« 打切補償によって解雇制限が解除される労働者の範囲―専修大学事件 | トップページ | ミャンマーのニューヨーク条約加盟表明と今後の動向 »

2013年5月18日 (土)

平成25年司法試験会社法について

 恒例になってきたが、平成25年の新司法試験会社法の問題を問いてみたので、記事にする。
 印象として、設問3などはよくある新株発行の効力問題を一捻りしてあって面白いが、総じて見るとそれほど心踊らされるようなものはないなあ、というところである。まあ、別に私の心を踊らせるために司法試験問題があるわけではないので、受験生の能力を適切に図るという意味ではよい問題なのだろうと思う。
 問題文を要約すると次のとおり。
1 甲社の株主と持株数は次のとおり。A、B、C、Qが取締役で平成23年、平成24年定時総会で取締役報酬総額は6000万円と決議され、具体的な配分は次のとおりだった。
        持株数   報酬額
 創業者妻Q  120  1000万
  長男 A  400  2000万
  二男 B  250  1500万
  三男 C  150  1200万
 Aの子 D   30
 創業者弟E   50
2 平成25年定時総会に先立ち、Qが死亡したが、遺言なくかつAないしCは甲社株の権利行使社について協議したがまとまらず、BCは権利行使者をBと合意しその旨甲社に通知した。
3 EはF(Aの友人)に50株を譲渡する契約を締結し、甲社に譲渡承認請求書を提出したが、BCの反対を恐れたAがその事実を伝えず、2週間が経過した。Fは株券の交付を受けたが、名義書換の請求はしなかった。
4 25年総会の招集通知には、①計算書類の承認議案、②取締役候補として、A、B、C、D、総務部長Gとする旨が、取締役会全員一致の上で記載され、AないしDとF(Eではない)に発送された。
5 25年総会にはAないしDが出席し、FはDを一切の議決権行使の代理人としていた。議長Aは総会の場において報酬枠の上限を2億円に引き上げる旨提案し、Bが反対したが、Aは採決することにした。採決の結果、もとQの120株についてAの同意ない権利行為者の指定であるから無効であるとの前提で、賛成480(ADF)反対400(BC)で可決を宣言した。
6 その後の取締役会で、(a)Aを代取に選任する、(b)Aの報酬額を2億円にする(他のものは従前と変わらず)、(c)株主割り当ての方式による新株発行(5株にたいし2株の割り当て、一株200万円)とする提案がされた。BCは反対したが、A、D、Gが賛成し、賛成多数で可決された。
7 6の新株発行は、Aが支配権維持のため、BCが払込金を用意する間をあたえず、他方自分はあらかじめ払込金を用意して、行ったものであった。果たしてBCは資金が用意できず、割り当てを受ける権利を行使できなかった。


 設問1は、甲社がFを株主として取り扱うことができるかを問うものである。
 平易な設問といって良かろう。
 株券発行会社において、名義書換が会社に対する株式譲渡の対抗要件である。が、会社の危険で名義書換未了の株主を株主と扱うことは許される。この判例法理は超がつく基礎知識に属する。
 ここでの問題は、①譲渡承認請求をいわばAが握りつぶしたこと、②FはAにとって都合のよい株主であり、恣意的な取り扱いではないか(=名義書換未了の株主を株主と扱うことは許されるという判例法理に対するもっとも有力な批判が当てはまる事例であること)である。
 ①のような問題は初見である。どう考えるかは非常に難しいが、本件Aのような行為を許すのであれば会社法145条1号は骨抜きになりかねないことを強調すれば、同条文にかかわらず譲渡は無効と解すべきことになろう。ただ、後述の株主平等原則違反の問題ですくなくとも本事例では本質的な問題は片付くので、やはり条文どおりでよいというのが、文献等を調査しない段階での私の結論である。
 ②は本件の諸事情、FがAのいわば紐付きであること、BCによる権利行使者の指定は否定したことなどからすれば、平等原則違反と考えるべきだと思う。


