)とやるかのどちらかでしょう。そうひねりがあるとは思えません。
設問1(2)は、財産引受というこれも典型論点です。一見して不当なFの要求に対し、追認を認めない判例の立場からどうするか、あるいは判例を批判してどのような立場をとるか、というあたりがキモでしょう。ただ、実務家たる弁護士の立場ならば、判例に真っ向から反対するのではなく、追認不可という判例の立場をもとに、Fの追認拒絶(履行拒絶?)が信義則に反すると組み立てる方がもっともらしいでしょう。有名な最高裁の事例は10年だったか経過した後ににわかに無効主張したもので、無効主張は信義則に反するとしました。信義則の適用類型のうち権利失効の原則が働くような場面です。本件は権利失効ではありませんが、禁反言の原則が妥当するとして無効主張は信義則に反するとやれるのではないでしょうか。会社法では事後設立に検査役の検査が不要となったので、追認不可という判例の立場も十分有力でしょう。追認拒絶を信義則違反とみれば、事後設立同様の手続が必要となると考えれば多分いいのでしょう。あるいは、財産引受の潜脱を重視するなら、検査役の検査は必要といえるのかもしれません。この辺はよく知りません。
設問2、3は自分でも恐ろしくなるくらい演習で出した問題とそっくりなので、受講した学生はバッチリではないかとおもいます。MBOとそれにまつわる総会決議の瑕疵という出題をしています。改正会社法では株式併合でのMBOも多くなったということも解説しつつ出題していますね。本問はMBOではなく、単に少数株主の締め出しであるわけですが、会社法上少数株主の締め出しは予定されていることを踏まえつつ論じることになりましょう。
①持株会の会員Kが株主名簿上の株主Hの代理人として議決権を行使した点は、議決権の代理行使を制限する定款規定の有効性とその効力の限界というまたまた典型論点です。私は学生に、A弁護士代理人の議決権行使拒絶、B閉鎖会社で病気等で他に味方の株主がいない場合、の2パターンしか出題はないだろうと言っていました。が、なるほどこういう事例がありうるかと感心してしまいました。まあ、私が学生に勧めているように判例は総会屋時代の過去の異物と批判して定款による制限自体無効としてしまってもいいですし、判例を前提としても書面行使ができない乙社では実質的に議決権行使の機会が奪われる、また実質的に共有株主であることなどを重視して効力が及ばないとやってもいいでしょう。
②基準日における株主名簿上の株主ではないが、株主であることに間違いないLの入場を拒絶した点はどうとらえるべきでしょうか。相続の場合は株主名簿の書換えを対会社の対抗要件と考えないとするのかどうか、なんだか設問1(1)同様、久々に会社法改正と葉玉説の話がピックアップされているかのようです。この論点自体は悩ましいのですが、まあ両説のポイントを踏まえて自説を明らかにすればいいのでしょう。
③説明義務違反について、株式併合は180条4項で必ず理由の説明が求められていることに注意を要します。一般的な説明義務より強い説明義務を負わせているのでしょう。ここでは、単純に「甲社の支援による経営立て直しという本来の目的を説明しなかったから説明義務違反だ」と考えてしまいがちです。が、この問題は難しいです。そもそも実務では「真の目的」など認定不可能でしょうが、司法試験の出題では成り立ってしまうのがおかしいとは思います。若干場面が違いますが、MBOなど設問のような形式的な説明で済ませていることは通常でしょう。まさか「お前ら少数株主が邪魔なんじゃ」とはいわず、「上場コストが…」「抜本的かつ迅速な経営改革が…」となるのでしょう。私の感覚的には説明義務違反とは言いにくいように思います。
④特別利害関係人の論点はMBOで一般的なものです。インターネットナンバー事件の指摘のように、会社法上少数株主の締め出しが予定されているとすれば、よほどのことがない限り著しく不当な決議とは言えないのでしょう。本問ではMBOのような構造的な利益相反とか、情報の非対称性などを論じさせたい趣旨とは思えないので、あっさりやっておけばいいのでしょう。
設問3は、総会で反対の議決権行使ができなかったLが株式買取請求権を行使できるか否かという問題です。基準日以降に取得した株主に買取請求権の行使を認めた下級審裁判例があったと思いますが、あれは確か譲渡による取得ではなかったかと思います。基準日以降に譲渡により取得した者は、買取請求権の行使ができない可能性を知って取得したともいえるわけですが、相続の場合はそうは言えません。「議決権を行使することができない株主」に該当するとしてしまっても良いように思います。いずれにしても、設問2の②における自説と論理的に整合していることが必要ですね。
最新判例であるジュピターテレコム最高裁判例は、TOBもなかったので、さすがに聞いていないと思います。が、平成26年改正で買取請求権ができたことから、株式併合による締め出しが広く用いられるようになったことなどはチラと見せておいた方がいいかもしれません。TOBが強制されない本問のような事例では、甲社が60%を買い集めてしまえば、のこる40%の時価はゼロに近くなってしまいます(その意味では甲社はHやIの締め出しまでしない、根をあげて安価に手放すまで待つとか、配当を出さずに乙社の企業価値を下げて、他方合法な範囲で乙社の利益を吸い上げることを考えるのが実務家としては手だと思います)。この場合の公正な価格は、ジュピターテレコム事件の最判を参考にしつつ、甲が買い集めた価格の平均とするなどの考え方はありうるかもしれません。そうでないと、HIの保護のため足りないようにも見えます。

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