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2016年5月18日 (水)

平成28年司法試験民事系第2問(商法、会社法)について

 法務省の問題公開、早くなりましたね。ということで、恒例のやつをやります。
1 今年の問題は、論点はシンプルで、そうひねりもなく、日頃の実力が出やすいものであったと思います。あんまり面白みのある問題ではないですが、受験生の実力を図るにはまあいいのでしょう。
 あと、多分漏洩問題による考査委員編成の変更による影響か、設問3などはおそらく実務家委員の作成ではないかと思います。設問1、2は学者委員によるかもしれませんが、従来ほどひねってあるわけでもありません。
2 設問1(1)
 取締役会決議の瑕疵という問題ですが、一部の取締役が外国にいて参加できないタイミングを見計らって招集通知を送るというパターンはまったく平成19年の問題と一緒です。毎年毎年言っていますが、司法試験は超ワンパターンですね。
 Aへの通知もれが違法であることは明らかです。議題がAの解任であったので結果的にAは特別利害人にあたります。が、特別利害関係人は採決に参加できないことはもちろんですが、審議、つまり議論自体には参加できるというのが通説であったと思います。なお、採決時には退席を求められれば退席しなければならないというのがこれも通説だったと思いますが、これは票に計算されないとしても、本件のように特別利害関係人(特に代取解職場面では社長)がその場に存在すること自体がプレッシャーになり、自由な意思決定を阻害するという理由です。さて、審議に参加できる以上、特別利害関係人だからといって通知をしないことは許されないというわけです。
 審議にすら参加できないという説をとるにしても、取締役会は株主総会と異なり招集通知で議題を明らかにする必要がなく、議論すべき事項に制限はありません。本問では議題を明示していませんが、仮に「議題はAの解任」と明示していたとしても、Aが特別利害関係人であることを理由に、やはり通知もれの違法性がなくなるとは言えません。
 問題は、最判に従ってAが出席していても決議の結果が変わらなかったような特段の事情があるかですが、ないとすべきでしょう。議題を明示して招集通知を発送していれば、Aが他の取締役に働きかけることができることはもちろんです。本問では議題を明示していないところがミソですが、BとAが対立を深めていたタイミングでBが臨時総会の招集をするというのであれば、Aの解任等、Aの排除やBの支配力を強める議題にかかるものであると容易に予想がつきます。Aの立場であれば、事前に通知があれば他の取締役に働きかけること、本問では実は3人は既にB派に回っていたわけですが、寝返り工作をする機会があったといえます。
3 設問1(2)
 平成4年の最判でしたか、報酬額は委任契約の内容となっているから無報酬に変更する旨の総会決議をしても、同意ない限り報酬請求権を失わない、これは常勤取締役→非常勤取締役と、職務内容に変更があっても変わらないというものがあります。
 これに従うと、従来の150万円のママということになりそうです。が、この問題の面白いところは、代取の解職自体は文句なしで有効であり、平取ならば月額50万円になるという運用が従来からなされていたというところです。結論としては月額50万円とするのが良さそうですが、最判との関係をうまく説明する必要があります。
 「職務内容の変更」ではなく「本件では代表取締役と平取締役という地位の変更があり、職務内容にとどまらず会社に対して負う法的な責任まで異なるから、平成4年最判の射程外である」という議論は成り立つかもしれません。あるいは「同意があった」という構成で、「もともと平取は50万円という運用があり、それが慣行化しており、万一代取を解職されて平取となった場合は50万円になることに同意していた」とするほうが無理がないかもしれません。
4 設問2(1)
 339条2項の「正当な理由」と損害の範囲について聞きたいだけの問題でしょう。私はどちらもこれまでに勉強したことがありません。多分受験生も知っている人などいなかったのではないでしょうか。で、私はいつも言っています「知らない問題が出ても、問われていることが明確であれば、それはチャンスでしかない。肯定説・否定説両方のメリット・デメリットを考えて、結論を出せばよい」と。
 正当な理由ですが、Aが進めた海外事業が結果的に失敗したことが正当な理由になるかということが問題であることは明らかです。経営判断原則のようなもので、結果的な失敗が正当な理由になってよいのか、取締役の経営判断を萎縮させないかという議論がありうるでしょう。他方で、損害賠償責任を論じる場面ではなく誰に経営を委託するのかという場面の問題であること、要するに「会社は損害賠償を払わなければ経営判断に失敗した取締役をクビにできないのはおかしい」といえます。直感的には後者の主張の方がもっともに思えます。受験生としては、「取締役の対会社等に対する損害賠償責任の問題と異なり、取締役の解任というのは株主が今後株主共同の利益を最大化するために誰に会社の経営を委ねるのが適するのかという場面の問題である。株主に対して経営判断に失敗した取締役を取締役の地位に留めることを強制することは不当であり、経営判断の失敗も特段の事情ない限り正当な理由となる」とでもやれれば十分でしょう。