 設問2は、(1)報酬枠増額の総会決議の効力を否定するためにBが採ることができる手段、(2)甲社はA、D、Gに対して報酬の返還を求めることができるかを問うものである。
 (1)については、具体的配分を役会決議に委任することの可否という前提論点に挨拶しておいた上で、本件固有の問題に触れることになる。
 まず、招集通知に報酬議案の記載がなかった点については、全員出席総会の成否が問題となろう。すなわち、Fは代理人Dを選任し、Dが出席しているから、招集通知に報酬議案の記載がないとしても一応不意打ちの問題は存在しないとも言い得る。ただ、Bが採決前に採決に反対していることから、すくなくともこの議題に関する株主総会の開催についてはBは同意していないと考えるべきである。実質的にも、単に全株主が出席してだけで予想していなかった議題に関する決議がなされるとすれば、準備期間を奪うことを肯定しかねない。
 次に、Q株の権利行使者指定は共有に関する管理行為であって過半数で決するというのが最高裁判例であり、これに従うとBCの権利行使者指定は有効ということになる。ただ、権利行使者の指定が権利濫用になる場合があるというのが高裁判例(大阪高判平成20年11月28日)で、本件をどう考えるかが一つのポイントとなる。大阪高判の事例は、事前の協議もなく、権利行使者指定にかかる株式が対立グループ同士の過半数を左右するもので、それを奇貨として指定を行なって会社の経営を混乱に陥れようとした、というものである。本件は、BCらに悪しき意図は見られないし、事前の協議も経ているし、むしろAがもとQ株が過半数を左右するものであることを奇貨として恣意的に取り扱っていると言えそうなので、BCの権利行使者指定は権利濫用にあたらないと考えるべきである。
 さらに、Aが特別利害関係人にあたるか、という問題もある。この点は、総会決議の段階ではあくまでも報酬総枠の増額だけであるから、後の役会でAの報酬に配分することが意図されているとしても、特別利害関係人に該当するというのは難しかろう。なお、問いには直接関係しないが、役会決議の際には「総額」の枠は決まっていて誰にいくら分配されるかは会社の財産状況に影響を与えるわけではないから、やはり特別利害関係人には該当しないと考えることになろう(この点は、(2)で触れておいても損はないだろう)。
 (2)については、設問がわざわざ「A、D、G」に分けて聞いていることに注目する必要がある。Aについては本件報酬決議の効力がストレートに問題になってくるが、Dは従前の報酬額と変わっていないこと、Gは新規就任であり従前の報酬額はないことというのが特色である。最高裁判例(平成15年2月21日)によれば、総会での報酬決議がない限り1円の報酬請求権もない、ADGは報酬全額を返還すべき、ということになると考えるのが素直である。設問がADGを分けたのは、本当にそれでよいか悩みを見出して欲しいということであろう。どう考えるべきかは難しく、資料も見ていないのでよくわからないが、例えばDやGの報酬額の範囲では株主全員の同意があったと見ることができるなどと構成することが可能ではないか。

 ※平成25年5月20日追記:A・Dについて、思えば取締役報酬については総額に変更がない限り毎年決議する必要はないから、本件報酬決議が無効となることにより、「総会での報酬決議がない」とはいえなさそうである。だから、「総会での報酬決議がない限り1円の報酬請求権もない、ADGは報酬全額を返還すべき」としたのはややミスリーディングであった。上限枠を決める総会決議はある。具体的な分配額についての平成25年総会後の役会決議をどう考えるのかの問題なのだろう。


設問3は、新株発行の前後においてBが採ることができる手段を問うものである。お決まりの設問であるが、事前の手段として差止請求と仮処分について書いておく必要がある。事後は新株発行無効の訴えだが、無効事由に該当するかどうかである。
 第三者割り当てでないのが本文のミソであるが、支配権維持目的であること、資金調達目的も特に見られないこと、払込に要する額が高額であり現にBCは準備できなかったことなどを考えると不公正発行に該当すると言えそうである。
 無効事由になるか否かについては、従来の判例を前提とすると該当しないということになりそうである。しかし、非公開会社において特別決議を欠く第三者割当による新株発行については無効事由となるというのが最新判例である(最判平成24年4月24日)。この判例を踏まえると、実質的に第三者割当に近い本件も同様に解するべきということになろう。