 このまま行くと損害の話が出てきません。が、本件は一度はAに招集通知を送らないで代取から解任する取締役会を開催しているという事情、背景としてAとBの対立があったという事情などがあり、これらの事実関係からすると実質的には経営判断の失敗が理由でなく、Aの勢力を削ぐ目的であると認定することが可能かもしれません。そうして損害の話につなげることは可能です。
 損害論は非常に悩ましいのですが、残り任期が8年とかなり長く、直感的には8年分の報酬4800万円(50*12*8=4800)を全額損害と認めるには抵抗があります。どう理論構成すべきかは悩みますが、閉鎖会社で、単独で過半数を有しているわけでもない取締役Aが任期8年間地位を守れる可能性は必ずしも高くない、支配権の変動に伴い解任される場合は予想されるなどと言って「半分」とか言い切ってしまう手はあるかもしれません。裁判所ならこういうドンブリな判断をしそうではあります。
5 設問2(2)
 854条1項2項に則って要件を検討すれば良さそうな問題ですが、「否決決議」がなく、流会であるということで、流会に類推適用できるかどうかということを聞きたいのでしょう。聞いたことのない論点ですが、例によって問われていることは明白です。
 オーソドックスにはBは少数株主として再度Aの解任を議題とする総会の招集を求め、それでも総会が開催されなければ裁判所に総会招集許可をもらって総会を開催することになります。が、A自身は25%としても、多数派を味方につけていることから、延々と流会を繰り返すということになりかねません。(ところで、これを書いてて、そういや総会招集許可をもらった場合に定足数そろわないと常に株式総会が成立しないのか、という疑問が湧きました)
 そうすると、解任対象の取締役が株主の過半数を掌握しているなど、株主総会を開催しても否決決議すらえられず、流会となる見込みが高い場合は、流会になった場合も「否決されたとき」に含まれるという解釈が成り立ちそうです。
 余談かもしれませんが、上記オーソドックスな流れは必ず書いておいたほうがいいでしょう。加点事由になると思います。
6 設問3
 これは日本システム技術事件の最判をもろにネタにしたものです。内部統制システム構築義務の意義、内容と具体的な事実関係のあてはめを問おうとしたものでしょう。
 流れとしてはCについて内部統制システムの構築自体はされているとした上で、その運用に際し最判に従い「通常容易に想定し難い方法」があるかをあてはめていくことになりましょう。あてはめの問題ですから、結論はどっちでもいいのでしょうが、よくある失敗は「最判と同じだ、通常容易に想定し難い方法じゃん」と飛びついて結論を出してしまうというやつです。
 まず「相見積もりをとる煩雑さを回避するために同一工事を分割して見積もりをとってくる自体は容易に想定できる」という問題については問題文で「巧妙に欺いた」とされているから否定することになるのでしょう。
 最判の事案と違いをいうとすれば、売掛先とグルであること、つまり売掛先への監査法人の照会はそもそも無意味であるという事案であることです。最判の事案では、営業部長による一方的な売上水増しで、売掛先とはグルではなかったので、監査法人の照会書をうまいこと言って返送前に営業部長側が回収して架空の額を記載して返送していたというような事案だったはずです。部長レベルの売上水増しとは、販売成績をよく見せるという個人的な動機であり、もともと会社に予想される損害は少ないのではないかといえます。他方、グルになって売上を水増しして横領するというのは会社にとって予想される損害は多いと言えます。売掛先への照会のみならず、建築会社であれば、工事内容と見積書の精査をより精密に行うべきであった、5000万円もの多額の水増しを見抜くことができなかった点でなおシステムの構築・運用に問題があったのだという立論は不可能ではないかもしれません。
 以上のように書いて見ましたが、おそらく出題者はそこまで考えておらず、本問ではオーソドックスに通常容易に想定し難い方法だった、と言ってしまっていいのでしょう。
 Dの責任はわかりやすいでしょう。Cを信頼して内部通報を放置したのは任務懈怠と言っていいでしょう。損害論が問題ですが、2週間で不正が暴けたのですから、通報は平成27年の3月末であり、平成27年4月末の3000万円の支払いはストップできたと言えます。3000万円が損害と言っていいでしょう。学生によく言っていますが、損害額の認定は必ず丁寧に見る必要があり、安直に5000万円とやった学生が多いでしょうが、それは点数の取り逃がしというべきです。

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