 全体として、最新判例を含めた最高裁判例をしっかり理解していることを前提に、その応用力を問うものであって、よい問題といえるのだろう。権利者行使の指定に関する最高裁判例(平成9年だったか?)や、報酬請求権に関する平成15年最判についてはやや細かい知識かもしれないが、短答対策としては触れているのではないか。そこを足ががりにすることになろうし、仮に知らなかったとしてもなんとかなるだろう。学生には常々行っているのだが、頼むから答案上に判例があること、自分が判例を理解していることを明示してほしい。採点実感でさんざん言われていることである。

|

« 打切補償によって解雇制限が解除される労働者の範囲―専修大学事件 | トップページ | ミャンマーのニューヨーク条約加盟表明と今後の動向 »

会社法」カテゴリの記事

コメント

設問2小問2

受験した者です。下記の構成で論じました。

Aの報酬増額分は、報酬に名を借りた利益供与である。
ADGは120条4項の関与取締役として賠償責任を負う。⇒Aは免責なし。⇒DGは賛成した取締役としての責任(規則21条2号イ)を負う。

投稿: 正義君 | 2013年6月10日 (月) 20時24分

投稿の趣旨がよくわかりませんが、少なくとも出題者はそのような記述を期待していないと思います。ADについては本年度の総会決議と取締役会決議が無効であることを前提に、前年度の総会決議等は未だ有効であるから、前年度が踏襲されるというのが基本的な流れでしょう。新任のGについては前年度の決議がないので、全額不当利得になるというのが基本だと思います。ようするに報酬に関する総会決議は毎年いらないという知識と、具体的事例に対する応用を聞いたものでしょう。

利益供与の認定は無理がありすぎると思います。権利行使との関連性が言いにくいとおもいます。興味があれば、利益供与ハンドブックという本がローの図書館にはかならずあると思うのでご参照ください。私は手元にないので、見ていません。

投稿: 野田 | 2013年6月11日 (火) 08時10分

本の名前ですが、利益供与ガイドラインとか、ガイドブックとかいう名前だったかもしれません。東京弁護士会の会社法研究会かなにかが出しているやつです。

投稿: 野田 | 2013年6月11日 (火) 08時18分

簡単ですが、こんな感じです。⇒「何人に」Aはあたる。「株主の権利の行使に関し」⇒目的は甲社の株式取得(判例)。「財産上の利益」⇒H24との差額1億8千万。なぜならBCの報酬はH24と同額なのにAだけ増加。Aの報酬を増加させる合理的理由もない。報酬に名を借りた利益供与が目的。

ご指摘のとおり、「株主の権利の行使に関し」の要件が問題となると思いました。
百選12⇒「株式取得の対価のための支出は直ちに利益供与にはあたらない。しかし、議決権等の行使を回避するための目的がある場合は、これにあたる。」とした判例がある。この判例は、交付目的を重視したものと解されている。
⇒本件は、回避目的でないが、将来の議決権等を行使する目的でその対価のための支出であるといえるから、これにあたるといえる。
・・・・・
この目的については、D及びGは、Aから事前に話を聞いていた。⇐問題文の記述
この構成だと、ほぼすべての問題文の事情がうまく使えると思いました。


投稿: 正義君 | 2013年6月11日 (火) 09時26分

重ねてですが、投稿の趣旨がよくわからないので、どうコメントしていいか苦慮します。投稿はもちろん大歓迎で、嬉しいのですが。

先のコメントに尽きているのですが、まずは利益供与ガイドラインを見てご自分の見解の適否を確認されてはどうでしょうか。

投稿: 野田 | 2013年6月11日 (火) 09時59分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 平成25年司法試験会社法について:

« 打切補償によって解雇制限が解除される労働者の範囲―専修大学事件 | トップページ | ミャンマーのニューヨーク条約加盟表明と今後の動向 »